第336話 祭りの終わり

3位決定戦あるんだ?相手は8組。

ちゃんと聞いていなかった俺たちに突きつけられる急な呼び出し!

着替えかけてた女子達も大慌てでグラウンドに戻って来た。

生徒会の書記もしている稲田さんは呆れながら、


稲田『え?生徒会から伝達したでしょ?決勝戦の2チームのインターバルのために3位決定戦がその前座であるよって。』


…稲田さんグループだけ準備万端。

連戦じゃん。サッカーで連戦って…。


先の試合出ていない子を中心に組まれた急造チーム。

相手チームも似た状態でどろっどろの泥試合でどっちもシュートまで持っていけないしょっぱい試合!


前半をノースコアで折り返し、後半はもっと動きが鈍い酷い試合。

でも、当事者達は必死に戦っていた。


伊勢さんはもう動けなくて交代、交代選手も運動苦手な女子だからフレッシュな新戦力も機能しない。

それでも、



女子『ゴール前固めて!』

ギャル『ちぇっく!』

陰女子『…はい!』


皆んな必死に全員攻撃全員守備!どろどろでグダグダだけども女子高生たちは慣れないサッカーに夢中で必死!

サッカーの原点ってこんなだよな。

…あっちゃんたちと泥だらけになりながら暗くなるまでボールを追いかけていたあの頃を思い出す。楽しかったな。


きっと彼女たちも後からなんであんなに必死だったんだろ?って自嘲的に笑いつつ時間たつと楽しかったなぁって思い出すのだろう。

それは来年かもしれないし、大人になってからかもしれない…ママになって子供の姿に在りし日の自分を見るのかも知れない。

…やっぱり紅緒さんの言うことは正しい。

明日が来る保証は無いんだからなんでも一生懸命に必死にその日しか無いって思いでやらなきゃいけないんだよね。



ピッピッピー!!!

試合終了のホイッスルがグラウンドに響き渡る!

両クラスとも地面に崩れ落ちる…!お疲れ様!

応援するクラスメイトたちから声が飛ぶ。


勝負はPK戦に持ち越された…。

ひとり気を吐く紅緒わんこ。


紅緒『…ついに見せ場が来たね…!』


伊勢『は?PK?とわんこはマズイ!キーパー交代!』

ギャル『カカシの方がまだ安全!ボール直撃したらべにお死んじゃうしー!』

陰『いのちをだいじに!』


紅緒さんは不敵に笑って。


紅緒『…ペナルティエリア外からは絶対に決めさせない!』

キリッ☆



伊勢『PKはペナルティエリア内から蹴るのー!』


ギャル『とわんこ今日一回もボールに反応出来て無いし!』


紅緒さんは目を瞑るとカッ!と初めて会った頃のような強い目力で皆を見つめる。

…でもあの頃と違い皆が大好きでこのチームで勝ちたい!って決意の瞳だった。



紅緒『…私の運動神経が信じられないのはわかる!

でも、今日は皆んな一日中走りまくって私はゴール前で立ってるだけ。

これじゃ胸張って皆んなの仲間だって言えない!

今日がみんなで何か出来る最後イベント!ここで退けなんて言われても絶対に退けない!』



…みんなしぶしぶGKは紅緒さんと承認した。

ダメなら、異常感じたら絶対交代だよ?

皆んなに涙目になる程キツく念を押される。


ボール直撃とかシャレにならない。

4組総出で固唾を飲んで見守る。


4組先攻でPK戦が始まる。

キッカーはギャル。


キーパー右側に危なげなく決める!


後攻8組。


紅緒さんの左側にあっさり決まる…。

紅緒さん反応出来ていない…。


先攻、今度はギャル2。

ギャル2も先と同じコースへ突き刺す。



こもギャルたちはメンタル強い!この子たちも全試合出場してるよね?

伊勢さんの仲間で紅緒さんをいつもフォローしてくれる、ありがたい女の子たち。


1人外して1人決めるって鏡合わせのように4組と8組は交互に繰り返しスコアは3-3。

…ただそのどれも紅緒さんは反応出来ていない。


キッカー5人目、稲田さん。


稲田『…!』


稲田さんが外した…。

敵の8組大盛り上がり!4組大ピンチ。

必死に走ってるし仕方ない。

もちろん誰も稲田さんを責めない。

…責める奴居た…。


紅緒『稲田さーん?どうしてくれんの?』


稲田『…ごめん。』


泣きそうな稲田さんに煽るとわんこ。

とわんこはニヤッと笑って、


紅緒『うそうそ!任せて!これで止めたら私が今日のヒーローじゃ無い?

