第376話 猛獣使いのお姉さん【side立花望】

ふう、なんでこんな気合い入らないんだろ?

…5月連休に入っても調子は上がらないし、メンタルはもっと上がらないし。

6月半ばにはもう全中の県予選始まる。

今追い込んでおかないと直前に無理出来ないし…。


緑『望おやつ食べる?』

きい『ちょっと休めば?』

茜『甘やかしすぎじゃない?』


望『おかしはもういい…。』


芹『望ちゃんが?!』


だってそんなに動いて無いんだもん。

太ったらもっと面倒なことに…。


明日はひーちゃんの誕生日だなぁ。

絵本喜んでくれると良いなぁ…。


今日で連休の部活は終わり。5/5、6はオフなんだよね。

ゆっくり寝て…5歳になったひーちゃんを愛でて過ごそう。


もう11時、あと1時間位で部活もおしまい。

早く終わんないかなあ。


芹が困ったようにあたしを見てるけど…言いたいことはわかる。

連休明けたらまた頑張るからさ?


茜『やっぱこんな望イヤ!ガチろう?』


※真剣勝負の試合しよう?って意味です。


『や。そのうち戻るからさ?』


芹が少しキレて。


芹『いつか香椎先輩に勝つんでしょ?こんな調子じゃいつまでたっても絶対勝てないよ?』


『高校生になったら公式戦で当たるようになるし。

勝つよ、いつか。』


そんな会話していると入り口が騒がしい。

『香椎せんぱいこんにちわ!』

『小幡先輩!お疲れ様でーす!』


キャッキャ盛り上がってるJCを横目で見ながら先輩が部活に顔出すの久しぶりだなぁって思う。うちは卒業生がOG訪問で後輩の練習見てくれる伝統があるんだよね。

来るなら最初から来ること多いのにこの終了前に来るなんて珍しい。


小幡先輩は見たことあるウェアを着ている。

香椎先輩はダボってしたジャージ姿。

サイズ合ってなく無い?


小幡『望久しぶりね?』

香椎『お久しぶり♪』


『お久しぶりです。』


香椎先輩はこないだうち来たじゃん。


香椎『…お兄ちゃんに聞いてきたけど…?

元気無いらしいね?』


『余計なことを…。』


香椎先輩は頭良いけど体育会系でもある。

きっとあたしはこの後試合でボッコにされて?

奮起するように促されるんだ…。

そうまでしないと調子戻せない気もするし、試合でボコられるの不快だからやりたくない気持ちもある。


『…試合やります?』


でも先輩わざわざ来てくれたんだし…こっちからお願いする姿勢で…。

そう思いながら言った言葉だった。


香椎『…うーん?いいかな?』


望『は?』


先輩は少し困った顔してあたしの申し出断った。

は?その為に来たんじゃ無いの?


香椎『やる気無いのに試合は怪我の元だよ?

そんな気合い入らない試合に得るもの無いでしょ?

そんな試合ならやらない方がいいし、走ってた方がいいよ。』


小幡『…玲奈?

おーい?玲奈?』


香椎『使わないなら?そのラケット頂戴?

承くんがバイト一生懸命に頑張って買ってくれたラケットでしょ?』


望『先輩?あたしを怒らせてやる気引き出そうって少年マンガのアレですか?』


香椎『そうだよ?

望ちゃん程度ならハンデでこのダボってしたジャージで十分!

でも今の望ちゃんじゃ怒る気合いも無いのかな?』

※挑発下手




緑『香椎せんぱいあんまり挑発上手くないね?』

きい『悪役向かない。』

茜『下手な挑発だけど…』

芹『うちの子は挑発に弱いのよ。』


親友sはニヤニヤ見ている。


望『舐めやがって…!

今日こそそのキラキラおめめ涙目にしてやる!』

※挑発に弱い猛獣。





試合は香椎先輩リードですすむ。

気合いは入ったし、油断もしない。

ダレてたとは言え部活始まって2時間のあたしに比べて先輩はアップした程度。

2歳差で師匠筋とは言えあたしだって頑張ってきたんだもん!


それを嘲笑うように香椎先輩はほぼ全ての面で上を行く。

香椎玲奈の性格なんだよね。

弱点を許せないから満遍無く鍛えて総合力で上回って相手を圧倒するスタイル。

先輩たちが香椎先輩とやると弱点を抉られて調子崩すとまで言わしめた香椎玲奈スタイル。

あたしはそれに似ていて最初がっぷり組み合ってから私のペースに引きずり込み乱打戦に持ち込むのが真骨頂。


香椎『望ちゃん?ラケットが泣いてるよ?』


望『テニスの為ならラケットも泣かすぅ!』


もちろん!このウイルソンちゃんを溺愛しているあたし。

兄ちゃんの気持ちに恥じない誇ってもらえる妹に、プレーヤーになるんだ!


