第401話 思い出【side香椎玲奈】

承くんの家でふたりきり。

思ってもいない展開だったよ。

…私は詫びる為にここに来た。


直前、新二くんにアポを取ってもう一度誠心誠意話しをした。

婚約を解消する為だった。

…でも、結果は同じ…それどころか承くんに対する圧力まで匂わされる始末…。

私は暗い気持ちのまま、承くんの家へ向かう。

呼び出されたお店がドレスコードあるお店だったから…そのドレスのまま。

雨が降るかもなぁ…ジャージ返さなきゃ…未練が残っちゃう…。



私は許しては貰えないだろうなぁ…って何処か他人事の気持ちで徒歩で承くんの家へ向かう。

小学校脇の歩道橋を渡る…


いつもここでバイバイしてた。

クリスマスプレゼント貰った場所でもある。


こんな気持ちでこの川を渡るのは初めてだな…。

そうぼんやり思ってると雨が降ってきた。


あぁ、ジャージ袋に入れてきて…良かったなぁ…。


雨はどんどん強くなる。

でも、今は濡れちゃいたい気分。




承くんの家の前に着く。

…家誰も居ない?


夕方だけど家にライトは点いておらず、車も無い。

…そもそもこんなびしょ濡れで…人様のお宅に伺う人居る?


はは…非常識で愚かな娘。

私らしい。


ずっと歩きながら考えてた。

…私の初めて…承くんに貰ってもらおう。

雨で濡れたって言い訳して、シャワー貸して貰って…その…。

…せめて…初めては好きな人がいいな。


…思い出…だけでも。


雨に打たれながら人の気配の無い立花家をただジッと見ていた。

中に人は居ない気がする…でも呼び鈴押す勇気も無い…。

どれだけぼーっとしていたんだろう。

気付けば承くんが後ろに居た。



私は家に通され、シャワーを浴びた方がいいよって浴室へ通され、

望ちゃんの服を借りる…申し訳無いな…。


ショーツは大丈夫だけど…ブラは合わない…サイズ小さい…!

…良いか?どうせ脱ぐし…。

1番露出の高い薄い紫のモコモコの部屋着を借りた。

胸元苦しいから少しジッパー下げて…下品にならない程度に…セクシーに。


洗面所のドライヤーを借りて髪を整えつつ、バックから諸々取り出しリップと目元だけちょっと整える。目元少し腫れぼったいかもしれない。


緊張しながら2階の翔くんと望ちゃんの部屋へ向かう。

…立花家に人が居ない事なんて一度も無かった…。

ドキドキが止まらない。


悲壮感出すな!玲奈!

後腐れなく、承くんに抱いて貰って…!

…思い出だけでも…




2階へ上がり入室すると承くんはベッドに腰掛けたたまま俯いていた。

ゆっくり近づくと、私を見上げる承くんの顔。

承くんは立ち上がろうとする。



ちょうどいいよね?

そのままベッドに押し倒す。

承くんに覆い被さるように


承くんはキョトンとしている。

もう!女の子が勇気出してるんだよ?

わかる訳ないか…悲壮感出さないように、気軽にね。

承くんが気に病まないように…

でも、やっぱり緊張しちゃう。


笑顔できてるかな?目に力入り過ぎてない?

玲奈言いなさい、お願いしなさい。



『…承くん…

…抱いて…。』





私の何処から出た言葉なんだろう?

でも、違和感は無かった。

新二くんと結ばれるよりずっとイメージできる事だった。

自然にこうなる予定だったし、イメトレや妄想、想像上の初体験はなんとなくイメージ出来ていたから…。




でも、高校生男子の性欲って…底無しって聞く…。

私…初めてだけど…今晩10回位求められたら…どうしよう?できるかな?

