第340話 薄幸の美少女【side紅緒永遠】

…承くん、弱ってる女の子に弱そう!

なんか語感がしっくりこないけど今日は折角だから?この路線で攻めることにしたよ!


出来るだけ雰囲気を出しながら…。


『…倒れた時ね、本当に動けなくって…死んじゃうかと思ったんだ…。』

※ある意味事実。



私は先ほどから意識している透明感のある笑みを絶やさずに承くんに語りかける。…イメージはサナトリウムで病気療養する薄幸の美少女。


『身体中痛いんだけど…胸も痛くて怖くなっちゃってね?』

※胸でなくて大胸筋です。


承くんは神妙な面持ちで聞いてくれてる…。

椅子持って来て?横に座って?



承くん!今日揶揄わずに言いなり!いいぞ!

私は出来るだけか細く、


『無理しすぎちゃったみたい…。』


承くんは顔を曇らせて、


承『…本当だよ、皆んな心配したんだよ?』


『…承くんも。承くんも心配してくれた?』


(…いつもなら照れて絶対に言ってはくれないとこ!)


承くんは少し顔を赤らめて、私から目を逸らしながらも、


承『…心配した…すごく心配だった。』


(きゃー!)


『…家にひとりぼっちだったから…寂しかった…ちょっとだけ

手を握って?』


躊躇う承くん!きゃわわ!

普段なら即却下されるのに!ここは押しどき!


『ごほっ、ごほっ。』

※咳は体調に全く関係ありません。


仕方無いって顔で心配そうに私の顔を見ながら手を握ってくれる承くん…!

ひゃっほう!

承くんの手…大きくて暖かくって男の人の手って感じ。

少しだけ乾燥していて力強い逞しい手。

※紅緒さんは手フェチです。



私がそっと握ると承くんもきゅっと握り返してくれる。

…これイケるんじゃ…?


『…私はいつ何が起こるかわからない…。

だから、承くん…おねがい…。』


承くんはあわあわしながらも、


承『ダメ!そんな事言っちゃ!気持ちで負けるな!

紅緒さんは幸せになる為に生まれて来たんだよ。

これから二年生になって、三年生になって卒業式を迎えて!

大学?就職?それから結婚とか赤ちゃんって順番で夢叶えて行くんでしょ!』


…こんな可愛い子が好きにさせてあげるし、こっちから赤ちゃん産ませて!って言っているのにこの堅物の男の子は全く揺らがないのだ…。

でもそこが好きだから断られて悲しい半分、私が見込んだ男の子!って誇らしさもあるのが不思議。




しっかりと顔見たくて体を仰向けから半身にして…あ!

…さっき、ママが湿布貼った時…適当にパジャマ着付けたから…。

第一ボタン外しててかなり胸元ルーズだよ!



良い、これも使える…。

私は恥じらいの表情で…。




『…見えた?』


恥ずかしいけど!ちょっとしか無いけど谷間!胸の谷間だよぉ!

これで!どうだ!



承くんは神妙な顔で、


承『…見えた…そんなに痛かったんだ?』


『ほえ?』


間抜けな声が出た…。

私は震える声で、


『…な、何が見えたのかな?』


承くんは優しい眼差しで、


『胸部から肩にかけてびっしりサロ⚪︎パス…うちのおばあちゃんの背中みたい…。』



はあ?!ちょっと!薄幸の美少女のはずが!


『…今、この部屋の空気って…?』


私の感覚では甘酸っぱい、レモン?桃?色でいうならピンクの空気で振る舞ってた私に対し、


『…メンソール臭い、当たりがキツイ部活後の男子部屋って感じする。』


承くんは落ち着いた表情で最後に言った、


承『無理しないでね?紅緒おばあちゃん?』


『あんだってぇ?』

※志村さん風に


薄幸の美少女プロジェクト失敗!

もう!こんな湿布だらけで誘惑なんて出来るわけなかった!

そもそも身体超痛いしー!




皆んなも私を見て安心したのか、少しずつ帰っていく。

夕方従業員の皆さんも少しずつ帰って来て、帰るクラスメイトたちに気さくにあいさつしてくれるゴツいおじさまたち。


私の部屋におじさまたちは皆んな様子を見に来てくれて口々に、


『永遠ちゃんあんなに友達が居るんだね?』

『…良かったな。』

『昔は全然お見舞いなんて…良かった!』

『…大事にするんだよ?』


おじさまたちは私のクラスメイトを歓待してくれた。

ママやパパも、


ママ『あんなに大勢永遠のお見舞いに来てくれるなんて…学校楽しいわけよね?良かったね?永遠。』


パパ『昔は見舞いなんてほとんど来なかったのに…。素敵なことだよなぁ。』


ふたりして泣いてた。

…泣いちゃって馬鹿みたい。


私はパパママが出て、ひとりになった部屋で呟く、



『皆んな来てくれた…ほとんどの人が。

…嬉しいなぁ…。』


思い返したら泣けてきた。

皆んなが心配してくれる、心配したから怒ってくれる。

どうでもいい人じゃなくって居ないと心配してくれる。


その事実が私の涙腺を簡単に決壊させちゃった。


それもこれ始まりは学校生活を、クラス委員長は何かを教えてくれた男の子がいたから。

彼が居なければまだクラスで孤立していてまだクールキャラとかして居たかもしれない。



皆んな大好き!承くんはもっと好き!

私は明日多少の痛みなら登校する決意を固めて今日は早く就寝する事にする。

…いつからだろう?明日が来るか不安で眠る事を怖がっていた私が明日を楽しみに早く眠る!って事を覚えたのは…。


1年4組のクラスメイトは皆優しくて私を愛してくれる。

…もちろん全員が全員では無いよ?


そんな優しさに包まれながら思い出す…昔小5で倒れた時、少ないがお見舞いに来たいって言ってくれた子たちが居た。

…私は寝たきりの姿を見せたくなくって断って、辛い年月を積み重ねるうちにその子たちの顔も名前もほとんど忘れてしまった。


…もしあの時お見舞いに来てくれた子に会って居ればもっと…考えても仕方無い事だけれども私は申し訳ない事をしたなぁ、勿体無いな。って思った。

もっと人を大事にすればもっと友達が増えたかもしれないって思いながらこれからは絶対にこぼさないと誓う。


夢は赤ちゃんを産み私の小さい叶えられない夢を託す事。

それでもその過程を色んな人と関わりながら楽しみたいって思いが胸に芽生えていたんだ。

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