第383話 空白の日【side香椎玲奈】

仮眠を取り、目を覚ますとお姉ちゃんは離席していた。

今しか無い。


私は早足で承くんの家に行く!

誤解は早く解かなきゃ…謝って全てを話して…。

怒られるかな?がっかりされるかな?バカだと思われるかな?

会ってくれなかったらどうしよう?

婚約者居るのにデートってお出かけしたりする女…承くん軽蔑するかな?

でも!今日言わなきゃもっと話しにくくなっちゃう!

承くんの中で消化され納得して離れて行ってしまう!


17:00過ぎ、立花家の前に着く。

…アポ取って来たら良かったな…。


一瞬躊躇うけど…勢い、ここは勢いで!


呼び鈴を鳴らす。



望『へらっしゅー!!』


丈の短い部屋着で妹の望ちゃんが出てくる…。

望ちゃんは私を上から下まで見て、



望『先輩?今日露出度高くないですか?』


…上に羽織ってるの脱いだまま来たから肩は丸出しで確かに…。

でも望ちゃんだって手足丸出しでしょ!

そう思うけどそんな事言っている暇は無い。


『…望ちゃん、承くん居る?』


望ちゃんはあれ?って顔で、


望『珍しいですね?先輩が約束無しで来るなんて…。

兄ちゃんは宏介くんとこ出かけちゃったみたいで帰って来て無いんですよ…

。』


私は慌ててスマホで…スマホ忘れてしまった…

望ちゃんが本当に珍しいですね?って言いながらその場で電話かけてくれた。


望『スマホ切ってるのかな?バッテリー切れ?

連絡つかないみたいです。

さっき宏介くんから兄ちゃんは預かる!って怪ロインが…!

預けたら利子付かないかなぁ…?』


望ちゃんは楽しげに話すけど私はそれどころじゃ無くって…

宏介くんに話が行ったって考えるべき…どうしよう…。


望『…?

先輩?大丈夫?具合悪いんじゃない?』


私は望ちゃんに大丈夫、帰るね?って言い残して家へ戻る。

身体は鉛のように重く足取りはさらに重い。

足を引き摺るようになんとか家に戻ると、




優奈『玲奈!目を離した隙に抜け出して!

…玲奈?玲奈?!』



私は意識を失った…。

身体が崩れる寸前にお姉ちゃんが抱き止めてくれたのがわかった…。



☆ ☆ ☆

翌日、私は思い出せないほど久しぶりに学校を休んだ…。

健康優良児で責任感強い方だから学校休んだ記憶は無いんだよね…。


両親から松下家との婚約破棄交渉は上手くいかなかったことを聞いた。

まあ新二くんの意向がアレなら仕方ない…。


両親は慰謝料ならいくらでも払うし法的に解決しようって言ってくれた。

幸いうちは割と資産家で数百万円位なら捻出できるって言ってくれた。


優奈『会社のお金とは別の香椎家の資産だからね。

別会計だから玲奈は気にしない!新二ぶっころ!』


お姉ちゃんが悪様に罵りながら私を病院に連れて行く。

GW明けの病院はそれはもう混雑していて…


いつもなら文句言うお姉ちゃんが、


優奈『まじ混みすぎ!』


…うん、文句言ってた。


血液検査や各種検査して出た結論は…。

…ただの過労とストレスだった。


幾つかおくすりを処方された私はまたお姉ちゃんの車に乗って家へ帰る。

最低3日は安静にストレスフリーで過ごした方が良いって言われた。


優奈『あー良かった!

玲奈が妊娠してなくて!』


『…処女だもん…妊娠するわけわけ無いでしょ。』


…いつもなら妄想したり、承次郎くんみたいな事を…承くんが!

とか捗る妄想も…今は虚しい…。


はあ…ため息をひとつ吐いてスマホを取り出し?

あれ?スマホ?