良いところ持って行ってご!め!ん!ね!』


…ああ、あれフォローのつもりだったんだ…下手すぎだろ。

皆んなクスクス笑う。


紅緒『負けたって死ぬ訳じゃ無い。でもここまで来たら絶対負けたく無いよ!

承くんが言ってた!気持ちで負けるな!』


応援する1-4のクラスメイトに向かってとわんこが吠える!

両手を下から上に何度も上げて、盛り上げろ!って紅緒永遠は応援しているクラスのみんなを煽る!

…前に香椎さんが体育祭でこれやってた話を覚えてたんだな。



がんばれ!集中!大丈夫焦るなー!クラスみんなの声援が一段も二段も高くなる!


仙道『シシュー!!』(死守!)

青井『紅緒!相手から目を逸らすな!』

『紅緒さん!ここで止めたらおいしいよ!』



紅緒『…絶対止める!』


紅緒さんは覚悟を持って位置に着く。

相手だって勝負が決まるシーン、プレッシャーも相当だろう。



キーパー位置からわずかに一歩前に出ても審判に止められないから素知らぬ顔でとわんこはさらに2歩前に出る。

危なく無い?怖く無い?

本当はキッカーが蹴るまでゴールライン上に居なきゃいけないのに素人サッカーだから流された…?


ピピ!


2歩出て審判に注意されるとわんこ。

笑い声がグラウンドに響くけど紅緒さんの顔は真剣そのもの。

…あれは考えに考えてなんとか工夫して前に出ようとしたんだね。

多分止められないからキッカーにプレッシャーをかける方を優先したんだと思う。


…それも審判に気づかれた。

どうするんだろう?



紅緒さんは右に4歩寄った。

自分の左側を多く開けてそこへ蹴らせる策だ…。


シュートと同時に左へ全力で飛ぶ!

弾いた!


わっ!と盛り上がる4組女子たち!

この後、次のキッカーの稲田さん派閥の子が決めて、次のキッカーが外してあっさり4組が勝利した!


もう大フィーバー、4組女子たち大騒ぎ!笑って泣いて大喜び!

ピピピ!


体育教師『整列しないと負けにするよ!』


4組女子はおとなしく整列して礼をする!


『『『ありがとうございました!!!』』』


わああぁ!!!!

グラウンドがら退出しながら4組女子たちは一つにまとまり敵も味方も無く一塊になって更衣室へ向かって行った。

…紅緒さんが望んでいたひとつの理想が叶った瞬間だった。


☆ ☆ ☆

それに引き換え男子バスケの決勝戦はあまり見応えが無かった。

エースの青井が2試合全開で稼働した為、多少の休憩じゃ回復しないほど疲労している。俺はまだやれるけど準決勝接戦でキツすぎた。

…そもそもバスケが走りっぱなしで消耗が強い。

俺と目白くんと目白派の陽キャ中心に食い下がったけどじわじわ点差がついていき、終わってみれば14点差ついて敗北だった。

試合終了後現れた津南が嬉々として、


津南『やっぱ俺抜きじゃこんなもんじゃん?』


って笑ってたけど、


『でも!皆んなで頑張って決勝まで行けた!楽しかったね!』


俺は叫ぶし皆んな同意してくれて笑いながら教室へ戻る。

津南派閥以外の男子はあん時さ!この時!笑い合いながら今日の話をしながら教室へ戻る。

津南さ?お前にはきっとわかんないんだろうなぁ。

主役とか目立つとかじゃ無くてみんなで何かするって事の楽しさや満足感。

まあ知った事では無いよね?俺は今日を共に戦った仲間たちと語り合う事に夢中で絡み続ける津南を認識しなくなっていたんだ。



☆ ☆ ☆

閉会式があり、各学年各上位3クラス発表された。

ただ読み上げられるクラス名。

それでも嬉しくて紅緒さんは表情が崩れるのを止められない!


