第299話 バレンタイン編 奇襲!
『承くん。
大好きです、一生懸命に作りました。
チョコ受け取ってください…。』
紅緒さんはガチガチに緊張しながら俺に両手でチョコを差し出した。
手は震えている…!
『…な?!』
なんで?!さっきチョコ貰ったじゃん!
みんなの前でサラッと渡したあれは何?!
紅緒さんはあははって笑うと、
『…あれはダミー。
皆んなにチョコ渡そ!って盛り上げておいて自分はあそこで渡さないって訳には行かないでしょ?』
『ずっる!稲田さんにはここで渡してみせろとか煽っておいて?』
『ずるくないもん!
…前回公開告白みたいな形で承くん困ってたから、やっぱりふたりきりで思いを伝えなきゃって思って…。』
俺は再び有難く両手でそれを頂く。
緊張からの緩和で紅緒さんは、
『はふー、緊張した!恥ずかしかった!』
『…恥ずかしそうにしてる今の紅緒さんならこんなに可愛いのにな…残念。』
『むう、受け取る承くんだって真っ赤じゃない!』
うん、受け取る時赤くなっちゃった。
紅緒さんはチョコを作る苦労と困難を家へ向かいながら語り出したがすぐに家に着いた。
『昼のチョコは影打、今渡したのが真打だよ!
…実は今日渡したチョコの中に一個だけ…
一個だけ、私とのデート権券が入ってるよ!』
※ 刀を作成時に神社への奉納、殿様への献上等の際は、刀匠が必ず何本か打ちます。一番出来の良い刀を奉納、献上します。その刀を真打、残り影打と言います。
『…。』
『…誰に当たるかなー?当たったら御一報ください♪
今週なら土日どっちも空いてるよ?』
『…今週はデートがあるから無理。』
『また?!また男遊び?!』
よよよ、って泣き真似する紅緒さんは笑い半分、心配半分。
『こないだの人生ゲームのやつだよ。
妹と弟とデート。』
『いくら大好きな承くんでも妹とデートって言う男はどうかと思う。』
『…。』
大好きって…俺は面と向かって言われた事無いから真っ赤になっちゃって照れて紅緒さんの顔も見れない…!
『お?効いてる?好きだよ承くん♡』
連呼されるともう顔上げられない…!
暴力的なまでの魅力と真っ向からの力技の好き連呼はすっごい効く…。
『効く!…否…効きすぎる…!』
『い、今なら…婚姻届…!ゼクシ⚪︎に付いてきた婚姻届もあげちゃうよ!』
自分の奇襲に勝ちを確信したとわんこが調子に乗り始める…!
ほーら!こんなに好きって言ってくれる子居ないよ!
美少女だよ!好きにして良いんだよ!
子作り!赤ちゃん!パパ!
『…あ、もう大丈夫っすわ。』
とわんこの残念っぷりに冷静になれた。
とわんこはがーん!って表情で、
『…承くんが戻った!』
うんうん、婚姻届のくだりあたりでスンって落ち着いた…。
なるほど…彼女が結婚したいって彼にアピールすると彼が冷める現象の一端を垣間見た気がする…。
…紅緒さんに失礼なんだけど婚姻届って聞いたら一瞬紅緒さんと結婚する映像がチラッて浮かんだ。その瞬間香椎さんとの思い出が走馬灯した。
『承くんはなかなかの堅物だね?』
『カッチカチやぞ?』
俺、女の子に好きって言われた事無いからどうしても真っ向からの好意に弱いとこある…!ダメダメ!
俺はお礼を言って、紅緒邸を後にする。
…不意打ち紅緒さんはずるい…。
本当に油断すると持っていかれそうになる。
保護者、保護者。俺は自分の立ち位置を再確認する。
☆ ☆ ☆
自己嫌悪
俺はそのままぼんやり考え事しながら家へ帰る。
(…香椎さん…どうしてるかな?)
ひとりでこの中途半端な時間に下校ってそんなに無くって不思議な感覚。
雪はだいぶ溶けて自転車は快調に進む。
…雪が溶けて、ひーちゃんは
ひー『ゆきだるま3きょうだいがかわいそう…!』
って言って、毎日雪を集めて雪だるま達に肉付けして余命を繋いでいるんだよ。
274話 雪と立花家 参照
そんな事を思いながら大河を渡り、西エリア。
小幡家の前に青井の自転車があり、今頃小幡さんと甘々な時間なんだろうね?
そして、すぐ香椎邸の前を通り過ぎる。
(去年のチョコ美味しかったなぁ…今年は貰えないっぽいか?)
残念だな、寂しいな、誰か香椎さんからチョコ貰えるんかな?
…なんで?どうして俺は香椎さんからチョコ貰えないかな?
なんて厚かましい事を思った?
フッと湧いた疑問、香椎さんがチョコをくれるなんて親切でしょ?
勝手に期待してがっかりして?なんらしか自分で思いを伝えるなり、アプローチするなりしてないのに?
そもそもカレカノじゃ無いんだからそんなの個人の自由なのに…?
気持ち悪い…俺、気持ち悪い…!
良い娘さんで、俺と関わりがあって親切でくれたチョコを今年ももらえないかな?→寂しいって気持ち悪く無い?
なんか俺、関係性を勘違いしてる、勘違い野郎なんじゃないか?
香椎さんにとってもう学校も違うし義理チョコあげる必要性だって無いんじゃない?
さっきまでのバレンタインチョコ貰った!って高揚感はどこへやら自己嫌悪に包まれ俺は家に着く。
チョコ欲しいならアプローチすれば良い、その上で告白するなり、好意を伝えるなりすれば良い…なのに何もしないで今年はチョコ貰えないか?って俺だっさ!
悶々としながら俺は家に入ったんだ。
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