優奈『ストレスの元になるからお姉ちゃんが預かるよ?』


お姉ちゃんはそう言うと私のスマホをくるりんって回して自分胸の谷間にスマホを差し込む。

男の人がそれ取ったら犯罪だけど同性だし妹なら問題無いのでは?


私はイラッとしながら横のお姉ちゃんの胸の谷間に手を伸ばす。


優奈『玲奈?お姉ちゃんは今年免許取ったばかりのペーパードライバーだよ?

過信しちゃダメ!』


運転中の悪ふざけダメ!絶対!


☆ ☆ ☆

家に着く。

お姉ちゃんはパパママに過労とストレスってロインしてくれた。

今朝病院行くのもパパもママもお姉ちゃんも全員が自分が連れて行く!

って争っていた。

パパは仕事に行かされたし、ママは在宅で仕事して精のつくもの作って待ってるって言ってた。


優奈『ほら玲奈?』


お姉ちゃんは私の手を引いて部屋へ連れて行く。

…お姉ちゃんの部屋に…。


お姉ちゃんはまるで幼児を扱うように私の服を脱がせて真新しい部屋着に私を着替えさせる…。


優奈『じゃーん!おそろー!ペアルック♪』


…お姉ちゃんの謀略だった。

お姉ちゃんは同じ部屋着を用意していた。

…いい年した姉妹がなぜお揃い…。


昨日もそうだったけど何故私の部屋に送ってくれないの?

必ず自分のベッドに押し込もうとするよ…。


しかもスマホは返してくれない。

お姉ちゃんのベッドで横になりながら話しているとそろそろお昼の時間。

一階のリビングへ降りようとすると…



ママ『はい、玲奈お待たせ♪』


ママが食事を運んでくれた。

メニューはシンプル。

出汁の効いた卵のおかゆ、しっかり煮込まれたポトフ、野菜ジュース。


ママ『はい、玲奈あーん!』

優奈『ママ!私がする!』


弱ってる私が心配なのかふたりが争うようにお世話してくれた。


…具合悪くて学校休むなんていつ以来だろ?

小学5年生くらいだったかな?


消化の良いバランス取れたメニューを平らげて私はまたお姉ちゃんのベッドに押し込まれる。


どうして部屋に戻してくれないの?お姉ちゃんに尋ねる。

玲奈が仕事をするからだよ?お姉ちゃんは答える。


どうしてスマホ返してくれないの?お姉ちゃんに尋ねる。

ストレスになるからだよ?お姉ちゃんは答える。


でも、緊急の用事や私信が来るかも知れないよ?お姉ちゃんに尋ねる。

パパの心配ロイン以外は天月のお友達から安否確認だけだよ?


『なんで!お姉ちゃんがスマホのロイン読んでるの!?』


優奈『妹の事は姉が1番知ってるの!ふふー!

…ぶっちゃけ玲奈のマイナンバーから口座の暗証番号…スリーサイズまでお姉ちゃんにはまるっとお見通し。』


おちゃらけて言ったあとお姉ちゃんは真面目な顔で、



優奈『…承くんからは連絡無いみたいだね…。』


ふう…。

私は泣きそうだったけど普通を装い、少し寝るね?ってお姉ちゃんに宣言して眠りについた。


☆ ☆ ☆

コンコン。


ノックの音で目を覚ます。

あ…夕方4時?


私は3時間ほど眠っていたらしい。


千佳『…れいな?』


小声で千佳の声がした。


『どうぞ?』


県高の紺色の清楚な制服に身を包んだ千佳がそっと入ってきた。


千佳『…玲奈!びっくりしたわよ!

玲奈が病欠なんていつ以来?』


『…はは、わかんない。』


朝途中まで一緒の千佳にはロイン入れておいた。

帰りにお見舞いに来てくれたんだね。


千佳『家訪ねたら優奈さんがそろそろ起きるから私の部屋の方に居るから顔見て行って?少しおねがい!って言ってたよ?』


むう、お姉ちゃん飽きたな?

