第396話 証明

弱々しくも悲壮な玲奈さんの表情から目が離せない。

俺はベッドに仰向けに倒れ、下から玲奈さんを見上げるかたち。


薄暗い室内で艶かしく動く唇から出た言葉は…


『…承くん…

…抱いて…。』



ちょっと何言ってるかわからない。

…否、はっきりわかんだね。


俺腰の上に馬乗りになり、俺の両耳近くに両手を付いて俺の顔を挟むようにして逃がさない。

俺の反応が無いからかもう一度、今度はかすれるような声で、



『…承くん…聞こえなかった?

…抱いて…おねがい…。』


頭クラクラする、目の前に玲奈さんの顔がドアップで目はギラギラして俺から目を離さない。

望の部屋着は少し小さいのかおへそがチラッと見えたし、前面のチャックは半分しか閉まってない…。


?!


胸の谷間…!


玲奈さんは少し恥ずかしそうに、


玲奈『ショーツはともかく…ブラはサイズが…。』


望が聞いたら荒れるw

ぷっ。俺は笑っちゃう。


玲奈さんはムッとした顔で、


『…女の子に恥かかせないで?』


ふう。本当に迫られてえっろい顔してたら俺なんてイチコロだったでしょ。

いやまじ。



俺はブリッジの要領で軽い玲奈さんを揺さぶり、開いた胸元を庇った玲奈さんを逆に押し倒す様な格好になった。


玲奈さんは目を瞑る。

まるでキスをせがむみたいに…。

勢いでしちゃったらどんなに…。

でも出来ない。

こんな悲壮感全開の女の子に付け込んで襲っちゃうなんて俺には出来ない。



キス顔…撮影したかったな…ちょっと未練がありつつ、


『てい。』


ぺち!


望にするようにおでこをペチンって鳴るように叩く。


『な?!』


びっくりしてる玲奈さんに俺は促す。


『話したいから来たんでしょ。

…俺もここしばらくずっと考えてた。

闇堕ちしそうにもなったし、自己嫌悪すっごい。

…優奈さんも小幡さんも来て少し聞いた…。

でも、玲奈さんの口から聞きたい。』


玲奈さんは目に涙を溜めて、


『抱かないの?』


『そんな辛そうな顔した女の子なんて抱けないよ…。

…抱いた事自体無いけど。


俺と玲奈さんの付き合いじゃない。

イベントで困った時だって、ケンカした時だっていつも話ししてきたじゃ無い。

…謝罪でも償いでも身体で解決!

なんてこと絶対にしないで欲しい。』


玲奈さんは泣きだした。

泣きながら途切れ途切れに…少しずつ話し始める。


ベッドでふたりで寝そべりながら玲奈さんは語り出す、

何で婚約をしたのか、どう考えていたのか…。


こんな話しするなら起きてしっかり聞くべきなんだろう。

でも俺も今日は色々ありすぎてへとへと。

そんなわけでふたり寝転がりながら、話が始まった。


俺のベッド今日成実さんに玲奈さんまで迎えてすごいな!

持ち主は何も出来ないんだけどね。



☆ ☆ ☆

玲奈さんが話した事はあらかた優奈さんや小幡さんが話して行った事だった。

玲奈さんの口から聞くのは初めて。


去年、7月頃俺カレのお使いでターミナル駅ですれ違った直後に玲奈さんはずいぶんやさぐれていたらしい。

…あぁ、その時彼氏できたんだっておめでとうって言われたと…俺に。

うん、言った。俺、玲奈さんに彼氏の噂で結構ショックだったもん。

※玲奈のフェイク彼氏の嘘→承が間に受けて玲奈に彼氏出来たんだって?おめでとう→玲奈自暴自棄で婚約受ける→説明出来ないまま発覚(今ここ)


