第290話 もしヒーローだったら

保利『…立花くん、僕さ、来年高校受験しようと思うんだ。』


休日の夕方に俺カレバイト中、保利くんが口にした言葉。

俺は夕方から夜、保利くんはランチから夕方シフト。

俺はビックリ!え?まじ?!


『そうなんだ!良いね、良いと思うよ!』


確か…中学2年頃から不登校だったはず?

大丈夫かな?でも、自分で決めたことだし?

よく決断したな…。

頭の中で色々考えちゃう、それが顔に出たんだろう。


保利『やっぱ無理だと思う?』


『いや!そんなこと無いよ!でも大丈夫かなぁって。』


保利くんは恥ずかしそうに笑って、


保利『そうだよね、心配…。

でも、今頑張らなきゃまたあの生活に逆戻りだしね。』


保利くんは結構お母さんに甘やかされて引きこもりだけど何不自由無く暮らしてて。

何にも思わなかったらしいんだけど、

今は自転車で通勤しててね、通勤の道の四季や景色が愛おしいんだって。

疲れて帰る途中のコンビニの揚げ物とか飲み物超美味い!

賄い美味しい!

なにより家族が喜んでくれるって呟いた。


俺はそれを見て胸がいっぱい。

保利くんを誘って良かった、保利くんが引き受けてくれて良かった。


『そっかあ…。すごいね保利くん。』


保利『いや、誘ってくれた立花くんのおかげ。』


『何処の高校受けるの?』


保利『…東光…東光高校行きたいんだ。』


『良い!それ良いじゃん!1番近いし?そこまで偏差値高くないし!

え?!来年来るの?!』


俺盛り上がっちゃう!

でも、保利くんは顔を翳らせて、



『はは、流石に…もう時期が遅いのと、勉強取り返さなきゃだから…。』


そっか、受験勉強しなきゃいけないし、願書の締切あったか。

もう2月だもんな…って言うか勉強か。


『俺助けてやれれば良かったなぁ。』


保利『…いや、もう立花くんに助けて貰ったし。

あのままなら僕一生引きこもりニートだったからねー。』



保利くんは来週から家庭教師が付くらしい。

そっか、東光に…俺が先のことを考えてたらバイト始めると同時に東光進学を勧めたのにな。

でも、もし来年受験して受かれば一年は同じ高校に通えるわけで。

…いや何でも出来るわけ無い。


保利くん、上手くいくといいなぁ。


そして,明日、日曜に宏介がまた俺カレに来るってロインが入ってた。

宏介も俺カレにハマってるな?


☆ ☆ ☆

その日の夜。


厚樹『承!バスケしようぜ!』


俺のバイト終わりを待ちかねたように、あっちゃんが来た。

景虎さんと大学生2人と一緒にいつもの国道下のバスケコートで全力バスケ!

青井も途中で来て、ハイテンション!


青井『おっしょ!』


青井がゴール下で押し合い、あっちゃんがフリーになった瞬間シュートを決める!


厚樹『ほっ!』


あっちゃんに引きつけられた相手を嘲笑うように俺から青井にボールが渡りゴール!


一応俺が司令塔なんだけど…この2人の身体能力ほんっとすごい。

俺も成長期かつ、走り込みやバスケで結構動ける方なんだけど全然違う。

わかってても止められないタイプなんだよね。

青井は柔道部で頭角表してるけどあっちゃんはこんな場所じゃない、本当に部活入って本格的にやったらどうかな?


厚樹『…今は興味無いな…ブランク長すぎで今さら…。』


保利くんの事もあって熱くなっちゃう。


『今さらとか無いだろ?いつでも遅すぎるなんて無いんだよ。』


厚樹『…お前そうゆう言葉好きな。』


あっちゃんは呆れたように言う。

でもさ?



『前のあっちゃんが言いそうな事でしょ。』


厚樹『…前の俺…。

前の俺ってどんなだったんだろうな?

今の俺はダメなのかな?』


『前も言ったでしょ?

人は変わるとこが良いし、変わらないとこも良い。』


宏介がよく言うこと。

あっちゃんは笑いながら、


厚樹『何でも良いんじゃん!』


青井『何でも良いんだよ!』

『何でも良いんだよ!』


青井も同意する。



景虎『それで良いんよ。今は。』


景虎さんが言ってるし、今はこれで良いんだろ?


景虎『でも厚樹?お前の前髪はダメだ。

今度うちの店来い、俺の奥さんに切ってもらえ。』


俺も!俺も奥さんに切って貰ってから今の髪型なんだよ!


厚樹『…まぁそのうち』


あっちゃんは目立ちたく無いから前髪伸ばして野暮ったいボサボサ頭で居る。

本当はオシャレで爽やかでめっちゃ格好いい男だったんだから勿体無い。


青井『変わるのも良いし、変わらないのも良いよな…うん、まじで。』


青井はなんか最近悟ったような事を言う。

やけに知的で情緒を感じさせる言葉を混好んで使いたがるしなんか心境の変化があったか?小幡さんの影響か?


青井『立花、男ってなんだろうな?

…俺はそれがわかりかけてる気がする…!』


動画で録画した。いつか冷静になったら見せてやろう。

昔俺が受けた辱めをちょっと体感して欲しい。


でもさ、男って何だろう?

俺がもっとヒーローみたいな男だったら保利くんの不登校をもっと早く解決したり、あっちゃんが辛かった時側に居てフォローしたり、

…玲奈さんに相応しい漢になれたかな?


欲張っても仕方ないって頭ではわかってる。

でも…って気持ちもある。


いつか外町に言われた、


外町『ヒーロー願望なんて、自己肯定感の低い奴がなるもんだから。』


そうかもしれない。

でもそうなりたいのも本当の気持ちで。


今の現状は、

ゴールが何処にあるのさえも分からないまま走る日々!


…青井に影響されたのかも知れないね?

景虎さんに笑われながら俺と青井とあっちゃんは飽きずにじゃれあっていたんだ。

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