厳しい香椎先輩の攻めを凌ぐ、攻め気を忘れると押し切られちゃう!

針の穴ほどの隙間にねじ込み、流れを引き戻す!

そうはさせない!先輩の対応力は全国クラス!

そうだよね身近に全国レベルの超える壁がある!

いつまでもへこんでらんない!先輩だっていつか倒すべき相手!


昔兄ちゃんが言った。


承『いつかなんて日が来るの?挑まない者のカレンダーに?』


兄ちゃん!

あたし誓うよ!

いつか聞いてくれる?兄ちゃんの妹で、ひーちゃんの姉で良かった!って宣言するの!

…いつかプロになる!プロになって大きな大会勝って!

優勝者インタビューで兄ちゃんや家族ともだちを泣かしちゃう!


あたし楽しくなってきた!

こんなに強い先輩と昔と違って勝負になってる!

ゲーム差はある!でも流れが勢いがある!

あたしのリスクを負ったギリギリの攻めが先輩に通じてる!

長引けば逆転も?!



香椎『たいむ!』


ち…。水をさされた…上手いな…。

でも今までで1番勝負になってる!

集中切らすな…?今日こそ怨敵香椎先輩を…

ずっと負け続けてきた屈辱…今日こそ!


香椎『お待たせ♪』


ジャージ脱いだの?

下ウェアだったの?


先輩のウェア姿は女の私から見ても素晴らしいスタイル。

足長くて綺麗でムチッとしてて。

ウエスト締まって胸大きい。

ヒラヒラスカート超似合う…なんで最初からそれで試合しないん?

…!



あたしはコレをした側だったんだ…!

しかも負けた…!


香椎『いくよ?』


…。



…。




…そこからは香椎先輩が全ての面で一段上回って見せた。

終わってみれば香椎先輩の順当勝ちだった…。


香椎『ありがとうございました。』

『あ、あえいがとごじゃいました…。』


緑『泣かない、1番追い込んだじゃん!』

きい『そうだよ!見せ場十分!』

茜『私も頑張ろー!って気になる良いゲームだったよ!』


『慰められると…泣きそう…。』

芹『もう、望ちゃんったら。でも良かった。』


親友sが慰めて抱きしめてくれるから涙目が決壊しそう。

審判してくれた小幡先輩が声かけてくれて、


小幡『望?吹っ切れた?』


『ういっす。一丁前にへこんでる時間なんて無かったってわかりました。』


香椎先輩は虫も殺さぬ男子を魅了しまくり笑顔で、


香椎『鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて得る物があるでしょ?』


『鍛える』多くない?

こんな可愛い顔してストイックな体育会系なんだもん。嫌になっちゃう。


気になった事だけ聞いてみる。


『あたしがハンデ付けて負けたから同じようにハンデ付けたんです?』


先輩は頬を赤ながら、


香椎『ううん、さっき一夜漬けのビンテージ物を手に入れちゃったから?

脱ぎたくなくって…♡』


何それ?ジーンズ?それとも干物?

先輩のフェロモンみたいなのがぐっと強くなる。

後の親友sも驚いている。

先輩はえっろい顔してジャージを羽織った。


『あ!兄ちゃんのadiós!』


香椎先輩はウインクしながら、


香椎『本人に了解得たもーん♪』

※着ていいとしか。


『ジャージ預かって返しておきましょうか?』


香椎『…まだダメ。流石に返さざるをえないけど…今は返せない!』


香椎先輩…他の人には見せない顔を私に見せてくれるのは兄ちゃんの妹だからなのかな?少し笑っちゃう。


『でも先輩悪役向かないですね?』


香椎『そうかな?

私悪い先輩だから後輩に甘いもの与えて?

手懐けちゃおうかな?望ちゃん、後の親友さんたちを連れてうちおいで。

昨日焼いたケーキご馳走するよ?』


親友s『あざーす!』


飴と鞭使い分けて妹のケアまでしちゃう。

兄ちゃんが先輩に勝てるわけがない。

先輩の言いなりになってる兄ちゃんが思い浮かんであたしはクスクス笑っちゃう。

芹が尋常じゃないほどはしゃいでいて私はスンって落ち着いた。

その後のケーキは大変素晴らしかったよ。


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