玲奈さんの実家の家業、香椎商事は近年の世界的流行の感染症、円安、物価高と戦争による原油高騰などの煽りを受けて近年業績が悪化していた。


『…香椎商事はね、ひいおじいちゃんが始めた会社なの。

世界の良いものを日本の皆さんにお届けしたい。

日本良いものを世界にお届けしたい。

このコンセプトで大正時代からずっと。

お爺ちゃんからもパパからもそう聞かされて育ってきたし、それは私の、私たち家族の誇り。』


玲奈さんは目をキラキラさせて語る。


『パパの代になって発展途上国や貧しくて困ってる国の仕事が増えた、パパとママが話す海外のことに私とお姉ちゃんは胸を踊らせた。

当たり前のことだけど適正な価格で買い付けて適正な価格で販売して利益を出すのは大変なこと。

…それが近年の円安や諸々の高騰や感染症…。

香椎商事は苦しくなった。』



悔しそうな玲奈さん。

…胸しまって…。


『そんな時、香椎商事の重要取引先の松下グループから取引大規模縮小の話があって。パパと松下さんは大学の先輩後輩だったから何度も話して…

で、一回プライベートでも会おうって事になって。

…で、家族ぐるみで顔合わせしたの…。』


新二さんとお兄さんの新一さん。

玲奈さんと優奈さん。

年は離れてたけど新二さんが私と婚約したいって言い出した。



…そりゃ玲奈さん欲しい?って言われたら欲しくなるでしょ。

玲奈さんは当時やさぐれてバンバン新二さんにダメ出しして泣かしたそうな。

なんでそんなにやさぐれてたの?


玲奈『…後から聞いたけど松方家は

「美人の才媛を嫁に貰え。」って家訓があるんだって。

それで国立大進学のお姉ちゃんと天月高校に進学した私たち姉妹が候補に上がったらしいのね。』


ふう、玲奈さんはため息を吐く。

続けるね?うん。話は続く。


『…私と新二くんは10歳も離れてるし、結婚相手は自分で選びたいよ!

でも香椎商事を救いたかった。家族の象徴でご先祖様の夢で私の誇り。

パパとママが築きあげた夢、情熱がそこにあったから。

昔から遊びに行く従業員さんたちもみんな私とお姉ちゃんを可愛がってくれた。このままきゃ従業員の皆さんの生活だって!

パパとママの作り上げたかけがえのない場所を私は守りたい。』


真剣な瞳、16の女の子の悲壮な覚悟がビリビリ伝わる。


『その辺の話もした上で、新二くんとはビジネス的な婚約だって了承を得ていたの。

結婚出来る18までは強制力は無いし、いつでも婚約は破棄出来る。

婚約中は香椎商事との取引は継続するし、破棄したら取引中止。

両者の合意が無きゃ接触や…その…性的なことも絶対ダメ!

私は香椎商事が回復する時間と余力が欲しい、新二くんは私が欲しいそういう取引だったのね。』


…そんなことが…。


『新二くんは太って甘えて拗ねてるわがまま子供部屋おじさん!って感じの大人なんだけど新二くん自体は家族にコンプレックスがあり、学校生活にトラウマと人間不信を植え付けられた寂しい人だと思った。

…だから私は新二くんの話しを聞いて媚びずに思ったことを言って食事したり、一緒に料理作ったり色んな事を共有して彼のカウンセラー?は傲慢かな。

でもトラウマやコンプレックスを薄めるような、上書きするようなお付き合いをこの約一年ほどしてきたの。』


そんなことが…それに勉強に部活にクラス委員長に弁護士になる勉強を並行して?最近ボランティアとかしてるでしょ?

玲奈さんには敵わない…。


『私は新二くんに感謝もしてた。香椎商事が立ち直る猶予を彼の助力で得たから。

だから私は彼の為になるような事や話しを聞いたり、新二くんの学生時代好きだったんじゃないかな?ってお姉さんを取り持ったり色々したの。

婚約破棄!ばいばい!じゃなくって…なんなら今後も…出来たら妹分として。

いくらビジネス上の関係だったとしても終わったらおしまい!や敵になるのは悲しい。

だから私は色々準備して、ゴールデンウィークの最終日新二くんに婚約破棄を切り出した…。

香椎商事はパパの努力とママの営業、お姉ちゃんの伝手の海外案件で業績を回復した。多少の慰謝料払っても良いから婚約破棄しようってパパは言ってくれた。』


玲奈さんの顔が曇る…

でも、その悲しい表情でさえ俺には眩しく目が離せない。

それがあの日だったんだ。

俺は初めて口を出す。

玲奈さんは硬い表情で頷く。


『だけど…新二くんは私が欲しいって。

このまま婚約は続けて…18になったら結婚しようって…。

私には夢がある事、好きな人と結婚したい事を改めて伝えたんだけど…。


東大なんて行く必要無い、弁護士なんてならなくていい。

高学歴過ぎてちょっと気後れしちゃうから。

俺が一生働かなくても贅沢させてあげるし。

取り持ったお姉さんを愛人にして私を正妻にするって言い張ったのね…。

だから婚約破棄は絶対受け入れないし、どんな手を取っても拒否しまくるし、弁護士入れて徹底的に長引かせるし俺は諦めない!みたいな事言い出して…。』


そうして決裂した帰り道、俺と紅緒さんが居合わせた…。

優奈さんに…もう一度話しをするって聞いたけど?


