第485話 河川敷と厨二病

さて、夕方から夜になってくる時間帯になり撮影再開!

ダブルノックアウトした場面で俺と青井は倒れてるところから。


田中『立花くん!』

宏介『承、思い切ったな!』


俺が身体を起こしてる所に宏介と田中くんと連れふたり。

特定出来ないように仮面を付けて変装中。


『ごめん、罠で勝っても遺恨が残るって思っちゃって…。勝手に計画変えてごめん。』



宏介『…承が勝ったから良いだろ?』


宏介が以前と同じように結束バンドで手首、肘、膝、足首を固定して動けないようにした。

うぅ…とかさりげなく青井が抗議のうめき声。


田中くんたち3人と宏介は変装して周りを囲んでもらう。

充電式のキャンプ用ランタンを3個点けてライト周りだけ明るくなる。

撮影しやすいように史実より多めに明るくライトを付ける。


青井威嚇用に宏介はバット、田中くんたちはトンカチ、ごっつい傘、釘バットを所持。

みんなに聞いてもらう喧嘩前の自分の葛藤の話。

香椎さんがクラスのいじり、いじめで心を痛め悩んでいて泣いてた話。

俺の身勝手ですまないけどよく話をして憎しみ合うような遺恨を残したくないって話。

何度も謝りながら皆に説明した。みんな納得してくれたもしうまくいかなかった時の為、予定通り正体は明かさないで青井を囲んで威圧してほしいと伝えた。



そんな説明がひと段落した頃、女子2人が現場に到着した。

あー。こんなんだったっけ?


小幡さんポジの伊勢さんはでっかい三角定規。

小学校の頃先生が算数の授業で使うやつ…。


香椎さんの方の三本ヘッドの業務用ハンドミキサー…威圧的!

仮面女子が持って来る業務用ミキサーこっわ!

そしてここで青井が目覚めて…。


『起きたか青井。』


青井『…ああ。』


『お前の負けだ。』


青井『…あぁわかってる…。』



青井は2度負けた、もう喧嘩する気は無い。好きにしたら良いって呟く。

俺は青井と語り出す。

自分のこと、クラスのこと、香椎さんが心を痛めてること。

青井にも話しをさせると青井は語る。

腕力に自信があること、剣豪とか好きなこと、調子に乗りすぎたこと。

俺が調子に乗ってるって聞かされてそう思ってたこと。


縛られてる青井と語り合うシーンは客観的に見てシュールだなって思った。

だれも茶化さず邪魔せず、お互いに独り言のような不思議な会話。


『もう2度といじり、いじめをしないって誓える?』


俺の提案に青井は頷く。


『漢同士の約束だから破ったら死ぬまで恥じてもらうから。

俺が忘れても青井は自分が誓いを破ったことは忘れないはずだろ。

一生自分とは付き合っていくんだから。』


確かこんなようなことを言った…

台本ずいぶん史実通りなんだけど…この為に録画何回見直した?

田中くんこっわ!


青井は涙を流しながら、


青井『誓う。ここにいる男達が証人だ。』


青井泣けるのか…上手いなぁ。

本当にあの頃とシンクロしているのかな?

青井はあの時感動したって言ってたもんなぁ。


ここで宏介は青井を抑える結束バンドをニッパーで切った。

宏介は仮面を外しながら言った。


宏介『男同士語り合うのに仮面や拘束なんて必要ない』


宏介の一言に涙する青井。

…俺これも青井の心を獲れた原因だと思う。

青井を男って認めて仮面を外し自分の安全を捨てて正体を明かし青井を信じるって姿勢を打ち出した宏介の器よ!

結局みんな仮面を外し輪になって語り始める。


すっかり暗くなってきたけど俺たちは香椎さん伊勢さんの差し入れおにぎりと唐揚げを食べながら語り合う。

これも素人っぽく不恰好に作ってって指定に香椎さんご機嫌斜めだったんだよ。


俺たち男子チームは全員でいじめた、いじめられたを忘れて語り合った。



『僕立花くんと青井くんのケンカまじ感動したよ!』


『すごい拳だったぜ!』


『立花はバテバテの俺に3分待ってくれたんだぜ?その上一発避けないでもらってからしかケンカ始めないんだぜ?!漫画かと思ったよ!』


『青井は強い、かつては敵だったが…。

今は強敵ともだ。』


『マジで?!本当に強敵と書いて とも と読ませるやつだ!』


『俺を強敵ともと呼んでくれるのか!』


『…。(うんうん頷く宏介)』


青井は涙する。

本当に演技?

