第295話 バレンタイン編 浮つく教室

2月14日月曜日、登校するとそこには異様な光景が広がっていた。


まずソワソワする男女。

正面玄関に入ると異常に男子生徒がシューズボックスを確認している光景。

いや?一回見れば見逃しとか無いと思うよ?

今日がバレンタインデーだからなんだろうね?

うちの中学校は公立で、小学校からそのまま同じメンツだったから、なんか恥ずかしいのか男女交際には消極的で。

例えば青井と小幡さんみたいに卒業後付き合い出したってケースは聞くけど中学時代は噂こそあれ付き合ってます!ってカップルはすっごい少なくて。

でも、高校はこんななのかー。


驚くやら呆れるやら。

こう言うのって大っぴらに義理チョコどうぞ!か、女子が友だち同士送り合う!とか、本命にそっと渡すようなモノじゃない?


普通は、人前で目に付くような場所で渡すわけない。


でも、朝教室に着くと、


津南『俺にチョコくれる娘居ない?』


チャライケメンの津南は取り巻き数人とうるさくする事が目立つ事で陽キャの仕事って思ってるふしがある。

ニコニコしながら女子たちに話しかける。

女子たちは概ね、


『無いわー。』

『津南くんには稲田さん居るでしょ?』

『格好いいだけでモテるわけじゃ無いよ。』


女子辛辣!

その稲田さんは先日生徒会書記になったから?

バレンタインは取り締まる側なんだけど、

今年学校側から馬鹿騒ぎしなければ、過剰な持ち込みしたりおバカな事しなければ黙認ってなったらしい。

それでも、生徒会の一員として稲田さんは走り回っていて今不在。

…今不在だから要求してるのか?


津南『チッ、この学校の女の子見る目無いぜ…。』


青井『ぷっ、格好悪!負け惜しみ!』


津南『…青井くんさぁ…?調子乗って無い?』


津南がイラついている、青井は笑いながら、


青井『だって、チョコ貰えなくて、女の子見る目無いって(笑)

人が言ったらお前バカにすんだろ?』


一触即発!クラスに緊張が走る…!

わいわい賑やかな朝の教室がヤンキー漫画の雰囲気!

青井ダメだって!俺は青井に耳打ちする、



『青井!ステイ!』


青井『とわんこじゃねえよ!』


『いいのか?小幡さんに知れたら…激オコ説教チョコ没収だぞ?』


青井は真顔で津南に、


青井『…チョコ貰えないと辛いよな、津南ごめんな。』


青井はハッキリ謝罪して少し頭を下げた。

こいつちょっと前まで狂犬とか言われてたんだぜ?

今は千佳女王の調教が行き届いて御座敷犬…でもヴァイオレンスよりずっと良いよね。



津南『はあ?はああ?くっそムカつく!

なんだ!その言い方?チョコもらえるわ!くっそ!』


いきりたつ津南を周りが止める、形だけでも謝った青井にケンカふっかけたら悪者になっちゃう!しかも相手青井じゃこの人数じゃ!みたいな事耳打ちしたんだろう、津南は渋々引いた。


何してんだよ…子供以下だよ…うちのひーちゃんだってケンカ良く無いってしっかりわかってるからね?


青井を宥めつつ、もうすぐHRって頃合いに、爆弾娘が飛び込んで来た。


紅緒『おっはよーー!』


いつもより元気五割り増し、ご存知、紅緒永遠(16)


紅緒さんは大きなリュックを持ち込んでて、それが否応なく男子の関心を集めちゃう。


津南『…紅緒さん?そのリュックは?』


紅緒さんは目を細めて、ふふって笑うと、


紅緒『秘密ー!』


人差し指を一本ピンと立てて唇に持ってくる。

成実さんがやりそうな所作。



仙道『…紅緒さんたちのチョコ、めっちゃ美味しかった…。』


仙道が俺にこっそり言う、

まじ?



『なんで仙道が知ってるの?』


仙道『俺も隅におけないってことさ。』


仙道は余裕のある笑みを浮かべる。

まあ大丈夫だろうって思ってたけどたまにある、ラブコメならでわの喰えないクリーチャーを作り出すヒロインでは無いよな、だって料理うまいもん。

カツ丼や卵サンド超美味しかったし。



…それより、香椎さんなんにも言って来なくて…。

今年ひょっとして無しかな?

まぁ香椎さん忙しい人だし?学校違うから仕方ないよね?

催促は出来ない…俺香椎さんの彼氏とかじゃ無いから。

…でも、もし他の人にあげてたら…想像すると胸がきゅーってする…。




前も言ったけど女子はキャッキャ!男子はソワソワ!そんな不思議な雰囲気な教室。

特に紅緒さんはニッコニコで、少女漫画好きな2人と。



紅緒『昨日楽しかったね!アレどうするの?

あげちゃう?あげちゃう?きゃー!』


すっごい楽しそう。

良かったね、紅緒さん。

俺は微笑みながらその様子を見ている。



しかし、こうゆう時に絡んでくるのがあの男な訳で。


津南『ねぇ紅緒さん?

俺に、俺にチョコくれないの?』


ニヤニヤして紅緒さんに声かける。


女子『紅緒さんは立花くんにチョコあげるんだよ!』


津南『ああん?』


気に入らなそうに俺を睨む津南。

ああん?俺も睨む、いい加減にしろよ?

マラソン大会からしばらく大人しかったこいつもまた俺を見る目が冷たい。

また何かあるかも知れない。



しかし、




紅緒『ふふ!まあ津南くんの分も無くは無いよ…。

お昼休みにバレンタイン大会やるよー!』




女子『『『おー!!』』』


男子『なにそれ?』


バレンタイン大会って何?大会形式だっけ?

紅緒さんが側に来て俺にそっと耳打ちする。


紅緒『クラス委員長として最後のイベントかもね?

お昼休み、女子主催のバレンタイン大チョコレート放出会を主催するよ!』


何その地方の展示即売会みたいな名前?

紅緒さんはふふ!って花が綻ぶような笑顔を見せて俺から離れる。

久々にドキッとする。

なんで女の子っていい匂いするんだろう?

だけど今日は紅緒さんの匂いに混じってチョコレートの匂いがするって思った。

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