第358話 憧れと卒業【side東条厚樹】


ガシン!!


宏介を早い切り返しで振り切り、承のスクリーンで青井をちぎって俺は全力でダンクをキメる!宏介バスケ部だけあって手強いし賢い!

でも承の攻撃的な守備にだいぶ削られて試合開始のキレは無い。



観戦する同級生たちから歓声があがる!

姉ちゃんも大喜び!テンションあがる!


これが決勝点!俺たちの勝ち!

承、小石とハイタッチ!


青井、宏介、木村ともハイタッチ!

…そうだった、俺はこうゆうので燃える漢だった。

俺は活躍するのが好き!

でもチームが勝つのはもっと好き!

だっけ、俺の活躍でチームを勝たせるのが夢で…!


中学に上がったら外町や承や小石とサッカー部強くして…それが夢だった…。



俺たちがコートから出ると今度は女子もバスケするって張り切ってた。

二村さんたちスポーツ女子がワクワクでコートへ入る。

それを見ながら横の2人に俺は相談した。


『なぁ承、宏介。新川中を最後に見たい…。』


承『新川中?』


ふたりは不思議そうに頷く、俺たちは自転車だと12、3分の新川中へ向かった。


きっと承にとっては去年まで通ってた古巣。宏介に至っては毎日の窓の外の光景。


校門前に着き校舎を見上げる。

横の桜の古木はまだ咲く気配も無い。


中学校なんて義務教育で放っておいても進学出来る。この辺の子は無理に私立行かなくても大体ここ。

でもさ?俺にはここは憧れだった。

当時小6の俺はもう長く居る小学校は少し飽きてた。

中学生になったら学ラン着て大人っぽくなって。

ここに皆んなと通って…サッカー部強くして…そんな夢を抱いていた。

宏介んち行く時前を通れば俺らから見れば大人の先輩たちとすれ違う。

もうじき俺たちもここへ…そう思ってたけど俺はここに通うことは無かった。



宏介『…厚樹、中入る?』


俺は首を振る。

中は興味ある。

承の話し聞いてどんなとこかな?って想像した。

でも、ここにはもう誰も居ない。

俺が願った親友たちと笑い合いながらライバルたちとバトルして毎日色んな事が起こる夢の中学生活はもう終わった夢。


だったら新しい夢を見たい。せっかく再会出来たんだもん。

承や宏介や皆んなと、また。

俺はふたりの肩を叩いて言う、一回だけ。


『見れて良かった。

俺本当にここに通いたかった。承や宏介や皆んなと。

俺お前たちが羨ましい、この中学校に通えて。

ここは俺にとってずっとずっと憧れの学校なんだ。

…たぶんこれからも。』



さ、戻ろうぜ?

少し涙が出た、ばいばい俺の憧れの新川中。


心の中で俺は別れを告げた。


☆ ☆ ☆

夕方の河川敷公園はオレンジ色に染まりつつある。

戻った俺たちはどこ行ってたの!って香椎さんに怒られる。

…怒った顔も可愛いと思った。



『…チャイム鳴ったら家に帰らなきゃだな…。』


俺が呟くと承が悲しい顔をする。

そんな顔すんな?寂しいのは俺でしょ?

姉ちゃんもさっきからずっと手を握ってる。


また会いに来よう、姉ちゃんにも皆んなにも。

今日はありがとう!

湿っぽいのや堅苦しいのは嫌いだから俺は明るく言おうと思ってた。

そこへ、



香椎さんが手を打って皆の注目を集める。

香椎さん綺麗になったよな…。昔より髪も伸ばして子供の頃もすっごい綺麗だったけど今はもう輝くような美しさ。


その形の良い唇に目を奪われるけど、香椎さんはみんなを整列させた。

え?俺だけ前に出るの?


香椎さんはコホンと咳払いをすると横で小幡さんがスマホぽちぽちしてBluetoothで飛ばしたのか小さいスピーカーから穏やかなクラシックを流し出す?なにこれ?


小幡さんが何かトレーを持って香椎さんの横に付く、

香椎さんが何か紙をそこから出すとその綺麗な声で滔々と読み上げる。



香椎『卒 業 証 書


東条 厚樹 殿


新川小学校の全課程を修了したことをここに証する


〜年、4月

〜県立新川小学校


〜年、卒業生一同!』


後ろから聞こえる拍手とおめでとう!って声。


香椎『厚樹くんは転校先で卒業式迎えたんでしょ?そこで卒業証書も貰ったんだよね?

…でも違うよね?6年生の12月23日まで私たちと一緒に学び、遊び、過ごし、共にあった。

小学校生活6年のうち、72ヶ月のうちのべ69ヶ月を私たちと過ごしたんだよ。割合で言うと95.8%を新川小学校で過ごしたんだよ!』


そんなにか?俺は輝くような香椎さんに頷く。



香椎『だ!か!ら!

厚樹くんは転校先で卒業式出ただろうし、卒業証書も持っているだろうけどね?

勝手だけど私たちから卒業証書を授与させてもらうよ!』


香椎さんのドヤ顔から俺は目を離せない。

…この娘こんなにイキイキとして綺麗で可愛いんだ…。

俺は真っ赤になりながら卒業証書を両手で受け取る。

また拍手が聞こえる。


俺もう高校生だよ?なんで今更小学校の卒業証書がこんなに嬉しいんだろ?

後を向くと承が泣きながら拍手している。泣きたいのは俺のほうだぞ?


結局我慢出来なくて俺も泣きながら皆んなに深々と一礼する。

こうして俺の帰郷は終わりを告げた。



☆ ☆ ☆

そんな大きくない新川駅に迷惑になるし公園の片付けもあるので承、宏介、小石、姉ちゃんが見送りに来てくれた。

他の皆もまた来いって言ってくれた、皆んなは片付けをしてから解散らしい。


若葉『厚樹、パパとママが離婚したって私と厚樹の縁は切れないし、もう二度と切れさせない!』


ぎゅーってハグされた。おい小石羨ましそうな顔すんな。


承や宏介、皆んなに一言貰い香椎さんが最後だった。



香椎『次はもう少し余裕を持って日程教えて欲しいな?

また遊びに来てね?』


『…今日はありがとう。』


それしか言えなかった。

香椎さんはにっこり笑って、


香椎『ふふ♪どういたしまして♪またね!』


俺は手を振って電車が来るホームへ移動する。

…興奮が収まらない、再会にだけじゃ無い胸の鼓動がうるさいほどだった。

俺、きっと子供だったからわからなかったんだ。

多少大人になってこの胸の高鳴りがわかった。

…俺、香椎さんが好きなんだ…。

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