第353話 あっちゃんの帰郷

香椎さんにあっちゃんが来る事を伝えて俺が出来ない皆んなを集めるって難しいミッションをなんとか引き受けてもらえた!

あまり気乗りしない香椎さんに俺の切り札!


『これまでの感謝を込めて、香椎玲奈が立花承のお願いをなんでも一つ聞くよカード!』


を使った!

使うならここだ!って思ったね…。

きっとこうゆう事に使う為にくれたと思ったんだけど…。

※全然違います。


玲奈『…乙女の勇気を無駄遣い…。』


スマホ越しにジトっとした視線を感じた。

…でもさ?こんな無制限に願い叶えるなんて悪い男に渡したらきっと香椎さんみたいな綺麗な娘はとんでもないえっちいお願いとかされちゃうと思うんだ。もうちょっとだけ危機意識を持って欲しい。


日付的には4日後だけど朝から来るからもう実質3日しか無い。

それでも香椎さんは、


玲奈『やるからには本気で思い出作る手伝いするよ。

このカードまで使用した承くんの気持ち、厚樹くんの帰郷必ず良いモノにしてあげる!』


そう言うと香椎さんは俺の案に幾つか修正を加えて当日の動きと細部を詰め始める。

…わかってたけど香椎さんって有能なんだよね…。



☆ ☆ ☆

日曜日9:00、新川駅前。


厚樹『…よっす。』


『おかえり!』

宏介『…おかえり。』

青井『おっすー。』

小石『厚樹…くん見違えた…。』

香椎『おかえりなさい。』


厚樹『…ただいま…。』


真っ赤になって照れるあっちゃん!可愛い!

短く整えた髪型超似合ってる!

昨日さ?俺カレ奥さんに切ってもらったの!

皆んなに会うのにその髪型は無いでしょ?って!

奥さんも景虎さんもビックリしてた!あっちゃん格好いいのよ!



『あっちゃん、その上着爽やかで春っぽくて格好良いね?

髪型も昨日より馴染んでて格好良いよ?』


☆ ☆ ☆

そのコメントを聞き玲奈は耳を疑い、承を凝視する!


(私の時よりコメントが的確で自然に褒めてる?!)


なんで褒められた厚樹より承が赤くなっているのだ?玲奈は少しイラっとした。


☆ ☆ ☆

皆んなと…と言っても宏介以外は高校で会っているわけで。

あっちゃんは香椎さんにお礼を言った。

こうゆうとこしっかりしてるの。


厚樹『…香椎さんひさしぶり、今日の事で承が無茶振りしてごめん。

ありがとう。』


玲奈『うん、お久しぶり。

良いんだよ、久しぶりの新川町楽しんでね?』


照れながらお礼を言うあっちゃんににっこり優しい微笑み香椎さん。

…絵になるふたり。


そして香椎さんに手渡されたしおりどおり、自転車で新川小へ向かう事に。

自転車は香椎家があっちゃんの分貸してくれた。良いやつ。


それに乗り自転車集団はゆっくり駅からいつものコンビニを曲がると先に

我が母校新川小が見える。


厚樹『…。』


あっちゃんは目を細めて小学校を見ている。

宏介と話しながら、青井に揶揄われながら楽しそうに小学校を見ている。


自転車は当たり前だが早い。

俺たちは自転車あるけどあっちゃん分は無いから?ゆっくり見て回りたいだろうし歩きで周る予定だったけど、


香椎『子供の頃も自転車で走り回ってたでしょ?いたずら坊主たちは?

ふふふ、時間短縮の為自転車移動にして?自転車ならうちにあるから。』


香椎さん案で移動は自転車になった。

確かに早いし、何か気になれば止まればいいわけです。


いつもの歩道橋を超えると小学校。

横に川が流れる毎日見てる小学校。

でもあっちゃんには四年ぶりの懐かしい少年期の聖地な訳で。


厚樹『…校門ってこんなに低かったんだっけな?』


懐かしそうに校門を撫でるあっちゃんにサプライズが襲いかかる!


『『『おかえり!!!』』』


俺たち以外に20人!20人も校門でおかえりを言う為だけに集まった同級生。約100人の同級生の中から、約4年も前に小6の年末に転校していったあっちゃんの為に集まってくれる。それが我が事のように誇らしい。


あっちゃんを囲みわいわい懐かしみあう同級生たち。

…俺この人たちのアドレス一個も知らないからね?あっちゃんの昔の人気と香椎さんの人を集める力にほとほと感服する。

…香椎さんの皆んなの為にって行動はきっと皆んなにも伝わっているから香椎さんが声かければ人が集まる。


一条『あ,厚樹くん!』


修学旅行で一緒だったし文化祭、体育祭で本部付きの仕事をお願いした一条さん…正統派美少女って趣き。あぁ、クリスマスパーティーであっちゃんの隣に居たの一条さんだったんだなぁって今頃思い至った。

俺は横の香椎さんに夢中だったからなぁ…。


玲奈『、このあとなんだけど。』


横からその香椎さんが顔を出す!うわ!


香椎『なに?そのリアクション!

今、用務員さんに話し通したから小学校内見学できるよ!

