第346話 襲撃翌日

伊勢『もう!立花!格好つけて!』


ぽか!ぽか!ぽか!

真っ赤になりながら伊勢さんは俺の肩を叩く。

…うん、香椎さんに比べれば全然痛くない。


伊勢さんは真っ赤になったまま、


伊勢『…まぁ?そうしてくれるなら?話し相手欲しいし?

普段は良いけど確かに夜道は怖いし?予定さえ合えば助かるしー?』


伊勢さんは顔を背けながらぶつぶつ了承してくれた。


『良かった!早速明日俺午前シフトなんだ。』


伊勢『明日あたしは夕方から夜だから合わないね…。』


『じゃ、帰りだけ夜迎えに行くわ。』


伊勢さんはびっくりして、


伊勢『え?立花午前シフトなら?ランチ終わりには終わりじゃん?』


『明日、あっちゃんと会ったり色々あるから大丈夫!』


伊勢『…そうなの?…頼もしいね…。

じゃ終わったら?ロインする。俺カレに行く?』


『エイオン迎えに行くよ。』


伊勢『…うん。』


そういう事になった。


☆ ☆ ☆

翌日、ランチが落ち着いてきた頃の俺カレ


『そこでさー?あっちゃんがライダァーキックの如き飛び蹴りを…。』


保利『…立花くん…厚樹くんの事語る時だけはキモいね…。』


酷くない?俺はただあっちゃんの勇姿と無双っぷりを…!

景虎さんが口を挟む、


景虎『組み手役にたったじゃん?もう一段強度上げとく?』


『…あれ以上罵るんですか?』


景虎『ウジムシとかジジイのピーとか今の時代にそぐわない事を言いながら

ひたすらシゴくんだぞ?』


『無理っす。』


俺は今時の男子だから…これ以上キツいのは勘弁してください。

景虎さんは、


景虎『下衆ほど仕返しエゲツないから気をつけろよ?』


『昨日最後はあっちゃんがやっとくって言ってたんで?どうなったのか?

今日話しするんです。』


景虎『…うち呼べば良かったじゃん。』


『お礼言う側なんで?今日は家に行きます。』


保利『…しかし6人に囲まれて4人を無傷で制圧って厚樹くんすげぇ。』


まったく同感。俺はバイトが終わってお土産にテイクアウトでハンバーグカレー二つ持ってあっちゃん家へ向かった。


☆ ☆ ☆

厚樹『おっすー。』


『おっすおっす。』


もう何度も来た東条家のあるアパートへ向かい呼び鈴を鳴らす。

もう取り繕うのをやめたあっちゃんが出て来る。

あっちゃんは夜母さんと食べるわって言い渡し、たカレーを冷蔵庫へ仕舞った。


『あっちゃん、昨日は本当にありがとう。

まじ危ないとこだった。ほんと助かったよ。』


親しき仲にも礼儀あり、俺は頭を下げてあっちゃんにお礼を言った。

青井からの言付けも添えて。


あっちゃんが言うには球技大会で敗退後の暇な時間に津南たちが俺の名前を連呼してて聞き耳立てていたらなんか不穏な事を言っていて?

卒業式の日マークしていたら人数を集め初めていて、終業式後に自分をハブって打ち上げなんかやる予定だからあいつら出席出来ない様にボコすって話しだったらしい。

で、一応わかる範囲で尾行して家調べて、拘束用のビニール紐を学校から持ち出して後つけて後ろから人数減らそうって考えていたって。

危なくない?って聞くと、


厚樹『襲撃させた方が膿出せるだろ。』


こっわ!ヤンキーマンガの世界!

拘束用のビニール紐だって学校のゴミを梱包するのに使用してちゃんと昨日のうちに戻したし、今日主犯の津南の家に失禁写真届けたし昨日ロイン交換したから昨日の奴らとはいつでも連絡できるぞ?って事も無さそうにアフターケアの行き届いたあっちゃんシークレットサービスの対応に驚き隠せない。

…どんだけ荒んだ時代があったんだよ…。

その頃側に居れなかったことが悔しい。

あっちゃんは仕切り直すように表情を引き締めて俺に言う、


厚樹『それでさ?昨日言ってた俺に出来る事なら何でもって話しなんだけどさ?』


『うん!』


今日の要件はそれだよね。

あっちゃんは一緒言い淀む、でもはっきりと言い切る。



厚樹『俺、新川町に帰りたい…。

いや?帰るって住みたいってんじゃなくって…。

…一度俺の故郷、少年時代を過ごした新川町へ帰って自分を探したい…。

…そしてあの日を最後に会って無い父さんと姉ちゃんに会いたい…。』


あっちゃんは言い終わると赤くなった。

俺は笑わない、そりゃそうだろう。


自分はここに居る。

でも自分のカケラはあちこちに有ると思うんだ。

それが必要なパーツならまた取り付ければ良いし、不要なら取り外す。

あっちゃんは自分探しに新川町へ帰って来る。

それは素敵な事だと俺は思った。

それで変わるから変わらないかはあっちゃん次第でそれで良いと思う。

俺は一度だけ思い出して欲しかった、あの太陽の様な陽気でおバカでクラスの中心に居て人を振り回すいつも仲間に囲まれて笑っていた神崎厚樹を…!


厚樹『俺、その為に母さんと向き合って話しをする。

それからになるんだけど…春休み中には。』


俺は頷く、じゃ決まったらいつでも連絡してよ?

俺は出来るだけ自然に普通の事のように返事した。


でも心の中は、

新川町にあっちゃんが帰ってくる…!

俺は親友が町に帰って来る事が、帰りたいって言ってくれた事がただただ嬉しかった。

あっちゃんは恥ずかしそうに、


厚樹『…自分で言ってなんだけど自分探しって疲れたOLみたいよな?』


ほら、なんだかずいぶんと子供の頃のあっちゃんっぽくなってきた。

俺はその日が楽しみでならない…!

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