第329話 永遠紅緒の哀願【side香椎玲奈】

永遠『…だから、お願い。

お願い、玲奈。

…承くんを譲ってくれないかな?お願いだよぉ…。』


ポロポロ涙を流す永遠から目が離せない…。

そんな話を聞いたら、そんな想いを聞いたら…。

胸が痛い、苦しい…、


『…それは出来ないよ。』


私は言い切れた。

罪悪感、嫌悪感色んな気持ちはある。

それでも承くんを譲る?検討もしないでノータイムで返事をした。

永遠は悲しい顔で涙を流し続ける。


永遠『こんな事お願い出来るの玲奈だけだよ?

お願い、お願いします。』


頭を下げ始める永遠を慌てて頭を上げさせる。

身も蓋も無く泣きながら頭を下げる永遠を腕力で真っ直ぐ姿勢良く座らせる。


『だめ。』


永遠はチッって舌打ちすると顔を起こした。

あ!この子!


永遠『流石に泣き落とし位じゃ譲ってくれないか…。』


まだポロポロ涙を流しながら永遠はケロっとした表情。

私が声も出ないで慄いていると、


永遠『…ちょっと語りすぎて厚かましいお願いをした。ごめん。

反省している。忘れてくれるとうれしいな。』


えへへって恥ずかしそうに笑う永遠は可愛い女の子でしか無い。

でも、さっきまでの迫力は相当なもの。


永遠『…本当に譲って欲しいって、私には承くんしか居ない。

って語っているうちに弱気になって乙女として恥ずべき卑しいお願いをしちゃった。

本当にごめんなさい。

我ながら情けないし、玲奈が泣き落としで承くんを譲るような女の子じゃ無くて良かった。そんな娘がライバルなんて嫌だもん。』



うん、私は頷くけども場は完全に永遠が支配している。

永遠の本気が、永遠の渇望がビリビリ伝わる。


永遠『ワイシャツの件も承くんに黙っているし、余計な事は言わない。

…私だって女教師ごっこや事あるごとに承くんに言い寄ったり、セクシー女優っぽいムーブでお色気で攻めているし…。』

※よくAVみたいな事言って恥ずかしがるヤツ色仕掛けらしいです。


『お色気?!』


思わず声が出る、


永遠『だから?同盟というか協定と言うか?

お互いに人に言えない様なズルは無しで?

お互いに情報交換を。

進展や出来事は共有しよう?嘘は無しで。もちろん言いたく無い事は言わなくてもいいし。』


『それはいいけど…。人に言えない様なズルって?』


永遠は目を逸らしながら、


永遠『…おくすり盛って…危険日に…そのピーしちゃう…とか?』


自分で言って真っ赤になる永遠。

常夜灯でもわかる赤さ!

この顔…


『…検討したでしょ?』


永遠『…なんのこと?』


『おくすりで既成事実検討したでしょー!』


永遠は焦りながら手をバタバタさせる、

その仕草が疑わせるよね。


永遠『ごめんて!検討だけ!

それじゃ心が手に入らないもん!やるとしたら?最悪の最悪の事態だよぉ!』


最悪の事態ならするのかー!


玲奈『…もう、モラルをモラルを持たなきゃ…!』

※香椎さんも以前洗脳を検討した事があります。

44話 こぼれ出た好意 最後あたり参照。

※懐かしい中2頃(笑)


これでお開きになり、ふたりで話しながら笑ったり怒ったりしながら気付けば2人とも寝落ちしていたんだよね。



☆ ☆ ☆

翌朝、春休みだし部活は任意なので今日はお休み。

永遠も昼前位に帰るって言う。

朝食をもりもり食べる永遠。


永遠『ママさん!サラダすっごく美味しいです!』


ママ『あらあら!いっぱい食べてね?』


ママのドレッシングはヘルシーかつ美味しい。

野菜も出来るだけ温室で無農薬で育てたメイドイン香椎家!


永遠『こんなに野菜だけ食べたこと無い。これはすごい!』


永遠の食べっぷりにママも目を細めて嬉しそう。

うちのサラダ美味しいでしょ?美味しい!

そんな感じで永遠と笑い合って朝食を終えて、

またお姉ちゃんが混ざってきて?


