第374話 他人に見せない顔

手を添えて釣竿抑える玲奈さんの白いしなやかな手、小さくて整った顔が至近距離でアップになった状態!

つい今さっきまで考え込んでいた相手が目の前に!


玲奈『ほら!承くん頑張って!』


はしゃぐ玲奈さんすっごい可愛い…!


待望の魚ヒット!あんなに釣りたかった魚よりはしゃぐ玲奈さんにばっかり目が行って…。

いやいや!今は!

リールを巻きながら引く!竿を上げ!糸を弛ませないように!


数分の格闘の後、釣り上げた魚…これなんだ?

いつの間にか皆んな集まっていて、その中の青井はスマホ見て


青井『マゴチだな…旨いらしいぞ。』


大きさは40cm位。青井やあっちゃんのスズキよりは小さいけど俺にとっては大物!コチの一種。煮魚、唐揚げ、白身で上品な味わいらしいよ?

ヒャッハー!!やっと釣れた!


仙道『良かったな釣れて?』

田中『ほんとほんと。』

厚樹『わかるわー。』


『良かったー!めっちゃ嬉しい!』


玲奈『え?1匹目なの?』


玲奈さんは驚くよ。

…驚き顔良いよね…。


『恥ずかしながら…。そんなことより?

なんで居るの?』


玲奈『居ては悪いの?千佳から皆んなで

釣りキャンプしてるから差し入れ持って行こ?って誘われて…本当は昨日も来たかったんだけど用事で…。』


仙道『…本当に実在したんだ?!』


仙道は初対面だっけ?香椎さんと仙道をそれぞれ紹介する。


仙道『なるほど…美人慣れてる訳だわ…!』


失礼な事を言うよね?


仙道『香椎さんが来るまで立花1匹も釣れて無かったんですよ。

香椎さんが来てくれたおかげで釣れたんじゃない?』


玲奈『…そうなの?じゃ傍で見てた方が良いかな?』


小さく首を傾げて玲奈さんは微笑む。

昨日のあっちゃんとの会話…さっきのひとりでずっと玲奈さんの事ばかり考えてたから俺なんか玲奈さんの顔見れないっ!


釣れたての可愛いマゴチちゃんをキャンプのクーラーボックスへ入れて来る。

そう言い残し、キャンプ地へ行くと。


優奈『…あら?承くんお邪魔してるわね?』


ビーチチェアを全開で倒して麦わら帽にサングラス、アロハにショーパンっていでたちで美女が横になってた…!

優奈さんの運転で小幡さんと玲奈さん来たんだね?


クーラーボックスにマゴチを仕舞い、少し話していると皆戻って来て朝食にする事になった。


テーブルに広げられる、サンドウィッチ数種類、唐揚げ、フライドポテト、きのこのソテー、きゅうりの浅漬け、トマトチーズを爪楊枝で刺したもの。


男子は皆喜んで食べ始める。これ美味いんだよねー。

玲奈さんはコーヒーを淹れて、希望者には牛乳を配りながら手際良く取り皿や割り箸を配って回る。…優奈さんはまったく動かず玲奈さんにお世話されてた。


優奈さんが来い来いって手招きする。

優奈さんは俺に耳打ちする。近くてドキッとしちゃう。


優奈『うちの玲奈良いお嫁さんなるって思わない?』


俺は真っ赤になって頷く。

それしか出来ないでしょ!


仙道と田中くんが優奈さんに耳打ちされて真っ赤になる俺を見て…冷たい目で見る…違う、これはコメントに困ること言われたから!


一通り行き渡り食事が始まる。

サンドウィッチうま!

これ玲奈さんのたまごサンド!刻んだ玉ねぎとちょっとカラシが入ったヤツでめっちゃ旨いの!


玲奈『美味しいかな?』


ノータイムで、


『すっごい旨い!いくらでも食べれる!』


玲奈『ふふー!お世辞言っちゃって!』


『お世辞じゃ無い、1番美味しいサンドウィッチ。』


玲奈『も、もう!お姉ちゃんに囁かれて真っ赤になってたくせに!』


あ、お怒りで隣に来たのですね?

