第293話 バレンタイン前哨戦

紅緒『ねえっ♪みんな!バレンタインデーのチョコうちでみんなで作らない?』


2月11日金曜日、終わりのHR直後、急にとわんこが壇上で宣言した。

その大きな目をキラッキラさせて、頬紅潮させて紅緒わんこは今日も吠える。

14日の月曜日に照準を合わせた合同イベントなんだって。



伊勢『…とわわん…。』

『えー?!』

『…いいかも。』

『とわわん始まったし!』

『でも皆んなで作れるのは心強い…。』


女子たちはビックリ→良いかも…→キャッキャ!

男子たちはなにそれ→もしかして俺に?→ソワソワ!



紅緒さんはニッコニコで皆に頼み込む。


紅緒『わたし!バレンタインイベントした事無いの!

おねがい!うち広いキッチンあるよ!』


紅緒さんのみんな巻き込んでのイベントをクラスメイト達は優しい目で基本見てくれてる。

以前にひとりひとり話ししてるから支持率が半端ない上、紅緒さんはああ見えて庇護欲をそそるらしい。

女子たちはとわわんの頼みなら!しょうがないな。わ、私もお願い!

みたいな一気に盛り上がりムード。

紅緒邸の大広間隣接大キッチンで大規模バレンタインチョコ大作戦の決行が可決された。

女子イベントなんだけど、男子もソワッソワで、見てて恥ずかしいほど浮ついた様子で知らんぷりしながら興味深々!


女子たちもひとりだと心細いから皆んなで楽しみたい、作る口実が…ってそれぞれの思惑がハマったのか続々名乗りをあげる参加者たち。

それを眩しい目で見てる男子って構図。


うーん、青春って感じ。

去年は香椎さんから一応チョコ貰えて?

すっごい美味しくって感動したっけなぁ…。


結局クラスのほとんどの女子が参戦決定。

稲田さん派閥と都合悪い子以外全員参加って大きなイベントになってしまった。


俺にチョコくれそうな人って…?

まあ知ってる範囲だと?


香椎さん料理超上手。


紅緒さん料理上手。


伊勢さん料理普通。


望料理たくさん食べる。

…最近料理少々。


って感じ。

…香椎さんから…学校違うし無理かなぁ?

…でもクリスマスにケーキくれたし?どうかなぁ…?

伊勢さんも去年市販の良いチョコくれたっけ。

…望とひーちゃんに食べられたけど。



そんな事考えてると、

ぎゅ!って腕をつねられる。


紅緒『もう!違う女の子の事考えてるでしょ!

…玲奈?はいはい、玲奈玲奈!』


紅緒さんはやさぐれながらぶつぶつ文句言う。


紅緒『私の初バレンタインだよ?チョコ欲しく無いの?

手作りチョコだよ?こーんな可愛い女子高生が気持ちこめて作るんだよ?』


『ありがたいし、美味しいし、嬉しいけどもさ。

お返しとか気を使う。』


紅緒『あー!夢が無い!

私のチョコ食べたらひっくり返るよ?

どうせ去年?玲奈に?チョコもらって?

産まれて初めてこんな美味しいチョコ食べたー!とか絶賛してたんでしょ?』


(なんで?なんで女の子ってわかるの?さとりなの?)


心を読む妖怪を思い出しながら、心の中で話しかけてみるけど反応ないから本当に推察されているだけらしい。

女の子おっかない!


☆ ☆ ☆


そのまま放課後、いつもの社会科教室でまったりする。

紅緒さんは徒歩3分の自宅のママに話しを通しに行った。青井は部活。

青井はバレンタイン興味無い、小幡さんのチョコだけあれば良い!って小躍りしてた。

伊勢さんが驚いたように言う、


伊勢『…とわわん本当にさっき思いついたんだよ?』


『まじか…。』


伊勢『なまじ行動力あるから思いついたら即実行の女の子なんだよね?』


伊勢さんはそこがあの子の良いところで怖いところって呟く。

伊勢さんは去年市販品くれたけど今年は作るのかな?そんな事をぼんやり考えてると、


伊勢『ん?なに?立花チョコ期待してるのー?

あたしのチョコ欲しいって男子は結構居るよー?』


ふふ!っていたずらっぽく笑う伊勢さん。

まじまじ見ると中学生の頃より大人っぽくなってあの頃も目立ってたけど今はもっと派手な美人になったよね。


『そうだよね、伊勢さんほど美人ギャルからチョコ貰ったら一生忘れられないよね。』


伊勢『た!立花!

立花に去年チョコあげてんじゃん!一生忘れないのー?』


真っ赤になりながら伊勢さんが人の肩をバンバン叩きながら真っ赤になってる。


『そりゃ一生忘れられないよ。

俺モテないから女の子にチョコ貰ったらさ。』


伊勢『!!』


伊勢さんはさらに真っ赤になりながら、さらに強く肩を叩く!!

…痛いって。

落ち着いたのか、


伊勢『でもさ、素人の作るチョコより絶対プロの作ったチョコの方が美味しいし、綺麗で安定感があるっしょ?

