第370話 落ち込む猛獣【side立花望】

北翔高校の練習参加から一晩経ったよ。

ゴールデンウィークの連休合間の平日テンション上がらないなぁ…。

そろそろ学校の時間だね。


『いってきます。』


ひー『ねえちゃん?げんきだして?』


可愛い弟が抱きついて来るのを熱い抱擁で返す。


『ありがとう、元気だよ?行って来るね?』


ひーちゃんは何か言いたそうに私を見送ってくれた。

ひーちゃんにも心配かけちゃった。

私はノリきらないまま学校へ向かう。



新川中教室。


芹『遅い!望ちゃん!昨日どうだった?』


いつもより少し遅めの登校にクレームが入るよ。

ごめんね。



『…話すと長い…。』


緑『…どしたん?』


『…別に…。』


茜『エリカ様かよ!』


『…。』


きい『どうしよー!望が壊れた!』


親友sは今日も元気だね?


『酷い言われようだなぁ…。

私だって1人の女子中学生だよ?』


茜『獣医さん呼ばなくちゃ!』


『…。』


茜『…望がさっきから!私のツッコミ無視するぅ!』


芹『はいはい、あかちゃん?泣かないで?』


茜『えーん!芹ママー!おやつ欲しいでちゅー!』


媚びっ媚びの茜と芹ママコントをスンって顔で見ていると親友sが騒ぎだす。


緑『重傷だ…。』

きい『なにかあったんだ…。』

茜『特待ダメにしたのかな?』

芹『望ちゃんは切り替え早い方だけど…?』


あたしは親友sの相談を聞き流して空を見ていた…空はなんであんなに高いのかな…。




1限目後の休み時間、


芹『ええぇ?!それじゃ…宏介くんが迎えに来てくれて、ふたりきりだと思ったらもう1人居て…?

北翔着いたらくずみたいな男にナンパされて、腕掴まれたから『屑龍閃』撃ち抜いて逃げてきた?』


緑『くっそ!確かに長いな…。』

きい『まだ練習参加の話しに辿り着いてない!』

茜『何故スラッパーちゃんを持参して行ったん?』


2限目後の休み時間、


芹『それで練習参加始まってから?そのくずが望ちゃん探してるから…

ポニーテールにして、120パー笑顔で胸パッド装着して練習参加したの?!何してるの?!』


緑『胸パッド装着(笑)なぜだ(笑)』

きい『おなかwいたいw』

茜『120パー笑顔で胸パッド付けてポニテ…バレないの?それ?』


3限目後休み時間、


芹『縦ロールの金持ちお嬢様(笑)キャラ濃いねw

…望ちゃんが負けたの?まじで?本気で?』


緑『つーかいつもみたいに勢いでしゃっべって欲しいよー!話し終わらん!』

きい『ボソボソ話すし…。』

茜『バタフリー夫人…。』


で、昼休み。


芹『午後試合は一勝一敗だったのね?

…解散後さっきのくずにまた絡まれて、腕掴まれたとこでさっきの縦ロールが…さらさら?さらさらが痴漢!って叫んでくずは取り押さえられて…。

『太ももは凶器』『尻を見ろ』って言って引っ立てられて行ったと?

トラブルが渋滞してて何処から突っ込んだものか…。』


芹は天を仰ぐ。空高いよね。


緑『初手から暴力だもんよ。』

きい『さらさらもキャラ盛りすぎて訳わかんない。』

茜『望が先制で屑龍閃ぶちこんでおいてそいつ加害者として捕まったってこと?』


親友s『なんかやらかすと思ったよ…。』


声揃えて呆れる親友s。

ごめんね。



芹『一勝一敗で特待不安だから落ち込んでるの?』


『ううん、違うよ。』


緑『くずに暴力振るったから?』


『…それはしょうがないよ、あたし悪く無い。』


きい『トラブル起こすなよ?って言われて起こしたから?』


『好きで起こしたんじゃ無いもん…。』


茜『わかった!ラケットに誓ったこと破ったからでしょ!』


…あたしは頷く。


『いつも、いつまでもテニスに対して真っ直ぐ向き合い続けること…そう兄ちゃんとラケットに誓ったのに…。』


涙で目の前が滲んでくる…。


芹『屑龍閃は全く気にしていないんだね…?』


緑『…望!ほら!チョコだよ!』きいに目線!

きい『!

あ!牛乳!今日牛乳余ってるよ!望飲みな!』茜に目線!

茜『!

望頑張ってるよ!そこまで気にしなくても良くない?』


芹『そうだ!GW私の家でケーキ焼こうよ!皆んなで集まって!』


『…優しくされると…涙出そう…。』


あたしが涙ぐんでると親友sは優しくてなおさらへこむ…。

あたしは緑ときいに抱きしめられながら茜に励まされて、芹にお菓子を口にねじ込まれて無表情にそれを咀嚼して昼休みを終えた…。



放課後、テニス部。


『先生、今日ちょっと調子上がらないのでフォームチェックで軽めで良いですか?』


担任『…昨日北翔の練習参加や…うん、いいわ軽めに流してて?』


『『『ざわっ!!』』』


練習に文句ブーブー言いながらも毎日先頭を走ってたから皆んなびっくりしてた…ごめんね。


芹、緑、きい、茜が気合い入れて率先して練習してるのを横目にあたしは…。

あたし…ダメな子だ…。


どうしても調子が上がらなくってあたしはフォームチェックを止めて走り始める。

…なにも考えずに走る方が簡単で気が楽。


兄ちゃんが言ってた。


承『自分で誓った事は自分が証人で、嘘やごまかしなんて自分が1番わかってて自分に嘘なんて付けないんだから自分に恥じるような事はするなよ?』


そん時、わかってる!なんて答えた。

私は自分の好きなテニスで自分でハンデ付けて、それで負けて兄ちゃんの血と汗で買ってくれた、ラケットを汚した、誓いを曲げた、ダメな子だ。

自分に嘘は確かにつけない…。


あたしは結局調子を戻さないまま5月の連休を迎えたんだ…。

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