第315話 終わり良ければ…

お弁当も食べてお腹いっぱい。

れいにゃも見れて胸もいっぱい。

ソフトクリーム美味い。

玲奈さんは活き活きと笑顔で俺に聞いてくる、


『そろそろ全部見たね?そろそろ帰ろうか?

…もう一度見たいものある?』


『滝と洞窟。』


『やっぱりね?そうだと思った!』


あはは!ふたりでまた熱帯コーナーへ向かい、間近で滝を見て洞窟へ入り滝を裏側から見る。


いや、何度見ても良いよね…滝も洞窟も何故こんなにそそるんだろう?

俺はいつまでも見飽きず滝を見つめていた。


そして、もう一回だけチューリップをはじめとする花達を眺めて植物館を後にする。湖周りの散歩道も冬は雪で埋もれてとても歩けない。

…ピークは過ぎたけどもうちょっと春まで時間はかかる。

楽しかった植物園に別れを告げて園外へ出る。

…温室にずっと居たから麻痺してたけど冬をビリビリ感じる。


『どうだったかな?』


『すっごい楽しかった!』


俺は水槽美しい!花が綺麗!滝すごい!洞窟わくわく!食虫植物キモ可愛い!

蘭が華麗!公園暖かくって気持ちいい!って思いつくまま玲奈さんに熱く語る。

玲奈さんもうんうん言いながら感想を述べる。

玲奈さんはキラキラした笑顔で、


『じゃ今日の1番は?やっぱり滝?』


俺は首を振る、


『じゃ洞窟だね?もしかして食虫植物?』



クスクス笑いながら玲奈さんは突っつく。

突っつかないで?

俺は違うね?って言う。


じゃ何?って顔するから、


『お弁当、玲奈さんのお弁当が最高。』


『…な。』


ぼす!ぼす!

…うん、玲奈さんは力が強い…。

か弱いっぽいムーブするけど実際平均女子の遥か上のフィジカルを備えたスポーツ女子でもあるからね。

…痛いです。


『承くん!そんな女たらしみたいな事言って!』


ちょっと俯いて表情見えないけど玲奈さんは照れていた。

本当にマジ美味い。量がバグってたけども。

好きな娘が俺が喜ぶって思って俺の好物とかこんなに作って来てくれたんだよ?感動しちゃう。

そのどれもが美味しくって、作る玲奈さんを想像するだけで俺めっちゃ幸せ…。


…こんな娘が彼女だったらどんなに幸せだろうか?

…俺が釣り合わない…でも、きっと…いつか。


入り口の正面玄関でふたりで写真撮る。

…スマホは本当に万能だよね…いまだに驚くよ。

玲奈さんとふたりで写真撮れちゃうんだぜ…?



玲奈さんさえ横に居れば冬だって暖かい。

バス停でバスを待つ時間さえも玲奈さんとなら楽しい楽しい素敵な時間。


バスが来る。

バスに乗り、ターミナル駅へ戻る。

ターミナル駅に着けば我が新川町までせいぜい20分。

…俺名残惜しい。

今日が楽しかったから、もう終わってしまうのが惜しくてたまらない。


夕方から用事ある玲奈さん。

いつも忙しそうで大変そうな玲奈さん。

…今日は玲奈さんの為になったのかな?


『あーあ、もう帰るのか…なんか寂しいね?』


玲奈さんのしっとりした寂しそうな表情に見惚れてしまう。

きっと俺も残念な表情が顔に出ているような気がする。

…だったら!言っちゃえ!



『夕方から用事だよね?

…お茶飲んで帰らない?

寒かったし!バス帰りは立ちっぱなしだったし!』


玲奈さんはクスクス笑いながら、


『もう!素直に玲奈さんとお茶したい!って言えば良いのにー?』


俺はしどろもどろに、


『玲奈さんと…お茶したいよ。』


『そっかぁ、じゃ帰りの電車を逆算して?30分位なら?』


俺と玲奈さんは笑い合いながら、カフェでお茶を飲む。

何飲んだなんてまったく覚えていない。

結局香椎玲奈と話すだけで俺は幸せ。


…そして、幸せ時間はあっと言う間に過ぎていく。

帰るのが惜しい。

そう思わせる素敵な時間。


店を出て、改札へ向かう。


ちょん



ちょん



玲奈さんの手が俺の手に何度か触れる。


きゅっ!


