第298話 バレンタイン編 真打登場!

ガラ!勢いよく社会科教室へ飛び込んで来た紅緒さん。伊勢さんが出て行ってきっかり3分。

やっと生徒会のバレンタイン大会事情聴取から解放されたらしい。

部屋を見渡し、あれ?って顔して、


『…甘酸っぱいラブコメの匂いがする…!』


最近、紅緒さんは空気読めって言われて学習したらしいんだけど、

空気の残り香がわかるようになったらしい。

…なお空気は読めないもよう。



『なるみんは?』


『親友の木多さんとこ行くって。』


『そっか…。ま、承くん居るから良いかな?』


紅緒さんはニコって笑うと、机の向かい側に座りニコニコを継続しながら昼バレンタイン大会、入院時代のバレンタインへの憧れについて語り始める。

…何度聞いても辛かったんだなって思う。


『…それでも、夢が一つ叶ったよ。』


窓際の紅緒さんは満足そうに笑う、指折りながら、

初めてチョコ手作りしたし?

友達とチョコ交換したし?

好きな人にもチョコ渡したし?


ニヨニヨしながら俺を見つめる。

今日も俺をからかうなぁ。


一通り笑いながら話をすると紅緒さんはそろそろ暗くなるから帰ろ!送って!ってワガママを言う。

送るも何も…自転車なら1分じゃない…。


『まあまあ、よいではないか?よいではないか?』


『スケベな代官かよ?』


『逆がいい?私の帯回して?あーれー?ってやりたい?』


『やりたくない。』


どさくさに紛れて手を繋ごうとするとわんこをいなして帰り支度をする。

16:30自転車置き場へ向かう俺ととわんこ。

話題は事情聴取とバレンタイン大会。

盛り上がり大満足!生徒会うるさい!

紅緒さんはぶーぶー言ってる。


『あ!これ望ちゃんとひーちゃんに渡して?義姉さんねえさんからだよ?って。』


『誰が義姉さんだよ…。』


それはそれとして俺は礼を言い、リュックに仕舞う。

チョコ…さっき紅緒さんに貰ったチョコ、伊勢さんから貰ったチョコ、のぞひー宛の二つ、今さらにのぞひー宛追加二つ。

俺のリュックにチョコ6個も入ってる!なんかモテ男っぽくないか?!

…まあ妹弟に4個なんだけどね?



夕暮れから夜になっていく時間、ここからどんどん暗くなっちゃうから寒さも増しちゃう。

冬の寂しさは異常だよね。


人気の無い自転車置き場で、2人で自転車の準備する。

…最近紅緒さんは必ず俺の横に止めるんだよね。

寂しくないでしょ?って言うんだ。自転車同士?



さて、行くか?って横を見るとやっと自転車を取り出しただけの紅緒さん。

非力だからな、出してあげれば良かったかな?

(固定の金具が外れにくい事がある)


俺,完全に油断していたんだ。

昼に紅緒さんにチョコ貰ったし、伊勢さんにさっき貰ったし。

なんならうっすら香椎さんのこと考えてすら居た。

背を向けてリュックをカゴに入れたり、手袋出したり、がさごそ準備。


後ろから紅緒さんが話しかけてくる、



『この間言ったよね?

2月14日またここに来て下さい。

本物の手作りチョコってヤツを見せてやりますよ!って…。』



え?慌てて振り返る。

2月の夕暮れどき、もう薄暗くなってきた。

…しかし、それでもなお紅緒永遠は輝いていた。

周りに光の粒子でも集まってるの?

って位キラッキラで。


輝く艶々の黒髪を風に揺らしながら、整った顔に緊張感を走らせ、頬を紅潮させながら、すっごく優しい目で俺の目を見る。

俺の目から視線は外さず、よく通る声で俺に呼びかける。

両手でそれを大事そうに俺に差し出しながら、



『…承くん。

大好きです、一生懸命に作りました。

チョコ受け取ってください…。』



誰が見てもため息が出ちゃいそうな可憐に恥じらう恋する乙女がそこに居た。

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