私はおどけて、


『ちょっと体調崩しちゃって。

インターハイ予選前で良かったよね?』


千佳は悲しい顔で、


千佳『…優奈さんに聞いた。

玲奈、体調良くなったらさ?

承くんに話ししに行こう?』


聞いたのか…お姉ちゃん…!

隠し立てできないし、千佳にはもう知られてる…。


私は昨日のことを話す…。


千佳は泣きながら、


千佳『だから言ったじゃん!

先に承くんには言っておけば良かったのに!

最悪のタイミングでしょ!

行く?承くん家?望だって居るでしょ?』


返す言葉もない。

でも、今は会えない…。


『…結構体調は悪いの…ちょっと倒れそう。

もう一度だけ、新二くんに会ってお願いしてみて…

結果はどうあれ、そうしたら承くんに謝罪と経緯を説明する。』


千佳『悠長じゃ無い?とりあえず電話でもロインでも説明を…。』


『承くんから連絡も無いし、もう嫌われてるかもだし…。

週末アポ取ってもう一度新二くんに交渉試みてから全部話しに行くよ。』


千佳『玲奈のわからずや。

言っても聞かないんだよね、こういう時は…。

過労もあるんでしょ?』


私は3日安静にしたら、週末アポ取って新二くんと話をすると決めた。

千佳と話してそう決めた。

そうしたら承くんに全てを話しに行こう。

許されなくても、謝らなきゃいけない。

…でも今は会えない、会えないよぅ…


千佳はまた明日も来るって言って帰って行った。


…お姉ちゃんは帰って居ない。

机の上に私のスマホは置いてある。

…でも、パパ以外は高校の友達から少ししかロインは来て居なかった…。


ストレスになるし、出来たらスマホ触らない!ってお姉ちゃんに厳命されている。

早めに治す為にもスマホを戻し私は横になる…。


私は自他共に認める。仕事中毒なのね。

ただ休むって性に合わない。


お姉ちゃんが本棚や積み本でも読んでな?って言ってたから…

私はよろよろ起き上がって本棚を覗き込む。

お姉ちゃんは読む物が雑多だ。

旅行好きだから地理書が目立つけども少女漫画、小説、推理小説、ビジネス書、文芸書など雑多かつ膨大な量の本がある。


…私は一冊の積み本に目を止める…。

あれ?これ?


それは私の愛読書…武将の承次郎くんと永奈姫のそれはもうエロエロあまあまな… 武将様に溺愛されて?〜無骨だけど真っすぐな漢は絶倫で一晩中…〜の作者さんのデビュー作。


『モブ恋委員長…?』


モブに恋した委員長の話って言う赤城アンネ先生のデビュー作…密林評価⒋2の…

そのうち手を出そうとしてた…。

武将様は2作目らしい、こっちがデビュー作。

本を読みたかったわけじゃ無いけど…お姉ちゃんの積み本コーナーにまさかあるとは…。


お姉ちゃんも居ないし、私は本を手に取ってパラパタめくり始める…。


高校2年生のクラス委員長の礼香は小学校から一緒のモブ男子が気になっている。

礼香はあの手この手で…モブ男子くんを自分の仕事に巻き込み、お礼と称して…えっちいお礼をして行くってストーリー…。


こんなテンションじゃなきゃ女優モードで熟読するんだけど…。



礼香と共に高校生活をエンジョイしながらお礼と称して礼香はブラを見せたり、撮影をゆるしたり、ハグしたり段々エキサイトするお礼…。


そして…おっぱいを…!


私はここで読めなくなった。

礼香とモブ男子くんは私と承くんを連想させてしまうから。

高校生だし、礼香は初めから痴女っぽいムーブだし、モブ男子くんは承くんみたいに漢気は無い。


それでも、高校生の青春模様と共に過ごすふたりが私は眩しくて、切なくて私は本をそっと元の場所に戻す…。





私はもう一回泣いた。

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