俺はその手を了承得ないで握っちゃう。

俺も玲奈さんも言葉は発しない。


ただ互いの手の温度と肌触りだけに集中する。

玲奈さんの手は小さくってスベスベで暖かくて気持ち良い。

玲奈さんの言葉はいつも暖かく、色んなことを励ましてくれて勇気出る。

色々な感謝を伝えたいけどそれが形にならなくて俺はもどかしい。


玲奈さんはどう思ってるのかな?

チラチラ照れながら俺の顔を見ているのはわかる。

玲奈さんが横に居るだけで、胸に暖かい風が舞い上がる。

それは素敵な予感を感じさせる春みたいな暖かい風。

俺は何か言葉にしようと声を出し掛ける。


ぴこーん!


改札め…邪魔!


改札から駅のホームに付くともう、玲奈さんは手を繋いでくれなくて…。

いや、そうだよね、ここじゃどこに同級生が居るかわからないもんね?


さっきより2歩離れた立ち位置。

それが少し寂しい。

電車に乗るとお互いに少し無言になっちゃって。


ガタンガタン!ゴトンゴトン!

電車の音だけが2人の間に流れる。


駅に着き、奇跡的に今日は同級生達に会わない!

これなら肩並べて歩いても大丈夫だよね!


でもなぜか、玲奈さんの表情は固くて苦しそう。

…話さなくても一緒に歩くだけでいつも心が暖かくなるんだけど、

玲奈さんの緊張?みたいなのが移って俺もちょっと話しにくい。


いつものコンビニ前、家まで送るよ?って提案を大丈夫、ここまででいいよ?って言われた俺はなんか不安な気持ちで、


『今日はありがとう。お弁当美味しかったし、とっても楽しかった!』


玲奈さんは少し微笑んで、


『私も。とっても楽しかったよ。』


その笑顔が儚げで、憂いを帯びてて俺は胸騒ぎがする。

俺が何か言いかけるのを手で制して、


『ふふー!遅れたけどバレンタインチョコだよ!』


そう言うとふたつ包みを俺に手渡す。

チョコレートと?四角い塊?


『一個はチョコレート!もう一つはガトーショコラだよ!』


え?良いの?2個も?

玲奈さんはドヤ顔で、


『永遠が2個渡してるんだから私は4個渡すよ!』


そのドヤ顔に俺は安心しちゃう、後2個はまた日を改めてらしいよ?

チョコ嬉しいし玲奈さんの顔が明るくなって俺は思わず言っちゃう。



『本当に今日は楽しかったよ。

…また俺と一緒にお出かけしてくれないかな?』



玲奈さんはビクッと体を強張らせて、申し訳無さそうに、


『…私も楽しかった…とっても嬉しい楽しい素敵な1日だった。

…でもちょっと、忙しいから…しばらく会えないかも。』


『あっ、すぐじゃ無くって良いんだ…。

『また』『ふたりで』って思って…。』


『…ごめんね。私の都合が悪くて…

色々忙しいんだよね…あはは。

ごめんね、今日はありがとう。

…またね。』


玲奈さんはいつもと違い玲奈さんらしく無い固い表情で寂しそうに笑うと俺の方を全く見ないで帰っていった。

…いつも別れ際ずっと手を振ってくれたり、ギリギリまで目線合わせてくれるのに…。


楽しくて、嬉しくて、美味しくて、ドキドキして最高の1日だった。

…それなのに、別れ際の20分ほどの時間が俺をどうしようもなく不安な気持ちにさせる。

…俺何か失敗した?俺何か間違った?

玲奈さんの別れ際の表情が頭にこびりついて離れなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る