…それでも男の子は…ううん、立花は手作りがほしい?』


伊勢さんは恥ずかしそうに乙女全開で聞いてくるよ。

たまにある、破壊力ある可愛い伊勢さんモード。

何かの参考にするんだろね、適当な事言えない!



『うーん、まあそうかもだけど、やっぱり手作りって温かみ?思いが伝わるよね。

それを作ってる間、美味しくなれ!とかその人の事を考えながら作るわけでしょ?

…好きな子がそう思って作ってくれたってもうそれだけで最高じゃ無い?

…そう思う男は絶対多い。』


俺の私見を含みながら伊勢さんに答える。

俺をじっと見て、



伊勢『立花はそう考えてるんだ…

…しょうがないなぁ!今年は手作りに挑戦してみようかな?』


伊勢さんは恥ずかしそうに宣言する。


伊勢『あーしもとわわんバレンタイン作戦に参加するから、せっかくだから、あげる人居ないから、立花に初めての手作りバレンタインチョコ食べさせてあげる!

一生忘れるなー?』


俺は微笑みながら、


『そりゃ忘れないよ、伊勢さんが手作りチョコくれるなら!』


伊勢さんはまた真っ赤になりながら、俺をバンバン叩く!


伊勢『立花は!そういうとこだよ?もー!』


俺はずっと黙ってた隣の仙道に肩をすくめて話しをふる。


『そう言われてもなぁ?』


仙道『嫉妬で人が死ぬなら君は今頃死んでるよ?』


仙道が真面目な顔で俺に言う。

なんでだ?!


『こわ!それなんって漫画?』


仙道『オリジナルだよ、嫉妬shit!』


急に身内に牙を剥かれた気分で呆然としてると伊勢さんが解説してくれた。


伊勢『shitくそと嫉妬をかけてディスられたんだよ?

…仙道にも義理義理チョコあげるから…。』


伊勢さんは可哀想な物を見るように仙道に優しく声をかける。


仙道『…伊勢さん…。』


仙道は感動の面持ちで伊勢さんを熱い瞳で見つめる。

伊勢さんは困ったように、



伊勢『…えーと?ごめなさい?

理由はまったくタイプじゃないから?』


仙道『ひどい!』


なんて、3人で笑い合っていると紅緒さんがやっと戻ってきた。


紅緒『…ラブコメからギャグに舵を切った匂いがする…!』


『何それ?』


紅緒さんはみんなに告知した通り、日曜日の午前10時から予定通り開始を宣言してクラスロインで通達した!


紅緒『キッチン広いし、カセットコンロも何個かあるから!

これでみんなでチョコ作って!乙女のイベント盛り上げよー!』


喜色満面!ニッコニコで紅緒さんははしゃぐ!

…昔のクールさが懐かしくなる事があるよね…?



そして、帰りに自転車置き場まで皆んなで移動して別れ際、

くるって俺の方を見てビシッと宣言した!



紅緒『承くん!2月14日またここに来て下さい。

本物の手作りチョコってヤツを見せてやりますよ!』


ドヤ顔でとわんこは言い切った。

俺は苦笑して、



『俺にくれるの?』


俺も男だからバレンタインチョコ貰えるって聞いてときめいちゃうんだよね…。

それより何より、紅緒永遠がクラス女子と一緒に昔の空白期間を埋めるようにバレンタインを夢中でみんなと楽しんでる光景が俺は嬉しかった。

紅緒さんのまた楽しい思い出が加われば良いって心から思うんだ。



☆ ☆ ☆

誤算  side紅緒永遠


その夜、私はなるみんに電話する。



『…それでね?ああ言っちゃったけど私チョコ作った事が無いの。』


なるみん『えー?!大丈夫なん?』


『だから?今回はなるみんが頼り!』


私は電話で伝わらないけど頭を下げる!

女子力高いなるみんに指導仰ぐしか無いよ!

いくら昨今インターネットが普及して何でも調べられる時代でも料理や製菓は経験がモノを言う世界。

乙女の勝負所でしょ?勝算無いままできないよ!

しかし、なるみんが思いもよらぬ事を言う。



なるみん『…とわわん?あーしもチョコは作った事無いんですけど…?』


『え?え?おからクッキーとか?前にお泊まり行った時出てきたチョコクッキーは?』


なるみん『クッキーは昔、小学生頃の友達が得意で一緒に作った事あったから…まさかノープラン?』

※香椎さんの事です。


『…。』


なるみん『やばくない?今から出来る?!

小学生とかならまだしも高校生になって目も当てられないチョコなんて渡したら…。』


珍しくなるみんがビビってる…バレンタインをナメてた…。

いや、この情報化社会だよ?しっかり下調べして?明日から試作して明後日みんなと作って、翌日月曜日!必ず仕上げるよ!見た目も味も!



なるみん『えー?大丈夫?

そんな見た目も味も仕上がったチョコできるかな?』




『出来らあっ!』



…私調子に乗ってんだよね…。


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