第465話 受け継がれる場所

その地は新川中から歩いて15分ほどの場所。

新川小の子供たちに代々受け継がれて来た聖地。

住宅地を離れて畑スペースを抜けて田んぼエリアを縫うように農道がまっすぐ走る。途中まで新川中の横、さらに下れば新川小横の川に注ぐ小川沿いの並木道。

その道を守るように植樹されて通る人には日陰を、農作業するおじさんには休憩スペースを、虫たちにはオアシスを、子供達には狩場を…。

夏には怪談、冬には斜面で滑り台。

その地は誰が呼んだか、「千本木」と呼ばれていた…。


☆ ☆ ☆

『…ってわけ。』


俺も上の学年のお兄さん達から聞いただけだけどね?

虫取り、川釣りのメッカでね?横の田んぼ用水路ではザリガニも獲れる。

今の登校時に通る大河や小学校横の完全整備された川と違う昔ながらの川と並木道が異常に楽しい小学生の楽園。

先輩から後輩に受け継がれて来た田舎のアミューズメント。


ひー『しぃごい…じゃあぜったいかぶとむしいりゅ?』

※まだ完全に起きていない。


『それはわからん。けどこの辺じゃここが1番居るよ。』


人気スポット過ぎてカブトムシ獲りに来たグループが3、4組かち合うのも珍しく無い虫取りスポット。

そうすると自然に前の木へ!前の木へ!っておかしな競争が始まる。

最終的に念入りに一本の木を調べた方が捕まえられる可能性が高いことに気付くのは高学年頃なんだよね。


新二『…ここ右?』


『うん。

…松ちゃん、この車うるさいね?』


新二『仕方無いだろ…まさか夜中にカブトムシ獲るなんて思って無いし。』


2:30に起床して3:00前に出発!

松ちゃんの青いスポーツカーうるさいの!

急いで出発して松ちゃんはアイドリングがどうたらってぶつぶつ言ってる。

ひーちゃんはやっと覚醒してきた。

一応、用意して来た水筒をぶら下げて、爺ちゃんのヘッドライトを付けて虫取り網と虫籠で完全装備のひーちゃん。


朝ごはんまで間があるし、コンビニでゼリー飲料を買ってそれを咥えながら松ちゃんのくるまで百本木へ向かう。


新二『近っか!』


…子供の足だったからもっともっと遠く感じたけど…車だとあっという間に到着。

時刻は3:15。真っ暗闇の千本木。

大きな道沿いの街灯とだいぶ先の交差点の街灯以外光源は無くってなかなか怖目。


ひー『いるかな?くらいね?

カブトムシさんまっくらでこわくないかな?』


本来夜行性だからね?


新二『…じゃ、懐中電灯着けて…。』


家にあった懐中電灯を2個とひーちゃんヘッドライトが唯一の光源。


新二『うお?!』

ひー『わ?!』

『おう?!』


光に反応して蛾が飛び出して来た!コレはびっくりするよね!


『『『あはははははははは!!!』』』


3人して驚いたのがおかしくって笑い転げる男3匹w

これで怖さが抜けた!

カブトムシを探してゆっくり木を周りだす。


『この葉っぱクヌギの木とこの葉っぱのコナラの木が点在してるんだ。

そこの樹液がカブトムシの好物なんだよね。』


新二『…全部がカブトムシの居る木じゃねえの?』


『カブトムシ用に植樹したわけじゃ無いからね。』


並木道みたいなもんだけど木によっては斜面に植えられてるのもあるし、腐って切り倒された木もある。

十分気を付けて見て回ろう?特に!ひーちゃん!

夢中になって怪我したら大変だからね?


ひー『はい!』


いいお返事。

ただ夏休みに入ってそこそこ経ってる、結構数は少ないんじゃ無いかな?

小学生が乱獲しまくるし、なんか子供の頃より虫が減ってる気もする。


道の両端の木をチェックして周る。

この木がクヌギだよ。


新二『ひーちゃん!』

ひー『しんじくん!』


2人で照らし合いながら斜面を下っていく。

松ちゃんがノリノリになってる。

わかる!久しぶりだけど俺も疼くよ!


クヌギの木にはカナブンやよくわからん虫が群がっていたけどカブトムシもクワガタもあいにく居なかった。


木の上下?

真っ黒だから居ても気付かない事もあるよね?

