第408話 俺の軍師

俺は日々を夢中で過ごす。

色々な事をしたがる紅緒さんと事なかれ主義の先生の間を調整し、

クラス委員長の仕事をこなしながら勉強、バイトに精を出して空き時間に走り込みとバスケ。


特に勉強。

今までもやってたけども、改めて紅緒さんに空いた時間勉強教えてって頼み込んだ。

紅緒さんは遊ぼ?って可愛く提案してくれるけど…


紅緒『えー?遊ぼうよ?

…例えば…女遊び♪』


『しないわそんなん。

お願い紅緒さん!』


紅緒『まあ?承くんに頼まれたら?嫌とは言えない…♪

はっ!

押しに弱いお姉さん!〜頼まれたらノーと言えない恥辱の…』


『ほんっとに恥辱ってなんなの?』


俺は空き時間に学年一位の紅緒さんと勉強を続けた。

二年生になったけど今年もテスト前には紅緒さん主催勉強会が行われる。

事なかれ主義の先生もコレは大歓迎らしく、俺に補佐をしてやれって言う。

現金な大人だな…。


元々香椎さんの手ほどきで東光では上位だった俺の順位は紅緒塾の底上げで学年20位まで上がっていた。

もちろん東光の20位だから北翔上位の宏介と比べたらそこまですごいわけじゃ無い。

でも…努力して結果出るって気持ち良い。


☆ ☆ ☆

※犯罪的なセンシティブな表現があります。ご注意下さい。


そんな頃、日程的にほぼ同じだった中間テスト終わったばっかの宏介と相談がある!って頼んで休日会うことになった。

…当然、俺からの相談は香椎さんの婚約問題だった。


日曜日午後宏介の家。

宏介ママに挨拶して宏介の部屋へ入る。


また某北海道バラエティ番組を流しながら俺は話し始める。

香椎さんから聞いた婚約のあらすじ、松方新二のひととなり。


香椎さんの願いは

1松方新二と婚約破棄(新二と結婚したくない)

2大学進学して弁護士になりたい。

3好きな人との結婚。


『だっけさ?

松方新二との婚約破棄さえすれば2の進路に口出しされないし、3の好きな人と結婚もできるじゃん?

婚約破棄はもう香椎家が弁護士探しているし、婚約破棄自体は多少の慰謝料払えば済む問題らしいんだ。

…でもその新二くん?がゴネて拒否して長引かせるわ、松方グループまで使って圧かけるわなんか周囲にまで圧力かけるみたいな事で…香椎さん追い詰められていてさ…。』


俺の真剣な話と表情に宏介はふうってため息吐いて、


『…承はソレをどうやって解決するつもりなの?

なんか策があるんでしょ?』


『…うっすら考えている事はある…。

でも成功するかわからんし、保険はかけておきたい。

…色々案出していくから宏介はツッこんで?』


『…ダメ出しをツッコミって言うな。』


やるかは別として…可能性の話な?


『俺はなんでもするって言った。

香椎さんに俺の持ってる全てを使ってでも必ずなんとかするって誓った。

制限無し、どんなペナルティも代償も払ってもなんとかする!

…そう誓った。』


宏介は少し呆れたように、


『…なんでそこまで?』


俺はニッて笑って、


『死ぬほど好きだから!

香椎さんにもソレ聞かれたからそう答えた!』


今は返事いらないって伝えたけど好きって目を見て言ったんだ。

宏介は何度もうんうん頷いて、黙って聞いてくれた。


『…よくわかった、承らしい。

一緒に考えよう?まず最初に思いついた事は?』



…言いにくい…。

めっちゃ怒られる気がする…。

でも可能性!実行する気は無いから!

あまり深刻ぶるな!明るくポップな感じで。





『…松方新二を殺す…。』

※ダメでしたw


宏介が息を呑んだ…!

だよね!だよね!

引くよね、怖いよね!

わかる!わかるよ!

だから俺断念したんだもん!



『承!』

『待て!待って宏介!

可能性のはなし!』


一瞬でキレた宏介に待った!をかける。

順を追って話すよ!


『最初に浮かんだのはって話し!

現実的には出来ない!流石に!

バレないようになんて無理だろうし!事故に見せかけるのは高校生ひとりじゃ無理!

…まして…望やひーちゃんに人殺しの兄が居たって一生付き纏う…

俺には自分より大事な人が居る。

香椎さんだけじゃ無いんだ。

望、ひーちゃん、家族…その人たちに人殺しの身内って…それだけは出来ない…!』


宏介がやっと離してくれた。

こわ!

※親友の口から本気の殺すって言葉出た宏介の方が怖かったです。


『…これが間違い無い解決策。

絶対バレるし、後を考えたら取れない手段。』


宏介は頷く…でも俺を見る目が監視対象って目つき。


その後も事故死に見せかけるとか松方グループに忍び込んでなんか汚職とか大スキャンダルと引き換えとか夕方の河川敷で殴りっこしてわかりあうとか話し合ってわかってもらうとかsnsで発信とか色々下らない事から大それた事まで語りあった。


夕方になってもその話題。

DVDは2度チェンジされ対決列島シリーズに入った。


『なんか勝負して?俺が勝ったら香椎さんを譲れ…ってどうかな?』


『…向こうが受けるメリットが無いでしょ?

