第398話 君の道

『大都会に逃げ込んで!狭いアパートでふたり暮らし!

…お風呂なんか付いて無い物件で…うふふ…お風呂屋さんの外で待ち合わせしたりして…!』


『…玲奈さん?玲奈さーん?』


玲奈さんが遠くを見てる…

現実逃避の設定が重い…!

真っ赤になってキャッ♡とか言いながら身を捩る玲奈さんは大層可愛いんだけれど…。


『…数年見つからなければ…その間に…その…出来ちゃった結婚とかして…

子供まで居たらもう私に興味無くなるだろうし…うふ…うふふ…♪』


…怖いよこんな玲奈さん見たこと無い!

※外見を取り繕うのが異常に上手なのです。


本当に追い込まれてるんだってわかる。

そうだよね会社、婚約、県内屈指の実力者の圧。

16歳の女の子には荷が重い、重すぎる。

玲奈さんは優秀ですっごい有能。でも年相応の女の子なわけで。

大人になって色々学べばきっと俺の知ってるどんな人より優秀で有能な美しい才媛に育つことだろう。


そんな玲奈さんの未来を奪う。

好きでも無いおっさんと結婚するということ、進学して夢の弁護士になる夢を諦めろって…。

玲奈さんは1番に周りのこと、自分以外の事に一生懸命になっちゃう娘。

そんな玲奈さんに惹かれた、俺が1番しんどい時手を差し伸べてくれたのは玲奈さんだった。




…俺に何ができる?

思案するまでも無い、俺には何も出来ない。


目の前の玲奈さんは遠い目をしながら駆け落ちを考察し続けている…。

俺も玲奈さんとなら駆け落ちしたい…!

…でも…。




『玲奈さん。』


『ふぁっ?』


『駆け落ちなんて出来ないし、させたく無い。』


玲奈さんはシュンって萎む様に、


『…そうだよね…。

残された家族が…私にも家族が居るし、承くんだって…望ちゃんやひーちゃんが泣いちゃうもんね。』


あはは。わかってたんだ。

玲奈さんは寂しそうに笑う。

違う、そうじゃない。



悪天候で外はまだ暴風雨。

日曜の夕方?もう夜って言って良い。

家にはふたりきり。


好きな女の子とふたりきりでベッドに横になってる。

ここだけ聞いたらえっちい事してそうだけどふたりとも真顔。


なんか色々誘惑もあったけど何しても慰謝料取られる間男案件。

…ベッドでふたり寝そべってるのも十分アウトな気がする。


それでも、俺たちは話し続ける。

もう、俺は衝動を我慢出来ない、出来る訳がない!

俺は真面目に、



『もちろん家族は大事。

でもね、俺は玲奈さんが大事。

子どもの頃から好きだったから、ずっとずっと香椎玲奈が好きだったから。』


玲奈さんが目をまんまるくしている。

恥ずかしいとかもう言ってられない!



『俺は子どもの頃からずっと見ていた。

香椎玲奈がいかに努力家で献身的で愛情深く周りのことを1番に考えてきたか。

小5のクリスマスパーティーの頃からずっと好きだった。

中学でいじめられてクラス委員長に祭り上げられていじめられた時に助けて貰ったこと一生忘れない!』


まだ玲奈さんはポカンとしている。



『駆け落ち?出来ちゃった結婚?

とんでもない!玲奈さんはそんなこそこそしたり、人に色々言われる様な道を通っちゃいけない!』

※駆け落ち、出来ちゃった結婚を卑下する意図はありません!承は好きな玲奈にはキチンと手順に則ったケチの付けようが無い幸せな王道を歩んで欲しいって願ってるって話です。


薄暗い部屋、ふたりきり。

玲奈さんは瞳を潤ませて俺の話し聞いてくれてる。

後で冷静になったら恥ずかしいかも知れない。

でも言わずにいれない!


『玲奈さんはどうしたい?どうなりたい?

無理とか、出来ないじゃ無くって。』


玲奈さんは熱に浮かされたようにうわごとのような言葉を口にする。

なんでもはっきり表現出来る娘が珍しい。


『…望んで無い結婚したく無い…新二くんと結婚したくないよ…。

自由に生きたい、夢を追って…大学行って弁護士になる…

その上で…好きな人と結婚したいっ…!』


玲奈さんの綺麗な目が涙で潤んでいる。

本当になんて綺麗な娘なんだろう…。

さっきまで錯乱して迫ったの耐えた俺すごくない?

…今気付いた…望の部屋着だったから…耐えられたのかも知れない…!

妹の服じゃ…ねえ?



…玲奈さんの望みはわかった。

俺に出来ること…いや、やる!

俺がやらなきゃ誰がやる!

好きな娘の為ならなんでも出来るだろ!



俺は身体を起こす。

玲奈さんも起こしてこっちを見る。


すっかり夜。暗くなってしまい、灯りも点けて無い室内は真っ暗。

それでも外の街灯の光が室内に差し込み互いの顔は十分に識別出来る。


ベッドに向かい合うふたり。

ふたりして正座しながら見つめあう。



いつしか雨は止み、静かな室内。

家には誰も居ない、小さく時計が時を刻む音がする。

ふたりの息遣いすら気になるほどの静寂。

…俺の心臓の鼓動…玲奈さんに聞かれてるんじゃ?



俺はそっと玲奈さんの手を取った。

婚約者がいる状態でしてはいけないことだと重々承知している。

それでも、玲奈さんの右手を両手で包む。

玲奈さんはその包んだ両手に左手を添える。


さらに潤んだ瞳で玲奈さんは俺を見つめる。

俺も強い視線を返す。






『玲奈さん…聞いてくれる?

昔もこんな事言ったかもな…。


俺がなんとかする!必ずなんとかしてみせる!』








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