俺は従順な男…まして美味しいご飯を食べさせてくれる娘には…。


玲奈『お姉ちゃん何て言ったの?なんてからかったの?』


ごく。サンドウィッチを飲み下しながらなんか言いにくくて口籠る。

玲奈さんは優奈さんに文句言おうと立ち上がるから、


玲奈『言えないような『玲奈さんが良いお嫁さんになるねって!』』


ちょっとぷんすこ玲奈さんに被せるように優奈さんのコメントを俺も赤面しながら言う。


玲奈『承くんに?承くんの?』


玲奈さんはなんかぶつぶつ言いながら目を回したかのように椅子に崩れおちて手で顔を覆った。


優奈『あ!君が若葉ちゃんの弟さんでしょ?』

厚樹『はい、そうっす。』


優奈さんは若葉さんの事であっちゃんと仙道の間に、小幡さんは青井と田中くんの間に、田中くんと俺の間に玲奈さんは座っている。


美味しいね!ほんと?これうまい!嬉しい!玲奈おかわり!お姉ちゃん?


和気藹々と食事はすすむ。

もうちょっとだけ釣りたい俺は食後、釣竿を用意してもう一度挑む!


朝の時間のうちの方が多少可能性が高い。

もう一回釣れたら良いな、出来たら玲奈さんの前で。


小幡さんと玲奈さんは後片付けを引き受けてくれた。

優奈さんはスピーカーからジャズを流してまたビーチチェアに横になった。

なんか優奈さんのバカンスみたいになってる。




昨日と同じ体制で釣り再開。

日が登り眩しい。


玲奈『ふふー!私が居た方が釣れるんじゃない?』


釣り人って何かとジンクスとか?縁起担いだりして?

そう言い訳して玲奈さんに横に居てもらう。

海は照り返しで眩しい、でも玲奈さんはもっと眩しくて。ボソッとそう呟く。


玲奈『なに?聞こえないよ?

…あ、魚が…小さい声で話すね?』


玲奈さんが側に来る。

小声で話せるように、


玲奈『この間(同窓会)は全然話せなかったもんね?少しお話ししようよ♪

最近はどう何か変わったことあった?』


『あー。望がさぁ…。』


玲奈『ふふ、妹想いのお兄ちゃんだよね。

…ふむふむ。』


形の良いあごに指を当てて『うーん。』って考え込む玲奈さんがただただ可愛い。

それ見てるだけで俺は胸痛いし、ただ話しをしてるこの瞬間が永遠に続けば良いって思っちゃう。


あぁ、俺は君が好きだってこんなに痛感する。

君が好きだと叫びたい…!


そう思うと意識しちゃって話がぎこちない俺なんだよ…!



