第299話 バレンタイン編 あの日の夢【side紅緒永遠】

昼にバレンタイン大会でチョコを承くんに渡す時サラッと渡した。

にっこり笑って手短に渡したけど承くんほっとしてたね。

まあこんなで落ちるほど承くんは甘く無いよね。わかってる。



つくづく玲奈が妬ましい。

私だって余裕があるなら、時間が残ってるなら10年ごしの恋とかしてみたい…。

あの娘はあんなに綺麗で、可愛くて料理がうまくて、スポーツ万能で、頭が良くて、性格がいい。

なんなの?

ぼくが考えたさいこうのかのじょ!みたいな?

詰め込みすぎだって言うの。

…私には何も無い。残り時間すらわからないジャンク品なわけで。

多少美人とは言われるけどそれ以上にデメリットばっかり。

こんな私を選んで貰うには普通の手段じゃダメでしょ。


1回でダメなら?2回にしたらどうかな?

チョコ2回渡すなんて思いもつかないでしょ?


バレンタイン大会で私が本命の承くんに渡さないのは不審でしょ?

みんなにチョコ渡そう!って推奨してるバレンタイン会で一応渡そう?

…でも、油断させておいて、放課後、決める。

もう一回告白しながらチョコを渡しちゃう!


届け!私の想い!




『承くん。

大好きです、一生懸命に作りました。

チョコ受け取ってください…。』



承くんはポカンとした後に真っ赤になっちゃって?

不意打ちは成功、デート権券も同梱したし?

権券ってけんけんみたいで可愛くない?


少し話して今日は用事あるからばいばい。

明日感想教えてね?

デート券…どう使って貰おうかな?


私は家に帰り、ママに帰宅を告げる。


『ママ!ただいま!』


『お帰り永遠。

ちょっとだけ休んでから行く?』


『ううん、すぐに行こう!制服のままの方が良いでしょ?』


ママは頷いて、車を用意してくれた。

車で30分ほど行った、住宅街へ向かうんだ。


ママに車内で今日の出来事を熱く語るよ!ママは笑いながら楽しそうね?って相槌打ってくれる。



目的地に着いた。

私の入院時代の心友、信子ちゃんの家。



信子ママ『いらっしゃい、永遠ちゃん。

…信子も喜ぶわ。

…本当に大人になったね?』


信子ちゃんのママは会うたびに言う。

…信子ちゃんのママは多分私に信子ちゃんを見てる。

もし娘が生きてたら…これ位成長してて…きっとそう思っちゃうよね…

複雑な気持ちもあるかも知れない、でも信子ちゃんを覚えてて訪ねてくる私をいつも歓迎してくれる。


私は、1番最初に作ったバレンタインチョコを仏壇に備えて手を合わせる。


『信子ちゃん…私、初めて好きな男の子にチョコ渡したよ…。』


あの頃、あんなに語り合った日々をいつも夢で見る…。

あの語りあった最悪の日々、その唯一の共有者、その頃確かに居た信子ちゃんを思い出し涙が溢れる…。

なんで信子ちゃんが側に居てくれないんだろう?

心臓の疾患が憎い。

きっと私以上にご両親がそう思ってるよね…。


私はあの頃、恋して、カレカノになってなんて短絡的思考だったけど、

カレカノになるってだけでどれだけ大変なことか…。


私は口には出さず、前に来た時、夏からの承くんとの事を報告する。

年末年始は信子ちゃん家と私の病院関係の都合で来れなかったんだよね。

体育祭頑張って?文化祭でいじわるしちゃって?後夜祭で、社会科教室で告白しちゃって…おうちに遊びにも行った、そこでライバルともカチあった。

…信子ちゃん聞いてよ!相手すんごい高スペックな完璧女子ってあだ名持ちなんだよ?ひどく無い?ハードモードだよ!


ふふ!まあ頑張って勝負してる。

信子ちゃんの分もなんて言えないけど、私は精一杯生きてる。

また、会える時いっぱい土産話あるからその時にはもう時間気にしなくて良いだろうからゆっくり、ゆっくり語り合おうね?



