第436話 今日はなんの日?

『でしょー?似合ってるよ♡

ちょっと曲がってるかな?』


そう言って微笑みながら二歩詰めてネクタイを直してくれる香椎さん…

至近距離香椎さんは破壊力すごい!

少し上目遣いで少し照れて赤い顔。

…これ…夫婦がするヤツだっ!!


…まあ優奈さんのスマホ連写機能で無事甘い雰囲気は吹き飛んだ。

よかったよ、クラクラしたもん。

香椎さんパネエ。


スーツ2着にネクタイ3本、ワイシャツ、ベルトまで買って貰っちゃった…慌てて靴はローファーはある!って主張したけどスラックスは痛むから2着ずつ買って貰って…余裕で10万オーバー!


俺は財布から半分くらい出そうとする!

…恥ずかしい、五万位だと思って持ってたんだよ…。

1着で良いと思ってたのと、そんな良いヤツ買う気も無かったし…。


優奈さんは笑いながら、


『承くんが玲奈の為に必死に動いてくれてる事に感謝してるの。

そしてコレは必要経費。

新二くんが用意して来いって言ったんでしょ?』


俺は頷くけど…納得は…申し訳なさは消えない。

玲奈さんも不安そうに俺と優奈さんを交互に見ている。


優奈さんは優しく微笑みながら、


『ね?承くん。

…今日実はね?玲奈の誕生日なんだ?』


『え?あ!七夕!』


優奈さんはうんうん頷く、玲奈さんはヒソヒソ話す俺と玲奈さんを優しく見つめるけど…ゴゴゴ…!みたいなオーラを発している…!こっわ!


『…それとね!今日インターハイ県予選の女子テニスシングルス優勝しました!』


『…!おめ…!!』

振り返り祝福しようとして肩をガシッと抑えられる…、

この人やっぱり玲奈さんのお姉さんだ、細部が似ている…!


『新二くんの件で玲奈と節度のある距離を保ってるの知ってるよ。

…でも玲奈寂しがってるんだ…承くん、お願い。

何でも良い、誕生日おめでとうでも優勝おめでとうでも良い、なにかプレゼントあげて♪』


俺はうんうん頷く…!

…贈りたいよ、俺だって本当は贈りたい!

にっこり笑って優奈さんは宣言する!


『じゃ!一旦解散しよ!承くんも本屋さん行きたいもんね?』


玲奈さんがススって寄って来てニコニコしながら、


『私も付き合うよ!

ひーちゃんの絵本?自分の本かな?

それとも家族のおみやげ買いに行く?』


俺の行動パターン読まれてるの?

俺は慌てて、


『服?』


香椎さんは目を丸くして、


『珍しいね…一緒に選んであげるよ?

ふふー!夏物かな?』


優奈さんが慌ててカットに入る!


『玲奈!承くんだってプライベートや女の子に見られたく無い買い物もあるでしょ?』


玲奈さんの顔が怖い。


『見られたく無いもの…えっちい本とか?』

※本日のおまいう。


何で女の子と…美人姉妹とスーツ買いに来てえっちいグッズを買うリスクを?

そんな男に見えるのか?

でも、圧がこわい。


『ひいっ!…下着?』


香椎さんはホッとした表情で、


『なんだ…下着…一緒に選ぼうか?』


ブンブン首を振る俺!優奈さんがフォローしてくれて、


『流石によその男の下着選びは不貞案件ぽくない?』


こうしてやっとフリーになった俺。

もちろんえっちいモノも下着も買わない!

急いで俺は香椎…いや玲奈さんの誕生日プレゼントを買いに奔走した!

県内有数のショッピングエリアで良かった!!



でもさ?急過ぎない?時間無いのに無茶ぶりすぎる。

一個思いついたんだけど…どうなんだろ?


落ち着け思案しろ。

クリスマスにはシルバーのネックレス贈った…。

アクセサリーは正直難しい。

この短時間で見栄えがしてお互い納得する贈り物…。

誕生日プレゼント…好きな娘…。


お菓子やケーキ!

…香椎さんはきっともっと美味しいお菓子作れるよ…。


五万でアクセは無理じゃ無いけど難しい事は前回痛いほど思い知ってる…。

この短時間では苦しい。


洋服!