『…うん、今日ね会ってきた。』



その口ぶり…きっと良くなかったんだろうな…。


玲奈さんは語る、

今日会ってきて、同じやり取りがあった事。

玲奈さんに執着して、絶対拒否の姿勢だったこと。

そして何がなんでも拒否の姿勢で香椎商事商売だって圧をかけるし、

法的にもゴネて何がなんでも拒否の姿勢。


『…私はね。

さっきも言ったけど世話になったから後ろ足で砂をかけるような真似は絶対したく無い。

だから婚約中は誠意を持って接してきたし、

今日も最後まで誠意を持ってお願いしてきた。

…でもダメだった。きっとここから泥沼になって…大変な事になる。』



玲奈さんはごめんね、言い出せなくって…。

何度も何度も謝った。

俺は良いよ、わかったよって伝えるけど玲奈さんは納得しない。


玲奈さんはずっと言い出したかった。

でも誠実で真面目な承くんはきっと婚約者が居る女の子には一線を置くだろうって思った。

そう思うと毎日のロインやたまにお出かけやこないだみたいなイベントなど応じてくれなくなって距離を置かれるそれが怖かった…。って泣きながら言った。



そう…そうだね。

婚約者が居たら…距離置いたかもしれない。

うん。




話はひと段落、大体流れはわかった。

…俺に何が出来る?

この娘の為俺には何が出来る?

子供の頃から憧れたこの死ぬほど好きな娘に俺が出来ること…。


玲奈さんの話はまだ終わってはいない。

でも、俺も長考状態。


ぼんやり話を聞いている。


それでね…

玲奈さんは少し仕切り直した。


さっきまでの痛々しいほどの悲壮感は少し収まった。

それで緊張感のある真面目な顔。

綺麗な信じられないほど整った顔に見惚れる…。


『私はきっと…承くんに汚れた女だって思われてるんじゃない?って思ってる。

想像した?私が新二くんに…その…婚前交渉とか…されてるんじゃないかって…?』


清楚な玲奈さんの口から出る婚前交渉ってパワーワード!

破壊力!聞きたくないよ!


俺は、


『想像して無いよ。』

(毎日!その夢!毎日!うなされてるよぉ!)


冷静にそう言い切ったけど、思ってた。


玲奈さんは…良かったって呟いた。

正解だったらしい…!


そもそも狭いベッドでふたりで寝転がってるんだから逃げ場など無いんだけどもね。

玲奈さんはズッと距離を詰めてきた!

ダメ!危険!



玲奈さんは真っ赤な顔して、本当に恥ずかしそうに。


『そうは言ってもこんな長期間婚約してて…それを秘密にしてた…そんな女の子信用できないよ…私は…。』


一回目を逸らすけどすぐに俺をまっすぐ見つめて、もっと真っ赤になりながら、




『…私がね処女おとめだって証明する術はこれしか無いんだ…。

私は婚約中も身体を許したりはしていない…

…だからね、承くんが…確かめて…』


そう言いながら…玲奈さんは胸元のジッパーをじじじ…って音をたてながらゆっくり下げた…


頬を赤らめ、目を潤ませ唇を少し開くその表情から俺は目がそらせない…。






『…承くん…が…確かめて…?

…私が…処女だってことを。』







☆ ☆ ☆

378話の承と永遠が玲奈と新二に鉢合わせるシーン。

当初望とひーちゃんも紅緒さんを送りに一緒に来たバージョンで、のぞひーがバンバン話しを引き出してその場で完全な情報共有した上に望が新二さんに襲いかかるとこまで浮かんである意味そこで解決しちゃうルートになってしまいのぞひーにはお買い物に行ってもらいましたw

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