…10分程手を合わせていたのだろう、報告が長くって。

ママと信子ちゃんママは隣の居間で話ししていた。


『仏壇に備えたのは、私が初めて作ったバレンタインチョコです、宜しかったら下げた時にパパさんとお召し上がりください。』


信子ママ『永遠ちゃんありがとう、頂くね?』


信子ママは信子ちゃんが亡くなってから笑顔が儚い。

…うちも私が死ぬとこうなっちゃうんだ。

…やっぱり赤ちゃんを早く産まなくちゃ…パパやママの生きがいを残さなきゃって思うんだ。


信子ちゃんのパパやママの生きがいに私はなれるか?って思うとそれはわからない。でも、信子ちゃんがしたかった事を叶えてあげたい、心友として。

私は、声をかける。



『信子ちゃんといつも病棟で語り合いました、そこでバレンタインチョコの話も出てて…。

きっと信子ちゃんは大好きなパパとママにチョコを贈りたかったって思うんです。』


私はそっと、信子ちゃんママにふたり宛のチョコを手渡す。


『この二つは信子ちゃんになったつもりで作りました。

…パパママ大好きっていつも言ってたから。

敢えて言わせてください。


パパ、ママいつもありがとう♪』


信子ママは声を出さずに泣き崩れた…

悪かったかな?でも、私の中の信子ちゃんなら必ずそうする。


信子ママ『信子…信子…。




…永遠ちゃん、ありがとう、ありがとうね。』


信子ちゃんママは私をギュッと抱きしめて号泣していた。

お墓には行かない、だって絶対そこに信子ちゃんは居ないから。

信子ちゃんの愛犬イギーを抱っこして撫でまわし、信子ちゃんの部屋へ行く。



『信子ちゃんさぁ、ママあんなに寂しそうじゃん。

たまに夢に出てあげなよ。』


何度来てもこの部屋は綺麗で信子ちゃん両親の娘への愛が少しも減っていないこと、娘を失った悲しみが癒えてない事を感じる。


『根性で夢に週3出演すればいいじゃん…。』


信子(私霊感無いから…難しいんだよね?)


私の中の信子ちゃんならきっとそう答えるような空耳がした。


『…出る側に霊感必要なのかな。

…また来る、元気でね?』


信子(…元気…永遠ちゃんは無茶ぶりするよね。)


あはは、私危ない人みたい。

信子ちゃんママにパパさんによろしくって言って自宅に帰る。

帰り道、


ママ『…信子ちゃんが悪いわけじゃ無い。信子ちゃんは頑張ったし、信子ちゃんのせいじゃ無い。

…でも、親に先立つほど親不孝は無いんだよね…。』


本当にそう思うよ。


『そうだね、だから私には策があるよ!』


ママ『どうせよからぬ事でしょ?』


はは!

笑うけど、私は早く赤ちゃんを産む必要がある。

こんなダメなママだけど、いつか必ず私の全てを賭して産んであげる。

だから、ママの、ママの両親や、家族のようなパパや兄貴たちの希望になってね?

私はもう心境は軽くママになっていた。



☆ ☆ ☆

帰るともう18:30、

うちの東光組の従業員さんも仕事を終えて戻って来る時間!

私は声を張る!


『初めて!バレンタインチョコを!作ったよ!』



『『『おおおお?!』』』


あの鼻垂れのとわちゃんが、

厨二病っぽい俺の妹が!

俺らの貰ったチョコ巻き上げていった永遠が!


ひとりひとり手渡し!

パパ!お兄ちゃん!おじさま!兄貴!

みんな私の家族!みんな喜んでくれた!いっぱい作った甲斐があったよ!



パパ『…娘が他の男にチョコ…!こないだの男の子か!

無念…。』


『はい、パパ!いつもありがとう!娘の初手作りチョコだよ!』


パパ『…!

パパ幸せ!』


ママ『ママにもくれるの?ありがとう永遠♪』


ママは嬉しそう、パパは号泣。

もう、大袈裟だな。


☆ ☆ ☆

夜、ベッドに入り今日を思い出す。

ククって喉が鳴る。楽しい1日だったなぁ。


信子ちゃん、私またひとつあの頃の夢叶えたよ?


信子ちゃんにも、友達にも、パパママにも、家族にもチョコを贈った。

そして、好きな男の子にもチョコを渡せた。

…しかも2回(笑)

そんな思い出深い1日だったんだよ!

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