第486話 ラストシーン

翌日、今日でほぼ撮影はおしまい!

河川敷での一夜が明けた場面から。


保利『…緊張するなぁ。』


俺カレのMR.AMシフトこと保利くんが今日は来てくれた。

最初は難色示したんだけど、春休みに一回同窓会に出てるし、今回はいつものメンバーだし?…中学校一回くらい行ってみたくない?って聞いたら…一回だけ。俺カレシフトもあるし一回だけなら…って。

俺たちはもう制服預かってるから制服姿だけど保利くんはシンプルなTシャツにパンツ。居心地悪そうにしていた。


『『『こんにちわ。』』』


お盆休みで宿直の先生くらいしか居ない中学校はガランとしていて不思議。

保利くんはキョロキョロ辺りを見回す。


玄関から右に曲がり道なり、体育館の更衣室で北翔の制服に着替える。

…実質東光だって似てる制服なわけで。


5分後。


保利『…手間取っちゃった…ネクタイが上手くいかない…。』


『…うちの中学は学ランだったもんね。』


宏介『…ネクタイ。』


宏介が保利くんのネクタイを直して皆口々に、

いいじゃん、格好良い、大人っぽい、すぐ慣れるよ。

なんてコメントを言い合う。


保利くんは地に足が着かない風情でキョロキョロしながら、通えなかった中学校の体育館を堪能していた。

俺が青井が体育館の思い出を語るとそれを眩しそうに目を細めて聞いていた。見学してもいいんじゃ無い?

あっちゃんも気付くとフラフラ中学内を見て回ってるからね?


そんな感じで盛り上がってると今日は仕事で来てた柳先生が香椎さんと現れる。

柳先生は優しい微笑みを浮かべながら、


柳『…保利くん、久しぶり。

君の担任の柳だよ。』


…担任だったって言わないで担任って言った柳先生に驚くとともにこうゆう先生なんだよなぁって思い出す。

飄々としてるけど生徒一人一人よく見てて肝心なとこはアドバイスしてくれる。

生徒の自主性に任せつつ俺が戦犯扱いされそうになった時止めてくれたし、美術室貸してくれたし。


保利『…あ、お久しぶりです…。』


柳『何回か会いに行ったけど…大きくなったなぁ。』


保利『…いや、あの…ご迷惑をかけて…。』


保利くんは恐縮しきり。でも柳先生は感無量って面持ちで再会と成長を喜んでいて…。

なんか良いよね。

後で聞いたけど柳先生も卒業後に一回、定時制高校や大検のパンフや手続きの紙を家に届けて…その頃はもう会えなかったらしく心配していたらしい。


保利くんは恥ずかしそうに顔を赤ながら近況を柳先生に話す。


保利『…そんな感じで…今は東光エリアのお店でバイトしつつ…来年東光高校を受験しようと考えています…。』


柳『…よく外へ出れたな…しかもアルバイトまで…

良かった…ほんとに。』


先生が涙ぐんでてそれを見た保利くん泣きそう!


香椎『ほらほら♪そろそろ撮影始まっちゃうよ?』


明るく可愛い香椎さんスマイルで俺たちは追い立てられる。

柳先生も良かったら見に来てくださいね♪って香椎さんの誘いで先生も旧三年一組教室へ移動する。


窓際1番後が保利くんの指定席だった。

そこに主が来ない机は一年置かれていた。

撮影前にちょっとそこを話す。


保利『…ここが僕の席…。』


『そうそう、隣が小石、前が俺、斜め前が香椎さん。

俺の前に二村さん、一条さん。

その班で修学旅行も行った。』


保利『…あの時立花くんが修学旅行楽しくて楽しくてたまらなかったけど僕を思い出してくれたって言ってくれたよね?』


俺は頷く。横の香椎さんも。


保利くんは泣き笑いみたいな顔で、


保利『…行けば良かったな。

中学校行けば良かった。面倒だろうが友達少なかろうが。

こうゆう思い出が僕には無い。

引きこもってた時間は…思い出にならないんだ。

立花くんに誘って貰って…バイト初めて…

三年引き篭もった時期より…俺カレの数ヶ月の鮮明なこと!』


『…そう思ってくれるなら、誘って良かったな。』


横の香椎さんがうんうん頷いて嬉しそうに、


香椎『そうだよ!まだ遅く無い!

これから思い出いっぱい作って!来年から東光入学すれば…!』


保利『うん、がんばるよ!

…もし僕が登校してたらそれこそいじめられてたかも知れない…。

今日は無かったはずの中学校生活を一日だけ味合わせて貰うよ。』


設定上は高校一年生なんだけどね。

なぁに細けえことはいいんだよ!



☆ ☆ ☆

撮影開始!

