第406話 一晩経って

望『…じゃあ兄ちゃん行ってくるよ?

元気出してね?』


ひーちゃんを抱きしめながら望は俺に言う。

…流石に詳しい婚約問題は望には言ってない。ただ昨日いっぱい話したとだけ…ベッドに2人でいたけど…。そこだけが解せないって呟きながら望は修学旅行へ出発した。


…望の目には俺は元気無い様に見えるらしい…

実際は逆なんだ。

今の俺は…もう爆発しそうなほど滾ってる。

俺がなんとかしなきゃ!好きな娘がわがまま子供部屋おじさんに奪われちゃう!あの自分が上手くやれば良い!って背負い込み娘が自分が犠牲になれば良いとか思わないように!

※その娘なら一時そう考えてましたが昨日くんくんで自分の欲望に正直に生きる決意をしました。


『俺もそろそろ行くわ。』


ひー『にーちゃんもいってらっしゃい♪』


玄関先でひーちゃんが見送ってくれる。

その頭をわしわし撫でて出発!

もう惚けてる時間なんて無い!



いつものコンビニで2人と待ち合わせ!


青井『おはよっす!』

伊勢『おはよ♪』


『おはよ!』


青井『お!立花元気になった!』


俺は頷く。


伊勢『ふふ!昨日一緒にラーメン食べたもんねー?』


『食べた食べた!美味かったしデート最高!』


青井『デート?!デートしたのお前ら?!

…伊勢良かったな…。』


伊勢『なっ!そっそうだけど…

立花どうしたん?!』


真っ赤になった伊勢さんは今日も可愛いね!

どうしたもこうしたも無い!


『昨日、伊勢さんに元気貰って!

その上で自分が見えた!感謝しか無い!

流石に成実さん呼びは勘弁!』


青井『伊勢ぇ…頑張ったな…。』

伊勢『そんなんじゃ無いし!

本当に立花どうしたん?!』


後で婚約問題知ってる伊勢さんと紅緒さんには伝えなきゃ…その上でこれ以上は口外しないことをお願いしなきゃ…。


『俺は子供で…無力で無能で無責任…

でも男にはやらなきゃいけない時があるってこと!』


親指をピンって立ててサムズアップ!

ふたりはポカンとした後、笑い出した!


青井『立花絶好調じゃん!イイね👍宏介たちに見せてぇ!』

伊勢『うんうん!男の子はそうじゃ無くっちゃ!』


俺は自分の大事なものに気がつくの時間のかかる愚鈍な男。

でも気付いたらならもう迷わないし、もう止まらない!

俺は今!猛烈に熱血してる!





☆ ☆ ☆

紅緒『痴漢女子高生〜恥辱の通学電車〜』


『お前んちすぐそこで通学に電車なんか使わんだろ。』


教室に入ると悲壮な顔して自分を抱きしめた黒髪ロングの美人JKがよよよ…って泣き真似しながら近づいて来た…。

こんなに綺麗なのに…なんて残念な…。


紅緒『もー承くんってばノリの悪い…!』


『そのノリに付き合ってたら大変な事にるでしょ。』


紅緒『良いじゃない!身体が目当てなの!』


『間違っても俺以外にそんな事言うなよ?ほんと襲われちゃうよ?』


なんか香椎さんの現状が思い出されて言わずにいれない。

紅緒さんはあれ?って顔で、


紅緒『承くん?なんか元気?』


『まあね。

あ、紅緒さん昼休みちょっと時間いい?』


紅緒さん喜色満面の笑みでうん!って頷いた。


☆ ☆ ☆

昼休み、いつもの社会科教室。


仙道は所用で出かけてる。

あっちゃんも。


青井『立花ー?どうしたん?』


青井…どうする?

…でも青井も口の固い漢…でも勝手に…。


青井に香椎さんの婚約問題言うべき?言わないべき?

紅緒さんは直接会ってるし、伊勢さんも紅緒さんから婚約問題の話聞いてる…。青井…小幡さんは知ってたけど…?

迷った…個人の秘密…香椎さんに親友には話しちゃうって言っておけば…!


いや!今聞こう!ロインで!


返事はすぐに来た。


香椎『承くんが必要と思うなら良いよ。』


『ありがとう香椎さん。

口外はしない様に言っておくね。』


俺は確認して、ここに居る3人に向き直る。


『あのさ…。』



…。


…。



話し終わると紅緒さん、伊勢さん、青井はふーって息を吐いた。


青井『漢だな!…でも大丈夫か?松下って『あの松方』だろ?』


伊勢『は?香椎玲奈そんな目にあってたん?なんでそんな…!ひどいよ!』


紅緒『…。』


反応は三者三様。

青井は俺に同調!でも俺でも知ってるデカい企業の権力者だろ?って応援と心配。

伊勢さんは望んでない結婚?!ありえないし!って乙女の尊厳をなんだと思ってる!って義憤と憐憫。…言うほど伊勢さんって香椎さんを嫌いじゃ無いよね?


