第302話 バレンタイン編 チョコに込めた何か

俺は望から香椎さんのおばあさまの話を聞き少し考え大きく頷く。

俺いつも貰いっぱなし!こないだはプレゼント渡したけど数え切れないほど香椎さんの手料理、クッキー、ケーキなどなどご馳走になってる。

いつも励まされたり、勇気貰ったり、色んなものを貰ってる。

…こんな時位、俺から、俺から贈れないかな?


俺は香椎さんからチョコを貰うとすっごい嬉しいしテンション上がる!食べると信じられないほど美味しくって元気出る。俺がチョコ贈ってその1割でも返せたら、しょんぼりしてる香椎さんを元気付けられたら…!


『…望、俺もチョコレート作りたい。材料って残ってる?』


望はニヨニヨしながらからかう、


望『いいよ?作り方わかるのー?』


『わからん?教えて?』


望『あたし厳しいよ?ついてこれる?』


芹『…つい1時間前に私に教わったばかりの癖に…?』


望とその親友たちから揶揄われながらチョコを包丁で削り湯煎にかける。

…良かった…チョコ溶かして型に入れて冷やして整形するだけか…

でもあの香椎玲奈に…いやかえっていいかも?これなら市販品の味そのままでしょ?かえって安心だー!


芹『どうぞ?お兄さん?』


『え?これ以外の型って無いの?』


ハート?ハートしか無いの?!


望『バレンタインデーだよ?その形しか無いじゃん!』

※望は兄がチョコ作るって聞いた瞬間ささっと他の型を隠しました。


『…むう、しかし心臓を捧げるって意味でも良いか?』


芹『望ちゃんのお兄さん調査兵団なの?』


望『ううん、武将。』


妹と親友がちょっと呆れて見てる。

でも、後には引けない!俺はあたふたしながらチョコを湯煎にかけて溶かして型に流し込んだ…あとは冷えたら梱包…。


芹『はい、お兄さんどうぞ?』


『ありがと。ってこれ?』


渡されたのはチョコペン…?

チョコにメッセージ書くの?

メッセージ?!要る?!



望『そりゃいるでしょー?なんも書かないで渡すの?』


…確かに。

何書く?


いつもありがとう?…母の日か!

サンキュー!プレゼントフォーユー!…欧米か!

好きです…今はまだ…とても言えない…!


…俺は考えに考えたけどまったく浮かばなくって。

…さらさらって思いついたことを書いてささっと梱包した。


『え?ラッピングこんな可愛いのしか無いの?』


芹『だって皆んなJCですからね?こんなもんです。 』


ピンクのハート柄とか真っ赤な包装とか可愛いか派手か?

俺…そもそも綺麗に包める気がしないよ…。



芹『良かったらお兄さん?私が包んであげましょうか?』


『え?良いの?』


望の親友にお願いして、包装して貰った…その娘の趣味でピンクのハートいっぱいの包装紙…!


芹『香椎先輩によろしくお伝えください♪』


『あー、君そう言えば香椎さんの大ファンだったよね?』


芹『はい♪』


俺は望とその親友たちにお礼を言って家を飛び出す!

…何回目か知らないけど香椎邸へ行く時のこの尋常じゃない緊張感ってなんだろ?



香椎邸へ着くと来客中だった。

ありゃ。香椎邸目の前の公園で入り口に腰掛けて待つとすぐお客さんが出てきた!良かった!



インターホンを鳴らす前に髪型整えて服乱れて無いか確認して、チョコも確認!深呼吸してインターホンを押す!


ピンポン!

ガチャ!


早!びっくり!

インターホンから機嫌悪そうな香椎さんの声が聞こえてくる…よ…?


香椎『まだ用事ありますか?』


ちょっと思ってもみなかった状況…夜だし迷惑だったかな?

ごめん!俺気が利かなくて!

必死にインターホンへ話しかける。



『…ごめんなさい。立花です。

俺バレンタインチョコ作ったんだよ。

香椎さん、いつもありがとう。

良かったら食べてね?ここ置いとくね?

それでは失礼します?』


顔引攣つる…!

ペコって頭下げて俺は家へ帰る!

勢いで来てしまったけど…本来アポ取って、日時決めて?丁寧に進めるべきだった…。

急に無断で夜来て、男なのにチョコ作ってきてとか…ひかれた?

うわぁ。俺超ひとりよがりじゃない!

身内の不幸があって?意気消沈してる香椎家に急に訪れる空気読めない男…!

第一パパさんだったらどうすんだ?また大惨事…!


危なかった…?色々空気読めない男だぁ。

自己嫌悪を背負ってとぼとぼ帰る…。


どん!!ビクぅぅ!!

ビックリした!!

後ろからギュッて柔らかい感触?!


香椎『待って!承くん!』


後から香椎さんがギュッて俺を捕まえる!

顔と声色を聞く限り不機嫌では無い…?

ならさっきのは一体?


『香椎さん…。』


香椎さんはその瞬間不機嫌になった。

むすー。って表情。


玲奈『また香椎さん?玲奈でしょ?』


『…玲奈さん…。』


『…何回言っても少し会わないとすぐに香椎呼びに戻る…!』


玲奈さんはぷんすこしていた。

思ってたより元気そうで安心しちゃう。


チョコ食べてね?おやすみ!

待って待って!

帰ろうとする俺を玲奈さんは逃さない。


ここは西エリアのど真ん中。目立っちゃう。

玲奈さんに引っ張られて香椎邸前の公園へ向かう。


『なんで引っ張るの?』


『承くんが逃げるから。』


そっかあ。俺は大人しく引っ張られる。

香椎邸の目の前の公園の東屋のベンチへ案内され、隣に座る。

玲奈さんは優しい目でじっと俺を見つめると目線を前のブランコに移して、


『なんでチョコ作って私にくれたの?』


と俺に問いかけた。

綺麗な横顔。

悲しいのかな?疲れてるのかな?

それでも香椎玲奈は今日も美しい。

俺はさっきの望との会話をそのまま。


『日頃の感謝と愛情を贈りたかったんだ。』


ビクン!って身体を震わせて玲奈さんは俺に真正面に向き直る!



『あ、あ、あ、愛情…ふーん。愛情…。』



玲奈さんは壊れたように愛情って言葉を繰り返す…?

愛情?あ、あ愛情って俺言った?!


薄暗いから見えないだろうけど俺多分今真っ赤!


『…愛情あるんだ?そっかー?愛情かぁー!』


ニマニマしながら玲奈さんは機嫌良さそうに笑った。

冬だけど暖かい、玲奈さんが居れば。

そんな事を思いながら、今日もふたりで色々話し始めたんだ。

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