それより…ここから…俺の厨二病が炸裂する場面…。

一回切ってセリフ確認…。



☆ ☆ ☆

両頬はまだ腫れてる田中くんはご機嫌。

俺はそーっと話しかける。


『ねぇ田中くん?俺本当にこんな事言った?

もしくはちょっと誇張しすぎて無い?』


田中くんは満面の笑みで、


田中『やだなぁ何回録画見直したと思っているの?

聞き取りにくい所何度も戻して字に起こしたし、前の編集版でもテロップ付けたし間違い無いよ!史実通り!』


史実なら史実でキツい…。

この場面必要?


田中『まだ若い僕たちの慣れない荒事からの急速解放によりストレスと解放で色々リミッターが外れちゃう感覚!

若さ故の万能感!漢が漢に惚れる瞬間!

そして深夜じゃないけどランタンやわかりあったが故の一体感から来る厨二病満載なセリフ!青春!

僕の体感した青春の感動!これを映像作品にしたかった!』


田中くん酔ってる?


田中『漢に酔ってるのさ…!』


そんな良い事言ってないからね?

後で見返して目を背けたくなるよ?

…経験者は語る…。


少し離れたところで、


伊勢『あーし吹き出さないように気合い入れないと…!

まさかリアルで聞ける日が来るなんて…!』


香椎『…うん、そうだね…。』


伊勢『…もし笑いそうになったら…ごめん。』


香椎『…私もだよ…。』


あまり仲良くないふたりが神妙な顔で話し合ってた…。そこまで?


紅緒『…サビをソロでやるような山場だよね?承くんがんば!』


紅緒さんのキラキラした目が余計に羞恥心を刺激する…!

ええい!ままよ!


☆ ☆ ☆

俺たちはおかしなテンションで語り合う!

夜の闇をランタンで照らすキャンプみたいな気分でご飯を一緒に食べたからか、ケンカした高ぶりかわからなかったがとにかくハイテンションで語り合った。


女子2人は呆れて帰ってく。宏介案の明日の段取りを説明してから。

ふたりは笑わなかった…一応。でも笑い上戸の伊勢さん震えてた…。

…ここからが本番…ここからが地獄…!


『今日は星空綺麗だな!俺今日とこの星空を忘れない!』


青井『ああ、俺も忘れない!』

田中『僕も!』


『同じ時代に生まれて良かったな!』


俺たちは熱く語り合い変なテンションになっていく。

…特に俺が。セリフ多くない?削らない?なんか足されてない?


俺はこの拳の熱さに負けた!とか青井の拳が当たった時宇宙が見えたとか、俺たち今通じ合ってる!とか僕も青井くんとタイマンはる!とか今なら誰にも負けない!とか興奮による全能感から厨二全開で語り合う。


『…もう怖いものなんか無い…!』

※承のアドリブで田中くん大喜び。


宏介は黙ってうんうん頷いている。

…無口は雄弁に勝るとはよく言ったものだ…!

あの時俺も黙ってうんうん頷いておけばっ…!


最後に俺はドヤ顔で拳を握りしめて…


『生まれた日は違えども願わくば同年同月同日に死せん!』


『『『おお…!』』』

宏介『…。(頷いている)』


こんな事言ったっけ?最近松ちゃんには言ったから…やっぱ言ったのか?

※田中くんの付け足しです。


ここでもう一度説明的セリフで明日の宏介案説明。

明日、朝HR前の朝学習時間にクラス委員長の香椎さんが俺と青井の喧嘩痕に言及し、俺たちは喧嘩した事を懺悔し俺と青井をギッチギチに締める。

…その上でもうイジりいじめをしないって青井は皆の前で誓い、香椎さんのありがたいお言葉を頂き絶対にイジりいじめは許さない!って宣言に俺も青井も承知して今後イジメが起きないようにクラスに釘を刺しそうゆう空気に持っていくって段取り(説明セリフ)を言い解散する。


小学校横の歩道橋へ場面は移り変わる。

帰り道興奮冷めやらない俺は星空を眺めながら独り呟く。


『…俺、今日を忘れない…。』



田中『カット!!

今日はコレでおしまい!お疲れ様!!』


過酷な撮影の山場が終わった…!

楽しかったけど…疲れた…!

今日も撮影見ていた松ちゃんが、


新二『…いや、結構面白かったぞ?

承厨二病だったんだな?』


…何も言えねぇ…!



歩道橋から我が家はすぐそこなんだけど。

当然望と一緒帰り道も…



望『おなか痛いよぉ!

ねぇ今どんな気持ち?自分の黒歴史映像に残しちゃったけど今どんな気持ち?』


『…。』


望『宏介くんモノマネならクールさとイケメンさが足りないよ?』


俺の妹ひどくない?

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