…玲奈さんセンス良くてブランド物着慣れてるお嬢様…。


結局悩みに悩んで最初の思いつきに従う事にしたんだよ。



☆ ☆ ☆

バスターミナルには高い展望台があってそこはこの県の名所。

…デートの定番だし、家族連れにも人気の映えスポット。

まあ平日の夕方だからそこまで人は多く無い。

この県ではここが夜景が恋人デートのメッカ。


18:30にそこで待ち合わせ。

そして立体駐車場へ戻り優奈さんの車で新川町に帰るスケジュール。


待ってると向こうから一際目を引く美人がふたり。

…香椎姉妹揃うとすごい無敵感ある…!

ここまで光が強いとナンパもされないのか男の視線を惹き付けるけど誰も側に寄って来ない…。


『承くん!お待たせ♪』


向こうから走って来る天月高校の制服を着こなす玲奈さん。

…今日だけ!今日だけ玲奈さんって呼ぶ!でも距離は保つ!


『お姉ちゃんと買い物して来たの!

承くんも目当てのモノ買えた?』


キラキラ玲奈さんが強すぎて直視出来ない…!

こんなに可愛い!


オシャレな紙袋をぶら下げる玲奈さん。

女性ブランドなんだろうけど上品で素敵な色使いな感じ…何買ったんだろ?

…いや、今それどころじゃ…!

アクセサリーも勇気いるけどコレもなかなか…!


『じゃ帰ろっか?お腹減ったでしょ?』


確かに。

でも今はそれどころじゃ無い。


展望台はまさに夕日が沈む時間帯。

…恋人たちや家族連れはそれに夢中。


…少し離れたところから優奈さんが行け!行け!ってジェスチャー。

望みたいな人でもあるよな…。



『…玲奈さん!』


玲奈さんは目をパチクリ。

ふふって笑うと、



『久しぶりに名前で呼んでくれたね…?』


『…今日だけ。』


『今日だけなのー?!』


こんなやりとりすら楽しくて楽しくて仕方ない。

…この子供の頃からの憧れを悲しい顔にしたく無い。

この娘の夢を叶えてあげたい。

俺は誓いを改めて思い出す。

必ず俺がなんとかする!



『あのさ…。』


『…うん。』


俺の緊張感に何事?からなんか大事な事?って見の姿勢の玲奈さん。

なんか期待してる?いやいや大した事じゃ無いんだ。

…俺が度胸無いだけで。



夕日が見える展望台。

平日の夕方でそこまで客は多く無い。



皆んな夕日に視線が行っててまだマシか…。


『17歳の誕生日おめでとう!玲奈さん!』


俺は跪き、横の自販機の陰に隠していた真っ赤な薔薇の花束を差し出した。



玲奈さんはポカンって渡された真っ赤な薔薇の花束を受け取り。

崩れるように両膝を着いた。

天月のスカートが一瞬広がってフワッと床に着く。


この年になってこんなことを思うなんて…

玲奈さんって…お姫様みたいだよね。


びっくりしたのかぼーっとしてたけど腕の中の花束を見て嬉しそうに笑いだす玲奈さん。



『ふふ♪ふふふ♪

綺麗だなぁ…すっごく綺麗…ね?これ貰っても良いの?』


『もちろん。ハッピーバースデー玲奈さん!』


花束を嬉しそうに見つめる玲奈さんは愛おしそうに薔薇の香りを嗅ぐ。


『…素敵…綺麗で良い香りで…。』


花束をジッと見つめる玲奈さん。

…女の子は花が好き!って思ってたけど良かった…!当たったのかな?









玲奈さんは嬉しそうに愛おしそうに花を抱きしめて、


『承くん、薔薇の花言葉知ってる?贈る意味知ってる…?』


…やばい…知らないよ…。

玲奈さんの顔見ればわかるなんかオシャなもしくはロマンティックな事なんだろ?!


俺の心の中の父さんも慶次も宏介も誰も教えてくれない…!

考えろ俺!玲奈さんを失望させるな!!





考えに考えて絞り出した俺の魂のオシャレロマンチックワードは…!








『…愛。』



玲奈さんは目を伏せて真っ赤になって頷いた。

…目は潤み、顔は紅潮してすごく可愛い…!


よし!当たらずとこ遠からずかな?

失望させなくって良かった!!

※大正解(笑)





…愛?婚約者居る玲奈さんに『愛』はまずいんじゃ?

そんな事言い出せる雰囲気じゃ無いわけで…!

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