第473話 ママはぼんやり

松方邸離れは静かだった。

県内超一等地で地価すんごいことになっていそうなここ松方邸の1番奥まった場所。

まるで隠す様に作られた離れは主人に似て生活感が無い。

この離れの主人、松ちゃんのママは以前見かけた通りの生活感の無い美人さん。和室ばかり見て来たけどここだけ洋室。

…27才の松ちゃんのママ…50前後のはずだけど…全く見えない。

なんなら30代半ばくらいって言われてもそうなんだって言っちゃうくらい。

何故か?表情が虚な童女みたいな雰囲気。


ママ『…いらっしゃい…。』


新二『…。』


空気が居心地わるい。

松ちゃんが借りて来たネコみたいになってる…。

執事さんが見かねて、


執事『…奥さま…新二坊ちゃんですぞ?

久しぶりに会いに来られました。』


声でか!

がはは!とか笑うタイプなんだけど執事のおじいさんもママには優しく穏やかに話しかける。


ママ『…しんじ…。』


新二『…ママ。』


時々会ってるはずなのに何故久しぶりに再開する親子みたい空気?

後に聞かされるがハッキリしてる時とぼんやりしてる時があるんだって。

ママは俺の方を見て、


ママ『…しんじ?』


『ノー新二。こっち。

俺は…親友の立花承です。

…まぁ弟分みたいなものです。

はじめまして!』


ママの瞳は焦点が合って居ないように見えて瞳の奥を覗き込まれてる様な薄寒い恐怖を感じた。

松ちゃんのママは、


ママ『…あぁ…そうなの?

しんじ?大きくなったわね…。』


…だから俺は立花承です。

ノー新二。

それでも松ちゃんママは俺を見ている。


新二『…ママ。』


ママ『…私ぼんやりしてておくすり飲んで寝てばかり…。

時間の感覚がおかしいのかしらね…?』


ひとりクスクス笑うと。

お茶淹れるわね?って呟いて執事さんがそれを手伝う為に付いていく。

ソファーに座って松ちゃんに聞いてみる。



『そんなに久しぶりなの?』


新二『直に会うのは…小学生の頃以来だ。

食事会やイベントで一緒になるけど会話は無かった…。』


『なんでそんなに?!

家族でしょ?!』


新二『…パパに言われたから…。』


『パパねぇ。ウチと違うなぁ。』


まあ愛人が常識の家だもんね。

それより気になってる事を聞かずにいれない。


『…デリケートな話題だけど…なんで松ちゃんのママ…。

あと、松ちゃん認識されてない?』


新二『…いつか話す。


今の俺とママの記憶の俺が…結び付かないんだろ。』


家族なのに…そんなのってある?

そんな悲しいこと…。

でも、今日会えたじゃない!こっからまた家族になっていけばいいじゃん!

松ちゃんは俺のコメント聞いてる様で聞いて無くて。

そうこうしているウチに松ちゃんママは戻ってきた。

コーヒーにクッキーとか茶菓子。


ママ『うふふ♪お客様来るのひさしぶり♪

しかもしんじのおともだち♪

しんじがおともだちを連れてくるの初めてなのよ?

昔から友だちできなくて…?』


ぷいと顔を背ける松ちゃん。

ママに恥ずかしい話を暴露される松ちゃん…!

俺が松ちゃんの友だちってのはわかったみたい。


松ちゃんママは俺に松ちゃんはでどんな感じか、友達と仲良く出来ているのか、授業についていけてるのか?先生に迷惑かけてないかを聞いて来た。

松ちゃんは横で黙ってる。

おかしな会話、おかしな空気。


コーヒーはまだしも…クッキーはあまり美味しく無い…失礼だけど。

香椎さんクッキーを標準に考えるからこうなるわけだけど。

松ちゃんママは恥ずかしそうに、


ママ『…クッキーは手作りなの…

私あまり料理が得意じゃ無くてね?ごめんなさいね?』


横の松ちゃんが慌ててクッキーを食い出した!

さっき一個食べてやめたくせに!

ボリボリ音を立てて貪り食って、


新二『…美味しいよ!すっごく美味しい!』


!!!

初めて聞いた!

必ず結構美味いとかまあまあ美味いとか斜に構えたコメント王の松ちゃんが?!


ママさんは優しく笑って、


ママ『ありがとう♪優しいのね?

下手なのわかってるわ、ごめんなさいね?』


新二『…そんな事ない!…よ…。』


松ちゃんママとしばらく談笑して(俺が)

執事さんの目配せで俺たちはお暇する事に。


松ちゃんママはあら残念。しんじもしんいちも何処に行ったのかしら?

って呟いた。

やはり目の前の松ちゃんを認識していない。

松ちゃんは悲しそうで。

松ちゃんのママの口調はまだ彼女の中『しんじ』は小さい。

だから認識出来ないのかな?


『新二くん大きくなったんですよ?』


ママは顔を輝かせ、


ママ『そうなの?しばらく会ってないから…そう…大きくなったの…。』


『新二くんも会いたがってましたよ。

ママ大好きだから!』


横で松ちゃんがぐー!で叩く!痛った!

それでも松ちゃんは嬉し恥ずかしって表情でママの顔を見つめてた。

だけど…



今までおっとり楽しそうだった松ちゃんママは顔を曇らせ、



ママ『たちばなくんは優しいのね…?

わたしは役に立たない母親だから…

きっとしんいちにもしんじにも嫌われてるわ…。

ごめんなさいね…。』



そう言うと奥へ消えて行った。


何を間違えた?何か言っちゃいけない言葉でも?



離れを出て本邸へ戻る。

執事さんが今度は日本茶を淹れてくれた。

一緒に出て来たどら焼き美味い!


執事『坊ちゃんがお友達を家に連れて来るのは初めてですな!』


『それさっき聞きました!』


『『あははは!!』』


執事さんと笑うけど松ちゃんは考えこんでいる。

執事さんは切り替えて、


執事『奥さまはあの頃から時が止まったまま。

私も認識して貰うのに時間がかかりました。』


松ちゃんは恨めしそうに、


新二『なんで言ってくれんなかったんだよ。

…たまに会うのに目も合わせてくれないのは…きっとパパの命令や言いつけなんだとばかり…。』


執事『旦那さまの言いつけは絶対。

でもこの形が坊ちゃんたちの家族にとって幸せだとは思えませなんだ。

いつか坊ちゃんたちが自分から奥さまに会いに来る日を待っておりました。』


松ちゃんママの普段の状態、パパ不在で会える日、ママの認識してること…など聞かせて貰ってしばらくお茶を頂いて松ちゃんは本邸を後にする。


☆ ☆ ☆


新二『…それでも!ママに会えた!

ママのクッキー…!』


久しぶりにママに会えた松ちゃんはご機嫌だった。

不気味なほどご機嫌で鼻歌交じりで、信じられないほど浮かれていた。


マンションへ帰ってもご機嫌で、しまいに。


新二『俺カレ行くぞ!今日こそ景虎のおっさんに勝てる気がする!』


閉店直前を狙って景虎さんへ奇襲!


☆ ☆ ☆

景虎『まだまだ!惜しかったねー♪

おじさん6連勝!』


新二『ぐぬぬ…。』


松ちゃんがまた負けた。

…勢いで挑むからだよ…

次回のお題はラーメンって事になって、互いに準備して勝負って事になった。

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