第461話 しょんぼり猛獣【side立花望】

緑『のぞみー。』


『…んー。』


緑があたしの口にプロテインバー(チョコ味)を捩じ込む。


きい『…元気だして。』


『…んー。』


きいがお茶のペットボトルを口に差し込む。

要介護の人じゃないんだよ。


茜『…早く治れ!治れ!』


『…治ったって…もう大会は終わったじゃん…。』


茜はあたしの裸足の足の裏を…押してくれる…ちょっと気持ちいー。


芹『…私たちは先生の都合でこれから帰るけど…望ちゃんたちは夜頃帰るんでしょ?』


『ん。』


先生にはさっきみっちり安静にしてるよう言われた。

心配症だなぁ…。


芹『東京観光でもして帰っておいでよ?

…お疲れ様、頑張ったね?』


親友sは頷いて私を見つめるけど…。

私はうつむき加減に頷くだけで声は出せなかった。


☆ ☆ ☆

…負けるのは慣れない。

でも負けることはいくらでもある。

負ければ悔しい、こんだけ大きい大会で今回は調子も良かったから。

…負けて泣いちゃう事もある…いや泣いちゃう、悔しいもん。


今回はまるでフワフワしたような地に足が着かないような実感の無い負け。

色んなものが胸に渦巻いているんだけど…それを表現する事が出来ない。

狂おしくってもどかしい。

いっそ全力で走ったり、猛練習出来れば少し違うのかな?

足壊れても良いから走っちゃいたい。

…もちろん先を考えればそんな事できないけど。


先生と親友sが先に出発したけどうちの家族はゆっくり。

あたしが捻挫してるから観光も限られるし…そんなテンションじゃ無い。

あたしは帰る?って提案するけど家族は腫れ物を触る様に笑ってる。

…優しいから気を使ってくれるんだ。でも今は…ちょっと嫌だ。

甘えるな!とか叱って欲しい気持ちだったんだ。



兄『甘えるな?』


びっくりした!なんでわかったの?!

兄ちゃんはニッて笑ってそうゆう顔してる!って言った。


『じゃ普段はあたしどんな顔してんの?』


兄は情けない顔して、


兄『お腹減ったよー。親友sたちと遊びたいよー!

家族大好き!って顔だな。』


ってドヤ顔。

むかつく!


兄ちゃんは今日は土曜日で何処も混んでる。

あたしの足じゃ歩くとこは行けないどっか要望ある?って聞いてきた。


『…東京タワーいきたい。』


あたしは思いつきで言った。



☆ ☆ ☆

スカイツリーほどじゃ無いけど東京タワーも人は多い。

兄ちゃんが車椅子借りて来てくれて家族が交代で押してくれる。


祖父と祖母がよく話してくれた東京タワー。

充分高い建物で上の展望台まで登ると足元のガラス張りがこわいよぉ!

ひーちゃんとキャッキャ笑いながら展望台から飽きずに東京の街を眺める。

父さんと母さんも…なんか夫婦デートみたい!

子供チームは笑って展望台を周る。


ひー『しゅごい!』

『しゅごいね?』

兄『しゅごいな。』


スカイツリーが最新鋭の科学や技術の建物なら東京タワーだって当時の最新鋭。当時の世界最高の高さの建物だったの?


兄『当時の技術でこの高さ…しかも事故らしい事故は起こっていない。

This is maid in Japan…。』


『メイドインジャパン…。』


ひーちゃんを車椅子に抱き抱え見て周った。

高いところはすごいね、なんか悩みがちっぽけに思えてくる。

車に戻ると両親も祖父母もまるでデートしたかのようにキャッキャウフフしてた。

…あたしが元気無いと皆んな心配しちゃうよね?

あたしは東京タワーで元気もらった!って明るく振る舞った!


☆ ☆ ☆

望を家でゆっくりさせたい!って家族の意見が一致したので早めに帰る事になった。申し訳ないなぁ。

高速に乗る前に少し休憩がてらお茶飲んで休憩しようって事になった。


兄ちゃんが、


兄『望借りてくー。』


って言って、また車椅子借りてあたしを押し込んだ。

大きな駅の駅ビルにうちの県にもある大手家電のお店…!

東京狂ってる…どの駅にも大手家電あんの?

どうかしてるぜ…!


兄ちゃんはニヤニヤしながら、


兄『兄が望の欲しがってたタブレットを買ってやる!』


『ふぇ?』


『だから!試合の分析するのも家でリラックスするにもタブレット有ったら捗るだろ?