☆ ☆ ☆

承と香椎さん   side東条厚樹


今朝ちょっと話した。

承は同窓会から香椎さんに会って居ないらしい。

そう聞いて先日お茶した俺が少し有利なのかな?って思った。

…その時は。


恋敵なんて言ったって俺と承の間柄。

絶交とか敵とかそんな事にする気は無いししたく無い。

でも気まずくなるかも知れないとは思う。

どっちが射止めたとしても。

どっちかが射止めるよりどっちも振られる方が良いかも知れないとすら思う。

でも、それは杞憂だった。



キャンプ地に再び来てくれた小幡さん。

キャンプ地に1番近いところに居た俺はあいさつして横の女の子に目を奪われる。

…そこには輝くような香椎玲奈の姿があった。

ちょっと上擦った声で、


『…香椎さん、この間はありがとう。』


香椎さんは綺麗な笑みで、


玲奈『…厚樹くんおはよう。私の方もありがとうだよ。

…sy…立花くんは?』


『承ならあっちで…。』


1番に承の事を聞かれた。

指さすと香椎さんは花が綻ぶような笑顔でありがとうって言って小走りで承の元へ向かった。


承は釣れなくてムキになってルアーを投げている。

釣りたいよね、わかる。

香椎さんは横まで小走りで向かい…声をかけずにずっと横で見ていた。

…承が夢中になって釣りに没頭するのをニコニコ微笑みながら。


やっと釣れた満足そうな笑みを浮かべる承の横には香椎さん。

朝食をとる事になり、香椎さんはくるくる動き回る。

的確に配膳、食器、コーヒーを配ってまわり気配りと手慣れた面倒見の良さが見える。


香椎『はい、厚樹くんどうぞ?』


笑顔で差し出されるのを受け取るだけで俺は頬に血が集まるのを感じる。

香椎さんの笑顔が綺麗で綺麗で俺は見惚れてしまう。

俺の横空いてるって口に出そうとするけどなかなか言えない。


優奈『あ、君が若葉ちゃんの弟さんでしょ?』


お姉さんの方が来てしまった…!

優奈さんは俺たちの3つ上の世代で姉ちゃんの1つ下の世代。

吹奏楽部の先輩後輩だったそうな。



気がつくと、香椎さんは承の隣に座っていた。



その顔見たら…わかってしまった。

香椎玲奈の笑顔は綺麗で綺麗で…でも承の横に居る香椎玲奈はその綺麗さより可愛いが勝る表情で。キラキラ輝いている。

目は輝き頬は上気して目は優しく口元ずっと笑ってる。

香椎さんの意識は全体を気にしていて周りに向いているのに視線は目だけは承にだけ集中しているのが見える。

笑顔で承を揶揄ったり赤くなったり初めて見る香椎さんは…見た事無いほど可愛い女の子で…こんな笑顔向けられたら好きになるしかないだろ?ってほどの魅力を無造作に撒き散らし無邪気にはしゃいでいるのを俺はずっと見つめていた…。


そう言えば承横に居る香椎さんを初めて見た…。

承から聞いている。

修学旅行の班一緒だった、体育祭実行委員一緒にやって、文化祭実行委員は途中で降りた。

…承は香椎さんと思い出を共有しているんだなって思ってた。

承が付き合い長い分有利なのかもなぁって思ってた。

でもあれから会って無い程度なのかな?とも。

全然違う。あれはそんなもんじゃ無いでしょ?


見たく無いけど…目を離せなくって、横の優奈さんが俺の視線の先を見てポツリとこぼす…


優奈『あのふたり、くっつきそうでなかなかくっつかないの。』


ふふふ!って笑う顔は妹さんとそっくりで。

俺もふふふ!って笑った。

なんだ承のやつあんなネガティブなこと考えてんだろう?

俺は腹が立ったし言ってやりたかったけど…今日だけは無理だわ。

よりによって昨日打ち明けて翌日に思い知らされるってある?


でも、まあ、承で良かった。

俺はそう思える自分に安堵した。


承には借りがある。

きっと本人はそんな気無いだろうけど。

小さい頃から1番遊んだ親友で…荒んでた俺に無理矢理寄り添って…。

助けたり助けられたりしているけど無二の親友。



それでも、胸すっげ痛いし、苦しい。

俺笑えるているかな?

優奈さんは微笑みながら俺に、


優奈『じれじれも良いんだけどね?』


俺は押し殺して優奈さんに言う、


厚樹『俺が煽ってやりますよ、油断したら香椎…玲奈さん俺が口説き落としちゃうぜ?って。』


目の前美人も香椎さんだったから『玲奈さん』って呼んだ。

胸痛い。


優奈さんは目を細めて、


優奈『男の子だねぇ。痩せ我慢しちゃって。

…でもそれだけじゃ無いんだよねぇ…。』


優奈さんは複雑な表情で綺麗な妹を横目で見ていた。

まだ心の整理は完全についてはいない。

それでも承で良かった。俺は自分に言い聞かせるように呟いた…。



☆ ☆ ☆

今回で400回目更新でした!

いつもありがとう!


明日はヒロインがまた策を弄してくんくんする回ですw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る