第425話 傷付いた猛獣【side立花望】

土曜日朝、全中女子テニス県予選会場。


緑『ほーらー!望!スマイルスマイル♪』

きい『…望の笑顔が見たいな♪』

茜『もう一本足しちゃえー♪』


あたしの口にねじ込まれるキットカットゥ。


『ひあいまえらから…もぐもぐ…いらはい。』

※試合前だからいらない。


芹『…重症だよぉ…。』


いよいよ始まった県予選。

あたしは完全にイラついていた…!

今朝だって!兄ちゃん!起きても来ないで…!


連日の見に来てコール(乱暴)に全然反応しない兄ちゃん。

まじむかつく。


緑『マジでブラコンなのにこんな時に兄ちゃんとケンカしないでよぉ。』

きい『弟ラブ❤️を前面に出してるけど実際兄も弟も大好きな生粋のブラコン!』

茜『承くん今日は何してるん?なんで来てくれないの?』


あたしは思い出し怒りでイライラ。

スマホいじりながら、


『あのエロガッパは本命じゃない女の子と宏介くんの試合見に行った…!』


緑『こないだまで『兄ちゃんがモテてる!』って喜んでたのに…!』

きい『…望の兄ちゃんさいてー。』

茜『でも承くんもどこに出しても恥ずかしいシスコンなのに?』

※茜が1番望と付き合い長いので茜が1番詳しいです。


芹『…お兄さんがねぇ…。』


スマホを見てるけど…なんか画面が滲んできた…。


望『…にいちゃんはあたしのこと嫌いなんだ…。

あたしの事なんか応援してないし、興味ないんだ…!』


あたしは涙目で口をへの字にしながらぷるぷる震えていた。

怒り?寂しさ?よくわかんない…。


緑『ほら!ほら!芹ママだよー!芹ママに甘えちゃえ♪』

きい『後で兄ちゃんの件は詰めるとして?今は忘れろ♪』

茜『…それで良いの?』


?!


親友sの意見が割れた。

あたしをあやしてたみどきいと疑問を抱く茜。

茜は芹を振り返る。


茜『芹はどう思う?

このブラコンモンスターは拗ねて怒って自暴自棄になって大事なこと見失ってない?』


芹が返事する前に2人が、


緑『でも、特待生がかかった大事な大会。

望はここに照準合わせてきたんだよ。』

きい『…今はメンタルを少しでもアゲなきゃ…!』


3人が言い争い始めて…みんなも試合なのに…!

あたしが愚痴って拗ねて子どもみたいな事言ってたから親友sまでケンカを…!


あたしが立ち上がって止めようとした時芹が真ん中に割って入る。


芹『…何が正解かなんてわからないけど望はそれでいいの?』


真っ直ぐ射抜かれる瞳にあたしは何も言えない。

望って呼びつけにされた、思ってたより収まりは良い。


芹は続ける。


芹『お兄さんがどう思ってるかは知らないよ。

でも望のお兄さんは望大好きでいつも応援してくれてたでしょ?』


『…。』


芹の強い言葉に何も言えない。


芹『みんなだってそうだよ?

望が好きで望の事思ってるからそれぞれ考えて甘やかすとか宥めるとかそれは違うって望に言ってる。

いいの?そんな感じで中学最後の大会に出て?』


『…よくない…。』


芹はふふって笑い表情を緩める。


芹『望がお兄さん大好きっ子なのは知ってる。

でもお兄さんも筋金入りのバキバキのシスコンでしょ?』


『…どーだか。』


私はそこだけはわからない。

じゃあなんで見に来てくれないの?なんであんなに冷たいの?

忙しい忙しいってなんなの?


芹はあたしにラケットを手渡す。

優しく強い笑顔で、


芹『このラケット買って貰った時の事思い出しなよ?

あんなに喜んで、何度も何度も買って貰った日の話しをして…。

嬉しかったんでしょ?感動したんでしょ?

…誓ったんでしょ?』


あたしは泣きながら頷きラケットを手に取る。


芹『…高校生でも10万円なんてポンって払える訳がないよ。

お兄さんは望の為に一生懸命アルバイトして何ヶ月も貯めたお金を出してくれたんでしょ?

そんなお兄さん居ないよ?』

緑『私も兄ちゃん居るけどそんな高い物買って貰った事無いよ。』

きい『そうだよね、そんな兄妹なかなか居ないよ!』

茜『…承くんは絶対応援してるっ!』


芹『さっきからスマホ見てるのも…本当は連絡して欲しいんでしょ?』


こくん。

あたしは素直に頷いてしまう…。


芹『忙しい!忙しい!で望をないがしろにしたお兄さんには後できっちり話すとして…望!こんなとこで躓く訳にはいかないんでしょ?

ノルマは全国大会出場なんだから!』


『うん!』


緑『ひーちゃん来るんでしょ?』

きい『兄ちゃんに見せてやれ!』

茜『望!』


芹『望は強い!』


芹!緑!きい!茜!

あたしにはこの娘たちも居る!

兄ちゃんとひーちゃんだけじゃない!


あたしは甘えていた!

拗ねていじけて自暴自棄になってた!

特待生になれば結果が常に求められる。

あたしは自分の甘さが恥ずかしいよ?


『芹!よく言ってくれたね!

ありがとー!!』


芹はあわあわして、


芹『ごめんね!呼びつけで…望ちゃん…!』


『望って呼んで?

望ちゃんってちょっとよそよそしいなって思ってた。』


芹『じゃあ…望。』


『こいこい。』


親友sを手招きして訝しむ3人と芹を集めて…




『愛してるっ!お前ら大好きだっ♡』


あたしは手が回らないけど4人を抱きしめる!

言葉ではこれ以上伝わらないから4人にぎゅーって抱きついちゃう!

4人もぎゅーって抱き返してくれる!


『『私も愛してる!』』


はぁ。なんか憑き物が落ちたような感覚。

さっきまで視野は狭く世界は暗く音は小さくお菓子は味が薄く感じていたんだ。


でも…まだ足りない…。

気合い!気合いが必要だよぉ!



『芹!1発ビンタして!』


芹『いくよ?』

※すっかり望と親友sのノリに染まった芹ちゃん。


ばちん!!


痛った!右頬がジンジンする…!

あたしは続ける、


『緑も!』


緑『気合いいれろぉ!』


ばっちん!


痛い!


右頬熱っつ!痛った!


きいが掌にふー!って息を吹きかける…!

え?もう良いよぉ!気合い入ったよぉ!


きい『じゃ?いくよ?』


『待って!待ってぇ!左!今度は左!』


きい『えい!』


バシン!


左いたい…。

調子に乗りすぎたのかも知れない…!


チラッと見ると…。


茜が準備してるう!

こいつが1番パワーある…なんとかならんか?


茜『じゃあ私が最後だね?』


『…もうきあいはたりてる…。』


ひーちゃんっぽい言い方になってしまった…!


茜はうんうん頷いて、


茜『でも右2左1だと収まり悪いでしょ?

いっくよー♪』



!!!


☆ ☆ ☆

会場内で試合前ミーティング。


あたしと茜は個人戦のシングルスに登録してるけど全体的な話があるので当然出席する。

簡単な日程とレギュレーションの話が終わって顧問の先生と目が合う。

顧問の先生はにっこり笑って


顧問『あら?望ちゃんさっきまで顔色悪かったのに…ウォームアップ済んで気合い入ったみたいね♪』


『…おかげさまで。』


話はおわり!皆んなで掛け声!


顧問『じゃ!新川中!』


『『『『ファイト!!!』』』』


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