優奈『永遠ちゃん位美人だと変な男子寄ってくるでしょ?』


永遠『…うん、そうですね。』


優奈『おいで!ほら!』


お姉ちゃんがよっぽど永遠を気に入ったのか護身術を教え始める。

心配になったらしい。


紅緒『…私力無くって?多分あんまり?』


優奈『あー、力要らないやつあるよ?』


お姉ちゃんは自分につかみ掛からせて…コテン!

永遠はわけわからん?って顔でひっくり返っている。


永遠『は?何が?何がどうなって?

えー!教えて下さい!』


永遠はお姉ちゃんに夢中になって護身術を教わる。

合気の技術でお爺ちゃんからママ、そして私たちに伝わった技術。


優奈『ほら!こんな感じ!』


永遠『えー?!』


でも、1時間ほどで掴み掛かった相手を捻り上げたり、転ばせたり出来るまでになった。


ママ『…玲奈は力があるからここまで使い熟せないわね?』


優奈『玲奈は力で捻じ伏せるのが信条だから…。』


『人をバーサーカーみたいに!』


でも永遠は筋が良いらしい。

…力無いから力でどうにかしようって最初から頼らないのが良いらしい。

何かの役に立てば良いね。


☆ ☆ ☆


その後たっぷり楽しんだ永遠は家に帰る。

バス停でバス来るまでダラダラ話をしていた、

バスが遠くに見えた頃、永遠が真剣な顔をして言った。


永遠『最後にこれだけ。

承くんも玲奈好きだけど、一個だけ気になって仕方無い事がある。

…好きだったらなんで自分から行かないの?

中学の卒業式の話、最後に逃げた承くんも、告白を待ってた玲奈も気持ちはなんとなくわかるし、言いたいことや聞いて欲しい事あるとは思うんだ。』


バスが近づいて来るけど私は永遠から目が逸せない。

永遠は風に靡く黒髪を抑えながら少し苛立つような表情で私に言う、



永遠『…でもさ?好きならなんでその後モタモタしてるの?時間は有限なんだよ?

…私はそんな頃があったからせっかちなんだと思うよ。

でも何故好きなら自分から言わないんだろう?って不思議でしょうがない。』


私は頭を殴られたかの様にショックだった。

永遠は近づいてきたバスを見ながら

目を合わさずに言う、


永遠『…特に玲奈の、告白待ち姿勢とか私が付き合うと攻撃されちゃうから中学時代は様子見とか中学の頃にフった人に義理立てて彼氏作らないって意味わかんない。

なに?みんなが承くんは彼氏にふさわしく無いって言ったら諦めるの?

フった人って玲奈に発言権あるの?

私はそんな事気にしないし、関係無い。

私と付き合って攻撃されるなら私が守るし、フって申し訳無いけどだからって私の恋愛には一切関係無いでしょ?』


バスが着き、ドアが開く。

他に乗り込むお客さんは居ない。


バスに乗り込みタラップでこっちを向いて永遠は言う、


永遠『ほんとはそのままの方が私には都合が良い。そのまま気長に数年先を見て毎日のんびりしていてくれれば。

…でもね、人間なんてわからないんだよ?明日が必ず来る保証なんて誰にも無い。私は玲奈が好きになっちゃったから言っちゃう。

嫌な事言ってごめんね玲奈。

人によって感じる事は違うよね?

命短し恋せよ乙女…って思いながら私は承くんと日々過ごしているんだ。

これをもって私から玲奈への宣戦布告とするよ。』


ぷしゅー!!

バスのドアが閉まる。

ドアの窓から私の胸をエグった綺麗な女の子は無邪気な笑顔で手を振ってる。

私も笑顔で振り返すけど…顔少し引き攣っていたかも知れない。


永遠…あんなに真剣なんだ。

私だって譲る気は無い、でも?あそこまで真剣に後が無いって必死に恋愛に向き合っていたか?

永遠は文字通り命懸け。自分の全てを賭けて承くんを奪いに来ている。


『…負けた…。…今回は。』


どうしようも無いほどの敗北感がの胸を押しつぶす。

永遠はもちろん遊びに来たんだ…でも私に正式にライバル宣言と宣戦布告をしに来たんだってわかった。


ライバルは強く美しく魅力的で。

自分を強く強く持っている。

なんて娘なんだろう、なんて娘がライバルになってしまったんだろう?


私は打ちのめされながら帰宅する。

春はまだもう少し先。帰り道が寒く寒く感じた。

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