小さい賞状が2枚贈られた、HR時担任が持ってきた。

明後日の卒業式でクラスは解散。

紅緒さんは誇らしげに黒板の上に目立つように2枚の賞状を貼り出す。


紅緒『ふっふー!嬉しいな!嬉しいなー!』


しかし、ここまで。

最後まで戦った4組にもうほとんど余力が無い。

男子の方が体力的に余裕はあるけどとてもとても打ち上げどころじゃあない。


紅緒『…明後日の卒業式。卒業式の終わりにクラスの解散…打ち上げ会しようか?』


そういう事になったんだ。

お疲れ様、紅緒さん。

お疲れ様!1年4組!!





☆ ☆ ☆

HR後、足りなくて俺は飲み物を買いに行く。

体育館横の自販機コーナーは球技大会の余波なのかな?

飲み物買いに来てる生徒でやや混み状態。


やっと俺の番…ちゃりん、お金を投入して…。

にゅ!横から手が伸びて勝手ボタン押される!何すんだー!



ガタン!出て来たのはポカリシット…まあ…これ買うつもりだったけど…。

でも、むっとして横を見る。

あっちゃん?


厚樹『…承、お疲れ。』


『なにすんだよ!』


厚樹『どうせポカリっしょ?』


…まあそうだけどさぁ。

変わらねぇなぁってクスクス笑うあっちゃん。


『おめでと、うち強かったけど勝ったじゃん。決勝は残念だったけど。』


『…まあね。』


青井のスタミナがもてば勝てたとか、俺のパスがどうのとか、4組バスケ部員出なかったな?ってひとりで話すあっちゃんにちょっと苛立ちを覚える。


『…出てないからなんでも言えるよね。

あっちゃんが居れば7組が勝ってたよ?』


俺の言い方少しトゲがあった。

それにあっちゃんは反応する。


厚樹『…目立ちたく無いんだよ。言ったろ?』


過去の自分と今の自分の乖離にあっちゃんは悩んでる素ぶりがあるよ。

でも、俺は言わずにいれない。


『…あっちゃんが居たら勝ったのは7組だった。

昔あっちゃんは自分のクラスやチームで勝つのを何より喜んでいた。

…自分の力を縦横無尽に使ってさ。』


厚樹『…そんなに昔の俺が正しくて今の俺は違うのかよ?』


あっちゃんが静かに殺気立つ。

俺は別にどっちでも良い…いや、前の方が好きなんだよな。

でも人は変わっていくもの。

問題はあっちゃんが自分自身に納得がいっていない事、それに尽きる。



『いつも言う。

変わっていくとこも良いし、変わらないところも良い。

でもあっちゃんが納得出来るならって前提。

あっちゃんはどうなの?本当は俺や青井と戦いたかったんじゃ無いの?

自分の力でクラス勝たせたかったんじゃ無いの?

…俺はあっちゃんと戦いたかった!ゴリゴリ削りあって、手の内知り合うからこその長所の潰し合いして、あっちゃんの弱点のスタミナ攻めて消耗戦に持ち込んで勝って時の運だよ!ってニマニマフォローしながら全く勝てなかった子供時代思い出したかったよ。』


最後は笑いながら言う。

あっちゃんは俺と目を合わせない。

でも少し響いたのかじゃあなって一言残して帰って行った。

…やっべ、言い過ぎたかも…。

球技大会で熱くなりすぎて…言い過ぎたかもしれない…。

宏介に言ったら笑われるヤツだ!厨二っぽいって!


こうして高校一年生としての実質最後イベント球技大会が終わった。

これであとは終業式と卒業式って消化イベントを残すのみ。

教室へ戻り、ジャージから制服へ着替えて紅緒さんを家へ送り届けて青井と伊勢さんと家へ帰る。


『高1ももう終わりか。

あと2日、流石にもう何事も起こりようが無いなぁ…。』



こんな事言うものでは無い。

フラグってあるんだね…。




…次の日の終業式、登校するとざわざわする教室。

まだ昨日の余韻かな?

しかし先に登校していたクラスの女子からびっくりするようなことを聞かされる。


女子『紅緒さん、倒れたらしいよ…?』

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