第330話 仙道との帰り道

『恒例期末テスト対策勉強会も今年度最後になりました。

…それではお呼びしましょう…!とわんこ先生です!』


紅緒『どうもー♪』


2月末いよいよ今年度最後のテストになる。

ここ社会科教室は最後の期末テスト対策勉強会でここまでパーフェクト学年首位の紅緒永遠先生をお迎えして始まる。


…って言うかさ?ほぼ津南と稲田さん以外全員来てるから4組の教室でやれば良く無い?


紅緒『非日常感が良いんだよ。じゃ!やろうか!

…やる?』


『勉強会をやる。』


バレンタインの公開告白により、津南は稲田さんと付き合いだした。

稲田さんは完全管理型彼女らしく、津南は紅緒さんにちょっかい出せなくなった。

津南は窮屈そうだけど稲田さんは嬉しそうに束縛している。

いいぞ稲田さん!もっと縛れ!


テスト週間の放課後毎日主要教科のワンポイントや出そうな所を紅緒さんが指導する事でこのクラス平均点は伸び先生もにっこり。

青井も助かっててこの時期だけは紅緒さんの言うことをキチンと聞く忠犬のよう。

わんこ同士相性良いのかもね。


勉強会も終わり、帰り道。

もうじき期末テストで、それが終われば終業式に卒業式。

高校一年生がもうじ終わろうとしている。

講師するから家まで送って!って紅緒さんが言うからすぐそこに見える紅緒邸へ送るんだけどさ?

紅緒さんはすぐに雰囲気出そうとするんだ。


紅緒『お疲れ様、承くん。

…ふたりきりだね?』

仙道『…僕って見えないの?』


紅緒さんと仙道と俺の三人で帰っているんだけど仙道はよく忘れられちゃう。

紅緒さんはもう!って呟いて、


紅緒『なんで居るの?』


仙道『さすがに酷く無い?』


仙道が不憫…!

家へ紅緒さんを送ってそのまま息抜きに少しだけゲーセン行くことにした俺たち。

ちなみに青井は小幡さんと約束あるから勉強会終わったら競輪選手みたいな速度で帰った。


☆ ☆ ☆

ゲーセンにて。


仙道『立花はさ!最近どうなの?』


エアホッケーって知ってる?薄いディスクを相手側のゴールに叩き込む遊び。

ホッケーみたいにコート分けされてコートは平面なんだけど床に小さい穴があいててそこから空気が吹き出しててディスクは常にうっすら浮いてるからディスクは滑らかに物理法則と微妙に違う抵抗の無い動きで高速で飛び回る!



『どうって?』


仙道『…紅緒さんの告白受けて?伊勢さんとも仲良しで?どっち?』


は?紅緒さんはわかるけど伊勢さん?

仙道はわかって無いなぁ。


『どっち?どっちでも無い』


仙道『…は?』


ごこん!俺の得点が決まる!

仙道はため息をついて、


仙道『…俺たちモテ無い側の人間に来た奇跡だろ?

そんな事言って?本当は?』


『…実は好きな娘が居る…。』


仙道『…。』


がこん!また俺の得点!


仙道『…無理しないでいいよ?紅緒さんも伊勢さんもあんな美人で…。』


伊勢さんも紅緒さんも青井も知っている…。

仙道にも言っておくべきかもしれん。


『…俺小学生の頃から憧れてる娘が居る…。』



仙道『おいおい…ショーン?何を言ってるんだ?』


…イラつくわぁ…昔のアメリカドラマみたいな大袈裟なリアクションで肩をすくめる水木しげ⚪︎先生の絵風の高校生。

かいつまんで話した俺と香椎さんの事。

仙道は黙って聞いてまたため息を吐く。人間ってままならないなぁって呟いて、


仙道『それじゃ、高嶺の花じゃないか?ショーン!』


『ショーンって誰やねん。』


久々に突っ込み入れちゃう。

仙道は哀れみの表情を浮かべて、


仙道『でもな?ショーン?現実を見ろ?

あんなに美人がお前で良いって言ってるんだ?そんな手の届かない高嶺の花なんて諦めて、現実を見ろ?』


『…バレンタインの週末デートした。』


仙道『hahaha!まさかあ。』


この野郎?

俺の香椎さんフォルダ見て驚くな?


仙道『は?このニット美人?すんげぇ美人…可愛い…。

本当は違うんでしょ?…ツーショット!』


エロ可愛い香椎さんをこれ以上見せられない!って思ってすぐ見せるのやめたけど…。


仙道『待って?三連休の初日?紅緒さんと出かけてるんだろ?次の日?三連休のうち2日もデート?違う女の子と?

…こんなに立花がモテるって知ってたら…?』


血の涙を流しそうな程仙道は歯を食いしばってる。

俺も第三者に言葉として聞かされると…ダメージ入る…屑ムーブ…。


『友達にはならなかった?』


先を予測して言ってみたけど…それは悲しいな。

仙道はケロっとして、


仙道『いや?友達にはなったんじゃん?良いヤツだし。

でも嫉妬の炎が燃え盛る…。』


気づけばエアホッケー負けてた。

鬼気迫る仙道は全部サービスエースで俺のディスクをカウンターで俺のゴールに瞬間で叩き込むんだもん…強すぎる。

仙道はため息吐きながら、


仙道『…今のグループってさ?すごく良いじゃない。』


俺は頷く。

青井、仙道、紅緒さん、伊勢さんそして俺。

絶妙なバランスで成り立っているこの五角形が俺と女性陣のなんやかんやで崩れる事が心配なんだって仙道は呟く。


新川中のトリオに月形中の2人。

でも仙道は紅緒さんを知らなかった。

月形中はデカいから人数いるもんな。


仙道『このまま2年生になっても一緒のクラスで居れたら良いのにな。

みんなで笑い合って、戯れて、話しして。

学校生活満喫して。

…出来たら紅緒さんに良い思い出作ってあげたいな。』


『そうだな。』


もうじき。高校一年生が終わる。

その事が仙道を少しナーバスにさせているのだろうか?


『仙道は何か悩みある?』


仙道『…ショーン、どうしたらモテる?』


『ショーン違うわ!』


仙道『期末終わると高1も終わりだな?承太郎?』


『てめーは俺を怒らせた』


出来るだけクールにドオーン!って効果音が出そうな立ちポーズで俺は呟く。

そっか高1ももう終わりか。

去年の今頃は高校受験に緊張していたっけな?

それが今はすっかり慣れて高校で出来た友達も居てバイトもして。

一年後の事なんて誰にもわからない。


…俺の一年後…。

俺と香椎さん、俺と紅緒さん。そして友人たち。

一年後一体どうなっているのだろうか?


案外このままだったりして?仙道と笑いながら俺たちはゲーセンを後にする。

もうじき冬が終わる。

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