頑張ったな望。』


『シスコン!兄ちゃんのシスコン!こんなに妹にお金使う兄なんて居ないよ?』


『ここに居るじゃんw』


あたしが最近言ってたことを兄ちゃんは覚えてた…。

学校で貸与されてる味気ないタブレットは嫌。

芹のタブレットは大きくて使いやすい。

…でも…こんな値段…。


タブレットコーナーは色々あって…めっちゃときめく!

アレいいな?コレ使いやすそう?

でも…値段がエゲツない…。


あたしはおずおずと中華製のタブレットを差し出す。


『…コレがいいな…。』


兄ちゃんは黙って受け取ったけどそれを置いて、


『こっちのが良く無い?

望カラーの薄紫で大きめ画面のスマホと同じメーカーのアイパッドゥ。

ロインや写真とかも同期出来て良いらしいぞ?』


!!

最新のアイパッドゥだよ!それ!

あたしと兄ちゃんは去年スマホ購入時には一年経ったモデルで大満足して買って貰った…!

最新版なんて恐れ多いよぉ!


『妹が頑張った姿にご褒美あげたいんだよ。

兄なんてチョロいもんだ。』


色、大きさ、機能、スマホとの連動…すっごい良い…。

家で繋げれば良いから!Wi-Fiモデルでいいよ!

せめてもの抵抗を試みるけど、


兄『家ではWi-Fiに繋げれ。

外で試合会場や部活で見れなきゃ意味無いだろ?

定額料金は俺の口座から引き落としだっけ気にすんな。』


って一通り決まった頃、母さんが到着した。


母『決まった?』


『母さん!兄ちゃんが!』


母『承は望が可愛くて仕方ないのよ?

可愛がられてあげるのも妹の仕事なんじゃない?

契約とかだけ母さんが書類書いて手続きあるから望と承はお昼でも食べておいで?』


兄『ステーキ食べたく無いか?』


ごくり。


『…食べたい…。』


いくぞ!兄ちゃん格好いい!

あたし達は県内に無い有名チェーンのお店に入った。


兄『…じゃあ俺コレ。

サーロインステーキセットご飯大盛り!』


あたしは…。

高いの頼んだらもう連れて来てくれないかもしれない…。


『サービスステーキセット?』


兄『よし!同じので良いな?望はずうずうしくて遠慮や慎み無い癖に…妙に顔色伺うところあるよな?』


そう言って兄ちゃんは同じ物を注文した。

落ち込んでようが怪我してようが美味いモンは美味いわけで…。


あたしは兄ちゃんに謝った。

聞いて欲しかった…。

あたしは日本一になって、あたしを支えた兄ちゃんや家族は日本一の家族だって証明したかったって…。

兄ちゃんは不思議そうに、


兄『なんで?幸せな事に望が日本一だろうがベスト4だろうがうちの家族は日本一…いや世界一だろ?』


『うん。』


兄『そう思えるのは幸せな事だよな。

きっと昨日会場に居た選手の家族全員、うちの娘が日本一だ!って思ってたと思うよ?

…最低でも兄ちゃんはそう思った。』


うん。

恥ずかしく無い?

兄ちゃんはダサい事を真顔で言える天才なの。

それは突き通すと逆に格好良く見えてくる…不思議!


兄『もう次始まってるんだろ?

強い奴が勝つんじゃ無い?』


『…勝った奴が強い…。』


兄『…いつか日本一になってあん時タブレット買って貰ってステーキ食ったけな?って話ししような?

すいません!霜降りステーキ一枚追加!

肉食った方が怪我治るって聞いた事無い?』


兄ちゃん!あたし女の子だよぉ!

今セットメニュー食べたばっかりだよぉ!

※ペロリと平らげてご飯おかわりしました。


☆ ☆ ☆

そうして大手家電のおみせへ向かうと手続き終わってて!

あたしは紙袋に一式入れてもらう!

スマホの時もそうだったけど…罪悪感と高揚感!

たまらないよぉ!

家族と合流して車に乗り込む。


ひー『しゅごい!タブレットみやすいよぉ!』


望『兄ちゃんが買ってくれたんだよ?

…ひーちゃんが大きくなったらお姉ちゃんが買ってあげるからね?

それまであたしと一緒に見よう?』


…あたしはいつか兄ちゃんにして貰った分…ううん、それ以上ひーちゃんにしてあげる!

ひーちゃんは驚くかな?喜ぶかな?

ひーちゃんがお礼を言ったらあたしはそれを兄ちゃんにして貰ったんだよ?って誇らしげに答えるんだ。


落ち込んでなんていられないよね?

あたしは絶対に高校在学中に結果出して見せる!

…夢の為にも!


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