第348話 ふたりの帰り道【side伊勢成実】

『うどんにする!』


すっかりうどんの口になったあたしは即決!

エイオンは10時(22:00)までやっている。

フードコートの全国チェーンのうどんやさんへ向かったよ。


『カレーセットのうどん大で、…イカ天お願いします!』


『トロ卵うどんの中…とかき揚げ…。』


立花はがっつり行く!うぅ、本当はもうちょっと食べたい…。

でも女の子だし?もう9時近いし!揚げ物美味しそう!かき揚げが精一杯の妥協点。大きくて美味しいよね?

あたしに前を譲って立花が後ろを歩く。



うどんチェーンはお盆持って移動するスタイルで、この盛り付けられるまでも誘惑が多いんだぁ。


店員『とり天、ちくわ磯部、れんこん揚げたてです!』


ああぁ…!


『れんこんひとつ下さい。』


え?!後の立花が!あたしれんこん天好きなのに!我慢したのに!

店員さんがニコニコしながらまだ揚げたてれんこん天をお皿に乗せて立花トレーへ!


店員『トロ卵うどん、かき揚げのお客様ー!』


『はーい!』


あたしの来ちゃう!

トロ卵!かき揚げ!


お盆にうどんとかき揚げ乗せて窓際の席へ行く。

立花はまだ受け取っているからあたしはお冷を取りに行っておく。


『お冷持ってきたよー!』


『ありがと!』


うきうき!夜ごはん!

大丈夫!この後自転車で約30分!カロリー消費!


『『いただきます!』』


かき揚げをうどんの汁に浸して一口齧る!

おいしー!かき揚げもぐもぐ!うどんを啜る!


美味しいね?

うん、おいし!


バイト終わりのご飯は本当に美味しい。

疲れと空腹、終わったっていう充実感と安堵感。

プラス明日も春休み!

…あと立花と一緒ってこと。


あたしは2口目に取り掛かる、ふと見ると立花がにこにこしながらこっち見ててさ?あたし恥ずかしくなっちゃって、


『立花ぁ?女の子が食べてるとこジロジロ見るのは趣味良く無いね?』


注意するよ!だって恥ずかしいっしょ!

立花は全然答えない表情で、


『…うーんとね?頑張って働いたから腹ペコじゃないかな?って思ってさ?

これどうぞ?』


そう言うと、まだ手を付けて無いれんこんの天ぷらをお皿ごと差し出した!

それ!あたし大好物!


『前に?れんこん好きって言ってたような覚えあってさ?さっき揚げたて!って言って俺が取ったら迷いが見えたからさ?頑張ったね!ってご褒美。』


『自分が食べたくて取ったんでしょ?貰えないよ…。』


『うん、だから伊勢さんのも取った。』


そう言うと立花は自分のうどんを指さすと綺麗に歯形ついたれんこん天が。


『ぷっ!わざわざご褒美用に取ったの?』


『そりゃそうでしょ?食いかけなんてあげれないでしょ?』


立花が一口食べたのなら別にあたしは…いやいや!間接キスじゃん!

あたしがひとりであわあわしてるのを嬉しそうに立花は眺めて私に天ぷら乗った小皿を差し出した。


『…あんがと。』


揚げたてのれんこん天はとっても美味しかった。

ひとりで食べてこんなに美味しくないってわかる。

楽しいね?どんなディナーよりも高級店よりもバイト終わりの立花とダラダラ話しながらの夜ごはんは美味しくて身体に沁みる!


…しあわせ。

あたしはニコニコ!立花もにこにこしてて?


『カレーも一口食べる?

俺カレの方が絶対上手いんだけどこうゆうとこのセットのカレーって何故かすっげえ旨いんだよ。』


『わかる。…でも。』


ごくり。


『この辺口付けて無いよ?ちょい甘のうどんやさんのカレーだよ?』


あたしは一口だけ、一口だけもらう事にした。


ぱくり。


美味しい!

優しく出汁の効いた味がするよぅ!


…結局あたしは立花が勧めるまま3口も頂いた…!




こないだギャルともとね?

あーなるほど!

木多ちゃんもさ?

へぇ意外!


毎日登校は一緒だし、話す機会は多いのに昔から話題は尽きない。

どっちか食べて、どっちか話して同じペースで食べ終わる。



あー!美味しかった!

あたしは立花と分担して食器を返してフードコートを後にした。



エイオンを出て、しばらく自転車を飛ばして俺カレの前を通る。

東光高校の近くを通り大河にかかる橋を越える。


いつもは風が強くて寒くて疲れる暗くて少し怖い道。

…だけど立花と一緒にご飯食べて帰る道は全然違う。

立花ずっと話し相手になってくれるし、風上に居てくれるから風の影響が少ない。


お腹いっぱい、胸もいっぱい。

暖かくて、楽しくていつもの暗い道も明るく感じる。


(…あたしと立花はいつまでこうして居られるのかな?)


あたしは立花の笑い顔を見ながらさっきの店長の言葉を思い返して居た。

…クリスマスの約束って…立花覚えているかな?

聞けば答えてくれるような気はする。

…でもあたしは聞けなかった…。



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