教室に青井が入ってくるとクラスがどよめいた。青井も頬が腫れて酷い顔をしている。もちろん俺も。メイクで2割マシ酷いことになってる。


朝HRが始まる直前、香椎さんが教壇に立ち皆の注目を浴びる。


『昨日の夜、青井くんと立花くんがケンカしてると他の生徒から連絡がありました。2人とも本当?』


『やった。』

『やったよ。』

※ヤッた発言に小幡さんが反応しそうになりました。


『何で?二人してそんな怪我して!学校はリングじゃないんだよ!』


そこから香椎さんの説教が始まる、史実通り。

自由は好き勝手にやって良いとは違うこと、暴力で怪我すれば事件になるし、家族を心配させる。当たり前のことだけど人に思いやりを持って欲しい。私はみんなが好きだからみんなが傷つけあってるところを見たくない。

だからこそ心も体も傷つけるいじり、いじめ、暴力は絶対に許せない。

何かあれば私ができることは何でもするから言ってほしい。

そんな荒削りなスピーチ。


『二人とも絶対にもうケンカしないでね!罰としてクラスのゴミ捨て2人で2カ月!』


ここまで黙っていた青井が口を開いた。

青井の顔は憑きものが落ちたように穏やかだった。




『…聞いて欲しい。

喧嘩だけじゃないんだ、俺は立花や田中たちを…』





5秒くらい躊躇いがあった。





『…いじり…いや、いじめました…。傷付けて、侮辱して、暴力を振るいました。人として男として最低の事をしました。』



史実と違う…台本のセリフに無い付け足し…青井は泣いていた…。

後悔?自責?

あの頃は驚きが強くそこまで頭が回らなかったけど…

自分の罪を自分で申告するって勇気がいることだと思う。

まして事前打ち合わせだとそこは有耶無耶にしてイジメ駄目ぜったい!って空気へ!なんて話してたんだから。

…そこを皆の前で自分の罪を言う…そういう漢だって今は知ってる。

そんな漢が友であることがこんなに誇らしい。



クラスがシーンとする。そこまで言わなくてもいい、これからいじめに抑止力担ってくれれば今までのことはこれからの付き合い方で不問にするから!って俺は止めようとする。


『立花!言わせてくれ。謝って済むことじゃないけど。』



俺に向かって深々頭を下げて青井は詫びた。

田中くんhたち一人一人に詫びて深々と頭を下げた。



当然大問題になる。

松ちゃん先生は大慌てでこれを揉み消そうとするけど友情出演の柳先生に聞かれて大問題!

1限目は自習になり、

青井や俺、田中くんたち3人もそれぞれ聴き取り調査を受けた。



青井は自分がやったの一点張りで他のいじめに協力した奴の事は一言も喋らなかった。

小幡さんグループは戦々恐々としていた、共犯で事情聴取受けることもあるかもしれないって考えていたんだろうがいつもと違うお葬式のような雰囲気だった。


小幡『…青井…!』


小幡さんが毒づく!こっわ!


被害を受けた俺たちはこれからの青井を見て判断するがまずは謝罪を受ける。厳罰は望んでいないことを伝えた。

被害者側が厳罰を望んでいなくて学校側も事件を大きくしたくないのだろう、青井に反省の態度は十分見えて、自分で申告もした。


急いで結論を出したのか翌日には処分が決まり、青井は3日の停学になった。俺もケンカしけどいじめがあったこと、追われてるのを目撃した人も多かったため注意で済んだ。

この事件をキッカケに校内のイジメに大人たちは敏感になり、生徒たちもイジメよく無いって風潮が加速されて瞬く間にイジメは息を潜めたって描写。

この辺は田中くんのナレーションで軽く説明する。

田中くん視点で進むこの話は田中くん自身でナレーション入れる。

その為に夏前からボイトレ通って…田中くんの声はハリのある通る声になってる。



あとは田中くんのナレーションでこの事件がキッカケでいじめは無くなったこと。

しかし人間は繰り返す、どこかでまたキッカケさえあれば人は人をイジメ始める…でもイジメが無い方が何倍も楽しく過ごせる。

これはひとりひとりの意識にもかかっている。

俺は関係無い、おもしろそうだからちょっとイジってやろう…そんなノリがイジメの第一歩。

学校という狭いコミュニティに多感な思春期の子どもたちが居れば人の数だけトラブルがあるもの…そのトラブルでトラウマを作るか一生の思い出を作るかはその人と周りの人次第。

僕は友達に恵まれた…!



そんな田中くんのナレーションで一区切り!

後は足りない部分あれば個別で取り直すかも?って。

教室シーンは念入りに撮影したし、大体は大丈夫!

明日から田中くんと映像研が編集開始!


最後のシーンを撮って終了!


☆ ☆ ☆

イジメ主犯の青井は厳しい事情聴取を受ける。

やっと終わって帰るけど、イジメをした他の生徒からは無視されてしまう。

苦笑いする青井が校門から外出ると…



宏介『…こっち!』

『青井!』

田中『青井くん!』


中学校すぐ横の宏介の家、2階の宏介の部屋から手を振り青井を呼ぶ俺たち!

一瞬ポカンとして青井は顔をくしゃくしゃにして走り出す…!

その場面を後から撮影して!青井の後ろ姿からカメラは上へ向いて夕焼けを写して終了!!

お疲れ様!!



☆ ☆ ☆

…そう聞いてたんだけど。


田中くんはいやらしい笑みをて浮かべ俺を離さない。


『撮影終わりでしょ?』


田中『ラブなコメが足りないんだよぉ。』


『loveな米?

愛のあるコメントは好きだけど…?』


田中くんは悔しそうに、


田中『やっぱ高校生に見せる映画。

1時間…幸いヒロインは超美人じやない?

だからラブコメエンドも撮りたい!撮りたいんだよ!』


そう言われて俺は再び中学校へ引き戻された…!



保利『…中学校ってこんなドラマチックなの?!』


毎日こんなイベント続きだたったら体が持たないよ…!

俺の撮影はまだ終わらない。

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