それを伝えて隅々まで観察するがこの木には居なかった。


ひー『ちゅぎ!』


2本先、またクヌギの木。

綺麗な蝶が樹液を啜ってた。ゴキさんみたいのも居て松ちゃんがヒッて声を漏らして3人で笑った。


また次の木…

居た!小さいけど…カブトムシ…!

俺は知らんぷりでひーちゃんをそこへ誘導する?

居ない?その辺どう?ひーちゃん?



ひー『…!

いた!カブトムシだよぉ!』


新二『そーっと!そーっとな?』

『松ちゃんの言う通り!無理やり引っ張って足がもげたら可哀想だしな。』


ひー『のぞみのおっぱいみたいにもげる?』

※雪だるまのはなし参照


ぷふー!俺は吹き出し、松ちゃんはキョトン顔。

軽く話すと松ちゃんも大笑い。


ひーちゃんはそうっとその小さいカブトムシのオスを捕まえた。

…持参した虫籠に入れる…。


ひー『かっこいいな…。』


いつだって子供心を鷲掴みするフォルム、力強さ。

甲虫の王様!カブトムシ!


新二『…アッ〜!!』


松ちゃんも見つけた?


ひー『しんじくんしゅごい!しゅごいよぉ!

ノコギリクワガタだよぉ!』


新二『…すっげぇ…!』


艶々とした黒光りボディに凶悪な顎!ノコギリクワガタ格好良いよね!

松ちゃんは嬉しそうにノコギリクワガタを両手で抱えてひーちゃん虫籠にin。


…でも日が悪かったのかな?

それとも最近数が減ったって噂がほんとうだったのかな?

その後、ひーちゃんと松ちゃんがカブトムシのオスを1匹ずつ捕まえて計4匹で6:00を迎えてフィニッシュ。3人で夜取りに来て4匹は正直少ない。

でもひーちゃんと松ちゃんは嬉しそう。


明るくなると、千本木も朽ちた木や切り倒された木が多いことがわかる。

…子供の頃あんなに遠く、木は高く木の本数は多かったように感じた我が子供時代の聖地千本木は…貧相な並木道に見える…。最後に来てから五年…五年でこうなら大人になったらどうなるの?

父さんがよく、あの頃ここにはこんなお店があってな?大きな木があってな?

…あれときっと同じ事なんだ。


新二『…千本木は言い過ぎだろ。』


『…そうだね…。』


否定したかったし、少しイラついた。

…松ちゃんは関係無い、俺が昔との違いに寂しさを覚えているだけだろ。


新二『…でもすごくいいとこだな。川があって木があって。

承が真っ黒になってここで走り回ってる光景が浮かぶわ。』


車内での俺の思い出トークを覚えていたのだろう。

松ちゃんがフォローなんてするはずない。

それがなんか救われた。シティボーイの松ちゃんにここの良さが伝わるか不安だったんだ。


ここであっちゃんと宏介と日が暮れるまでカブトムシを捕まえたり、ザリガニ獲ったり、鮒を釣りまくったりした。

あっちゃんが色んなヤツを連れて来て、その日俺は何も捕まえられなくてしょんぼりしてたら青井がクワガタを1匹くれたこと…つい昨日のような、すごく昔のような不思議な気持ち。



ひー『ぼくここだいすき!』


『…兄ちゃんも大好きだな。』


ひーちゃんは愛おしそうに虫籠の4匹を見つめたあと、出会ったこの地がキラキラして見えるのか眩しそうに眺めて、



ひー『またこようね?』


と言った。


朝日の中、幼き日の頃の俺たちが走り回ってる光景が見えた気がした。

そんな事があったのかも知れない、なかったのかも知れない。


『また来ようね。』


きっとこうして千本木は下の子に受け継がれる。

思い出とときめきとちょっとほろ苦さを含んで…。

きっといつかひーちゃんも下の子にここを自慢げに案内する日が来るのだろう。

日差しはギラギラ空は今日も真っ青、今日もきっと暑くなるだろう、子供の頃のあの日のように。




☆ ☆ ☆

この会を書くにあたって「千本木」を見に行って感じたノスタルジックな感傷が出てしまった回でした。


あるらしく無いなぁと思いながらも、承くんがそれを感じるにはまだ少し早いかな?と思いながらも過ぎた戻らない時間を、過去を美しく感じてしまうおっさんなあるの感性が出てしまった回でしたw

是非コメント欄で皆さんの子供の頃の特別な場所教えてください!

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