権力で16の女の子嫁にする!って言うような大人でしょ?』


こんな感じで意見を出しつつ宏介が現実的に見たツッコミを入れる方式。


もうそろそろ夕飯の時間。

そろそろお暇しなきゃいけない時間。


結論としては、


松方新二にわかって貰えば万事解決。

→しかしそれは難しい。

なので今の香椎家の方針の弁護士入れてお金払って解決は正しい。

ただ圧や香椎さんの気持ちを考えて松方新二に会ったら何かしらアプローチ。


出来ること、なんとかなる策は


新二くんの心を獲る

松方グループのスキャンダルを暴く

snsとかで大問題にする。



宏介は眉間に皺寄せて、


『snsは上手く拡がるかわからない上に個人名が出る怖さと訴えられる可能性が高い。真実がどうであれ大事にしなきゃならないし、名誉毀損とかで解決後に訴えられたり香椎さんにも誹謗中傷が来たりする可能性が…。』


確かに…俺疎いけどネット社会の怖さは見てればわかる。

香椎さんの名前とか顔が広まったら怖い!怖すぎる!

昔少しテレビ映っただけで中学校にあんなに不審者が!


宏介は続ける、


『…スキャンダルは意外と良いかもしれない…。

松方グループは大きくて色々やらかし企業でもあるし、今の会長(松方パパ)だって失言、パワハラなんかで何度か問題になってるもんね。

…ただソレを調べるには…大手出版社やマスコミに入社とかして地道に調べるしか無い?』


俺は口を挟む、


『それじゃ玲奈さんが18歳になってしまう!』


…玲奈さんって言わないよう気をつけていたのに…!

スキャンダル情報と引き換えに手を引かせる…それは現実的に良い案だと思う。

宏介は結論づけた。



『…最後の新二くんの心を獲る…。』


『俺はコレが1番じゃ無いか?って思うんだけど…?』


宏介は頷く。


『…承が新二くんを説き伏せるなり拳でわからせるなりホモダチになるなりして心を獲れれば…全て解決。

香椎さんと婚約破棄を納得して圧やらなんやら全部無し。

…承は良い漢だと俺は思うし、思うからずっと友達付き合いしてきた。

気持ちは真っ直ぐで家族思いで良い兄。義理固くて好きな娘の為ならなんでも出来てしまう優しく強い漢…。』


こう褒め言葉が並ぶと言う事は…?


『…でもさ?承だってわかるだろ?

承は一般ウケしない。

真っ直ぐで良い奴だって悪い奴にいじめられたりハブられたりする世の中だ。

まして相手は人格的には最悪最低…お金持って権力持って…年端もいかぬ10も離れた女の子に無理を言う人物とその父親。

それが県内屈指の大企業を率いる一族ときたもんだ…。』


ふう。また宏介はため息を吐く。


『…友として、

『承なら出来る!話せばわかってくれるさ!』

なんて口が避けても言えない。』


『現実的な事言って欲しいから俺はここに来たから問題無い。』


『心を獲るってなに?

香椎玲奈を手に入れるメリットと香椎玲奈を捨ててまで承を手に入れるメリットが釣り合わない!

…いや、俺は承は良い漢だと思ってる。

でも現実問題として香椎玲奈ほどの美人の女子高生と承じゃ彼にとって価値が違いすぎる…!』


宏介の現実的な言葉にいつも俺は助けられる。

やらかす俺は宏介に何度も止めて貰った、襲われそうになってそれが阻止できない時は黙って側に居てくれた…子供のころからずっと。


『…うーん、一生俺がお仕えするって事じゃダメかな?』


『…ダメだろ。

好きな娘の為だからって…自分を売るなよ…!』


やっぱりか…。


『…プロジェクトYでも最近読んだ大企業の初代の立ち上げの話しでも最後は人の心。

宏介の心配も現実的に非常に難しい事もよくわかる!』


ああ、俺格好悪い。

泥臭くて熱で押し切るいつものスタイルだなあ。


『だけど漢には無理とわかっててもやらなきゃいけない事がある!

人の心を動かせるのは人の心だけだと思うんだ。

まず一当てしてみる!当たって砕けろ!』


宏介はしょうがないなぁって顔して、


『…新二くんにソレが伝わると良いなぁ…

聞いてる感じじゃ無理目だけど。』


宏介は笑うと香椎さんから聞いた新二くんの性格の分析をしながらNG行動とこういう振る舞いが良いんじゃ無いか?って仮想をしながらふたりで結局夜まで話し合った。

宏介分析じゃ本当に難しいと。


『…承の熱に触れれば…いや、難しい。』


結局夕飯直前まで居てギリギリにお暇した。

来週会ったらその話しも聞かせて?宏介はそう言った。


帰り道に思う。

宏介に相談して良かったなぁ。

あいつは冷静だけど親身になっていつも一緒に考えてくれる。


新二くんの心が獲れたら良いな、宏介と相談しながら思いついたもう一個の策を使わなくて良いように願いつつ俺はのぞひーが待つ我が家へ走って帰ったんだ。

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