くれぐれも汚したり、壊したり厳禁!出来るだけ中のもの触らないでね?』



聞けば電話した翌日には小学校の用務員さんに挨拶しに行って話し通して来たとの事。今も手土産の手作りお菓子を差し入れてたんだって。

…香椎さんは卒業後も小学校前は中学の頃毎日通っていて挨拶してたから面識があるそうな。中学校の用務員さんも今だにテニス部のOG訪問で通っているから顔パスなんだって。


…外から見て懐かしむって俺のプランと比べてなんという企画力と実行力…香椎玲奈の有能さを時々すっごい思い知らされる。


香椎『くれぐれも!物触ったり汚したり壊したりダメ!絶対!』


『『『『はーい!』』』』


皆んな基本香椎さんに従順、もちろん俺も。

ワイワイ中に入り、何グループかに別れて教室、図書室、音楽室、屋上、体育館と見て周る。来客スリッパ数ぴったり!

後で綺麗に拭いて戻すって香椎さんの指導。しっかり者で本当に感心する。


『こんなに机小さかったっけ?』

『この本懐かしい!』

『屋上の景色すきだったなぁ。』

『ゴール小さい!』


皆んなでキャッキャ笑い合いながら当時の自分を見つけて騒ぐ高校生たち。

一通り回って6年生教室であっちゃんはポツリと呟く、



厚樹『…楽しかった。本当に楽しい日々だった。』


俺は黙って答えない。横の宏介も青井も黙ってる。

あっちゃんは俺たちを振り返って、


厚樹『突然両親にさ?離婚するって言われる12月までさ?

俺、承や宏介とバカやりながらここを卒業して、皆んなと一緒に新川中へ進んでさ?外町や承や小石たちとサッカー部強くして、完や青井と体育祭とかでバチバチやり合ってさ?香椎さんや小幡さんたちと良いクラス作っていく信じていたんだ…。』


あっちゃんの顔は複雑。喜び悲しみその他諸々の感情が入り混じりなんとも言えない表情。

俺はやはりなんとも言えない。


厚樹『ここに俺は確かに居た。

陽気でお調子者でスポーツと遊ぶ事に命かけていた子供。

マンガとゲームが大好きで…でも友達と遊ぶのがもっと好きなおバカな男の子、神崎厚樹がここに居た。』


これは必要な事だった。

俺は思う。

今の自分は過去無しで存在し得ない。

もちろん過去にとらわられすぎるのも良くない。

何事もバランスだと思う。

自分がどうなりたかったか?それってやはり原点の問いなわけで。

極論何でも良いんだ。

あっちゃんが暗かろうが明るかろうがあっちゃんはあっちゃん。

でも、過去を切り捨てるような事はしないで欲しかった。


『それ』を思い出してくれただけで俺はもう満足。

あとはこれからのあっちゃんと俺たちとの関係がまた始まる?継続?

まあ折角再会出来たんだから俺はもう親友に戻ったと。

叶うならあの頃願ったように、後ろでなく隣を歩ける漢になりたいと思うよ。



あっちゃんは少し泣いていた。

誰もそれを指摘しない。

1時間ほどかけて俺たちは小さい自分と再会を果たして用務員さんにお礼を言って小学校を出る。


この後、あっちゃんの家に向かう。

13時に戻って?お昼ってしおりに書いてあるけど…?


香椎さんは見る者を魅せるその笑顔で、



香椎『サプライズ!この後13時から河川敷公園で新川中同窓会を行います!バーベキュー大会です♪ふるってご参加ください♪』


『『『はーい!!!』』』


俺聞いて無い?!


香椎『急な話しだから時間余裕無い子も午後からなら…って子もたくさんくるよ!まだまだ同級生に会えるよ!』


香椎さん企画力の凄まじさよ…。


香椎さんはあっちゃんに家族との時間が惜しければ最後に顔出してくれれば良いよ。皆んなと食べて語って、スポーツして夕方解散!って魅力的な笑顔で説明していた。


香椎『じゃ、、あとお願いね?』



なんか今日、立花くんって呼び方に皮肉を感じる…。


もう香椎家でバーベキューの下拵えを小幡さんリーダーに二村さんたち旧香椎派閥でやってるんだって。

…三島皐月は既読スルーだったそうな…。



青井『俺千佳の手伝いしてくるわ。』


青井はバーベキュー下拵えからの会場設営を行う。


小石『俺!香椎さんの手伝いします!』


玲奈『…じゃ?千佳の下で力仕事かな?』


小石『…香椎さんの手伝いが…。』


玲奈『ふふ♪』


今日も香椎さんはキレッキレの回避を誇る。

サプライズで集まった同級生たちはバーベキュー手伝い組と会場設営組に分かれて一部は午後最集合。


あっちゃんは生家に向かう。

俺、前通った事あるけど昔と雰囲気違うから違う人が暮らしているんだって思ってた…。

住む人が増えたり減ったりすれば…家の佇まいは変わるよね。


俺と宏介はあっちゃんに着いて行く。

生家が近づくにつれてあっちゃんの緊張が増しているのを感じる。

あっちゃんの思い出になるような良い再会でありますように…!俺は願わずにはいられない。



厚樹『…だって四年以上音沙汰無かったんだぜ?

俺忘れられてなきゃ良いけどなぁ…。』


あっちゃんは自信無さそうに苦笑する。


『絶対に忘れるわけが無い、1日たりとも。』


俺は断言する、宏介も頷く。


厚樹『…そうだといいな。』


…そして神崎家が見えてきた。


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