…意外なのが紅緒さんだった。

1番理想や夢を追い人のうるさい彼女が黙って考え込んでいる。

皆んなのコメントの最後にやっと口を開き、



紅緒『松方グループはね、昔から大人気ない事する事で有名なの。

面子を潰された!とか逆らった!とかで利益度外視で嫌がらせすることも結構あるんだよ。

…うち(東光組)は無いけど関連企業の話は聞く…。

…危ないんじゃ無い…。』


あの怖いもの無しの紅緒永遠がそんな事言うの?

香椎さんと仲良くなって家行き来したり意気投合してた紅緒さんが?

これは結構ショックだった、


『俺ね、香椎さんに俺がなんとかするって誓った。

なんでもするし、どんなことでもする。

必ず香椎さんの婚約破棄成功させるって。』


1番の優先はこれ。

松方新二の婚約破棄問題さえなんとかなれば2番の大学進学、弁護士になる夢を追えるし3番の自由な結婚だって香椎さんならなんとでも出来るでしょ?

…例え俺が相手じゃなくても、香椎さんが好きな人と結婚できれば…。

私欲で人に説いても絶対にダメだって思うから俺は自分の利益を度外視して臨むつもりでいたんだ。



俺の宣言に青井は大きく頷き、伊勢さんも一瞬複雑そうな顔したけど頷いてくれた。…心配してるんだろうな…伊勢さん優しいもんな。

…紅緒さんは…無言だった。


絞り出すように、


紅緒『…承くんが決めた事だもん、応援はする。

でも気をつけてね?』


寂しそうな顔で微笑む紅緒さん。

うん、って俺は大きく頷く。


…香椎さんからロインが来た。

6月の上旬に松方新二と会えるらしい。


俺に何が出来る?

正直わかんない!でも立ち止まってはいられない!

俺は勉強、バイトなんでも全力で取り組んだ。

…愛は1番効率の良いエネルギーって良く言ったモノだと思う。

無尽蔵にやる気が出て来てなんでも出来る事やらなきゃ!って気持ち。

気合充実で俺は毎日を過ごす!



☆ ☆ ☆

嫉妬   side紅緒永遠


私嫌な女の子だな…自己嫌悪がすごい。

承くんは玲奈の危機に全てをかけて必ず俺がなんとかするって啖呵を切った。


玲奈はどれだけ心強かったろう?

玲奈はどれだけ嬉しかったろう?


社会科教室を早めに出て女子トイレへ寄って教室へ戻る。

なるみんが少ししょんぼりしながら、


なるみん『…立花は昔から香椎玲奈が好きだからね…

少し羨ましいな…あんな事言われてみたいよね?』


なるみんは私が知ってるだけでも結構な数告白されてる。

私みたいに顔だけじゃなくて中身(性格とおっぱい)も伴った派手美人だから…。


なるみん『…とわわんも頑張ったね?

好きな人が他の娘が好きって言うの…しんどいよね?

あそこで言わなかったのえらい。頑張ったね。』


そう言うとなるみんがぎゅーって抱きしめてくれた。

胸厚…いや胸熱なんだろうね?男子からしたら。


なるみんの言葉に私の奥底のドロっとした黒い気持ちが溢れちゃう。


『なんで?なんで玲奈ばっかり?

あんなに綺麗で可愛くって女子力高くて…

肌も綺麗で健康で頭良くてフィジカルモンスターで…。

実家太くて、綺麗なお姉さんも居て…

あんなに沢山色々なモノ持ってて…承くんまで…

不公平すぎるよ!』


私の黒い気持ちがなるみんを凍り付かせる。


『私は間違ってた。ラブコメじゃ無いんだから…全部ハッピーエンドなわけなかったんだ!

玲奈は好き…頭良くて女子力高くて綺麗で健康で…ある意味私の理想の姿だ。

でも、玲奈と共存出来る訳無かったんだ…。』


なるみんは黙って聞いてくれる。


『なるみん。

あんなに恵まれてるのに…困った時に好きな男の子が身を挺して助けてくれるなんて出来過ぎだよね?

なんで!なんで玲奈ばっかり!』


私が寝たきりで命の危機の頃、玲奈は幸せに友達に囲まれて学校生活をエンジョイしていた。

私がずっと入院して少女漫画に思いを馳せている頃、玲奈は承くんと全力でアオハルしていた…。

やっと見つけた私の夢を…玲奈は!


あぁ、ハッキリわかった。

少女漫画で嫉妬する悪役の気持ち…!

意味ないことしてるって読んでて思ったものだけど…理屈じゃ無い…!


玲奈が好き!玲奈が嫌い!

この相反する気持ちは間違いなく胸にある。

でもこの気持ちを承くんに見せたら絶対に嫌われる!


私はこの気持ちと付き合いながら、表には出さずに…承くんの心を獲れる?

…当初から『好きな娘が居る』って断られてる私は改めて不公平さに歯噛みする。



『あんなに!恵まれてるのに!承くんとも先に会ってるってなんなのぉ!』


なるみん『…それはわかる!』


なぜかなるみんが同意してくれた。

でしょでしょ?


応援したく無い承くんの玲奈救出作戦を応援せざるを得ない…!

でも玲奈が本当にあのデブの太ったおじさんに娶られても後味が悪くて…

私は自分の気持ちを持て余していたんだ…。

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