※玲奈は間違った性知識を持っています。



だけど…承くんは…

望ちゃんのブラのサイズが合わなかったって言うとクスッと笑う。

なんか私の決意を笑われた気がしてちょっとムッとしちゃうよ。



承くんが身体を起こそうとする、それを押さえつけようとするけど…反対に私が押し倒された格好になった。

…いよいよ…だね…緊張する…。

出来たら…キスして欲しいな?



私は目を瞑ってちょっとだけキスしやすいように…ううん、キスをせがんだ。

最初はキスから初めて欲しい…。



『てい。』


承くんの気合いの入らない声の直後!おでこ叩かれた?!


『な?!』


思わず声が出ちゃうよ!

だって!その…えっちい…ことするんでしょ?

なんでそんな子供の罰ゲームみたいなこと?!

私はまたムッとして承くんに恨みがましい視線を送る。



『話したいから来たんでしょ。

…俺もここしばらくずっと考えてた。

闇堕ちしそうにもなったし、自己嫌悪すっごい。

…優奈さんも小幡さんも来て少し聞いた…。

でも、玲奈さんの口から聞きたい。』


…承くんは大きかった…。

目先のえっちい事じゃなくって私の話しを聞きたいと。

私が罪悪感や思い出作りで来た事なんて知らない男の子は、あの頃と一緒。

何か困ったことがあるなら言って?と言わんばかり。

あの頃と変わらない、優しい眼差しのまま私に話そうよ?って言ってくれる。



『抱かないの?』


『そんな辛そうな顔した女の子なんて抱けないよ…。

…抱いた事自体無いけど。


俺と玲奈さんの付き合いじゃない。

イベントで困った時だって、ケンカした時だっていつも話ししてきたじゃ無い。

…謝罪でも償いでも身体で解決!

なんてこと絶対にしないで欲しい。』



全部見透かされてるのかな?

いや、そこまでわかっていないだろう。

でも私の知ってる承くんはそういう男の子。

結果として騙してしまった。謝りたいけど謝ってすむ話でも無い。

今わかった、私は少し諦めていた。


結局…私は会社を家族を承くんを人質に取られ…身を投げ出す…諦めようとしていた。弁護士さん入れて婚約破棄自体は出来るけど…私は自分が我慢すれば良いって思いかけてた…。

だから思い出作り…謝罪…初めては承くんが良いって…。


…私は卑怯な女だ。

自己嫌悪を抱きつつも好きになった男の子の大きさと話しを聞きたいって言ってくれる優しさに涙が溢れる…!



泣きながら途切れ途切れに…少しずつ話し始める。


ベッドでふたりで寝そべりながら…

何で婚約をしたのか、どう考えていたのか…。


誰かに聞いて欲しかったのかな?

誰かに大丈夫だよって言って欲しかったのかも知れない。


…でも、中学校の頃の困りごととは違う、違いすぎる。

それはきっと承くんにも伝わる。

県内屈指の実力者。大企業の大金持ちに目をつけられた女の子の話し。

お金と権力ある大の大人が大人気なく圧だの契約だの高校生にはピンとこない怖い話し。


『ごめんね、言い出せなくって…。』


私は何度も何度も謝った。

それを黙って聞いてた承くんはわかったって頷いた。


『それでね…』


肝心のところは一通り話した。

もう一つ懸念があるよ。



『私はきっと…承くんに汚れた女だって思われてるんじゃない?って思ってる。

想像した?私が新二くんに…その…婚前交渉とか…されてるんじゃないかって…?』


『想像して無いよ。』


…良かった。思わず呟いちゃった…!



狭いベッドでふたりきり。

さっきからベッドは承くんの匂いでいっぱい。

…潔白を証明する術はこれしかないでしょ?



本当に恥ずかしいよ!

でも、きっとこんな好機は無い、誰も居ない家でふたりきり。

…今後どうなるかなんて想像もつかない。

私は承くんが良い!



『…私がね処女おとめだって証明する術はこれしか無いんだ…。

私は婚約中も身体を許したりはしていない…

…だからね、承くんが…確かめて…』


下品にならないように…ゆっくり胸元のジッパーをじじじ…って音をたてながらゆっくり下げた…


私…上手くやれてるかな?

男の子に迫った事なんてないよぉ!

声が震える…!



『…承くん…が…確かめて…?

…私が…処女だってことを。』



言った!言っちゃった!

はしたない!もう恥ずかしい!死んじゃうよぉ!


『思い詰めないで?玲奈さん。』


私の一世一代の誘惑に承くんの視線は優しい…。


『…私…魅力無い?』


『そんな事をしなくても…俺は玲奈さんの言葉なら信じてるし必要ない。』


『…そんなこと?』


複雑…私…容姿にはちょっと自信あるし…結構…良い身体してるのに…!


『…でも、こういうのよくない。

男はそうゆう欲があって…衝動的に制御が効かなくなる生き物…。

魅力的ななな女の子ならなおさらさら。

他の男に絶対そん事しちゃダメだよ?』


承くんは動揺してるのか噛んでる…。

でもそこじゃ無い。


『…他の男の子にこんな事する思っているの?』


一瞬キレかけたよ…!


『…そうだよね…怒る資格なんか無い…。

…陰で婚約者居たなんて…。』


こんな大事な事黙ってデート!とかほっぺにちゅうした女…。

少し前だけどジュリエットになり切って承くんに無関心になった女だもんね…。

私は自分のしでかしに穴があったら入りたい気持ち。


『…まだなんかあるんでしょ?』


…承くんにはわかるらしい。

新二くんのゴネ方や私への執着、その松下グループの面倒さを話す。


『それでね…私の最初で…最後の男になる…なんて言われたの…。

…それでね?』



もう!言っちゃえ!


『…だからね…私の…初めて…奪って?

私が処女じゃ無くなれば…執着しなくなるんじゃ…?』



『…可哀想に…こんなに追い詰められて…。』


承くんは可哀想なものを見る目で私を見つめる。

バカにしてる訳じゃ無い…でもちょっと思ってたのと違うよ?


『…ふぇ?』


『…いい?玲奈さん…

女の子が簡単にそんな事言っちゃいけない。』


伝わらないかぁ…承くんだしなぁ…もっと直接的な表現で…

いや言えない!




どうしたらいいかな?どうしたら…?

ふたりで話しあうけど答えは出ない…。


ボソボソと寝そべりなが話していた私たちふたり。



!!!


とんでも無い事思いついた!

お姉ちゃん風に言うなら!秘策!!


私は少しニヤッと笑いながら、



『承くん!私良い事考えた!』


承くんは少し引いた感じで、


『…玲奈さん?人が良い事考えた!って時は悪いこと考えているもんなんだよ?』


ふふー!まあ聞いて!



『承くん!

…駆け落ち…ってどう思う?』



この家に来るまで…

いや、承くんに会うまで私は何処か悲観して諦めかけていた。

…でも、わかった!

私は嫌!望んで無い結婚なんて絶対したく無いよ!


私の隣に居て欲しいのはただ1人!


こんな当たり前の事すらなかなかわからない私は賢しらぶってるバカな女の子なんだね。



昔、承くんが言ってた通りだね、戦い方があるよね。


☆ ☆ ☆

中3、美術室。

まとまらないクラスに手を焼いてた頃だね…。


『戦には五つの方法がある。

勝てるなら戦う。戦えないなら守る。守れないなら逃げる。

逃げれ無いなら降る。』


降るは降伏するって事だよね。

降れないなら?

承くんは気持ちよさそうに、


『降れないなら死ぬしかないでしょ。』



三国志、司馬懿の遼東征伐のくだりより。



☆ ☆ ☆

女の子する話し?って思ったけど時々役にたつ承くんの武将トークを思い出しながらクスッと笑っちゃう。


そうだよね、相手が相手だもん!

戦うし、守れなきゃ逃げる!



…でも駆け落ち…ちょっと憧れる…!

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