第280話 はじめての修羅場

空気がビリビリしている…。

もうじき2月になろうとする冬のこの時期。

色々放置してたとわんこがグレそうになっていた為、紅緒さんの二度目の訪問を許してしまった俺。


前回同様、駅までひーちゃんと迎えに行く。

…それがこのザマです。



玲奈『…。』

紅緒『…。』


新光駅改札口に相対するふたり。

どちらも通行人が振り返るほどのずば抜けた美少女っぷり。


月と花


そんな言葉が思い浮かぶほど華やかで、風情が合って魅力的なふたりはただ立っているだけで絵になる、絵になるのだが…。



(こっわ!何これ?!)



やっと香椎さんが口を開く、


玲奈『…こんにちわ?』


紅緒『…こんにちわ。』


…また黙る…。

止めてください…沈黙は怖いです。

俺が、どちらにも親しい俺がなんとかしなくちゃ…。

香椎さんに紅緒さんを紅緒さんに香椎さんを紹介する。


『今日ね、紅緒さんはうちに遊びにね?来るんだよ?』


ひーちゃんが呼んだとは何故か言えなかった、ひーちゃんもプルプル震えているし。


香椎さんは目をスッと細めて、


玲奈『遊びに…ね?』


『はい。』


玲奈『何して遊ぶのかな?』


『はい、あの…』


俺は敬語で話をしてしまう、何して遊びのって問いに答えかけたその時、


紅緒『男の子と女の子が遊ぶ事を詳しく聞くなんて野暮じゃ無い?』



紅緒さんがふふって笑いながら言う、え?って顔する香椎さん。



玲奈『そうかな?承くん家は小さい子も居るし不健全な遊びは…、』


紅緒『不健全な遊び!えー?不健全な遊びするって思ってるのー?!』


玲奈『ま、ま、まさか?しないよね?』


俺に確認する香椎さん。

もちろん!もちろん不健全な遊びなんてしない!しないよー!

クコクコ頷く、コクコクじゃ無いクコクコだった。

俺の首ってこんなに滑らかに動くんだ?!


ホッとする香椎さんに、追い討ちかける紅緒さん。


紅緒『私は求められたら、不健全な遊びに応じるよ!むしろ推奨!』


玲奈『は?さっき不健全な遊びはしないって?』


紅緒『私はいつでも?承くんに求められたら?準備出来てるもーん!』


紅緒さんはイタズラっぽい笑顔でこっちに流し目をおくる。

やめて!不穏な空気しかない!


ぐぬぬぬぬ!って香椎さんとうふふふ!って紅緒さん。

両者の初邂逅は意外な事に紅緒さんペースで進んでいく…。

正直意外だった。香椎さんがペース握らない事は多々ある、でも振り回されるのは滅多に見ない。



紅緒『じゃ、承くんひーちゃん行こうか?

香椎さんじゃあね?』


前回と同じ!手つなご?

紅緒さんはニコニコ言う。

ひーちゃんは紅緒さんの手を取る、香椎さんをチラッと見て、


ひー『…ててつなぐとあんぜんだよ。』


ひーちゃんは手を繋ぐ方が安全だからと香椎さんに説明した。

ひーちゃんは俺とも手を繋ごうとする。

前回はそうして家へ歩いて向かったからね…。

267話 立花家訪問記 参照。


3人で手を繋いで帰るの見られるのはまずい…まずい気がする。

紅緒さんの手には荷物、リュックもある…。

電車なら良いけど荷物持って歩くのは紅緒さんの心臓的には良くない、

いや、断じて良くないよ!



紅緒『?

あっ、ありがと♪承くん♪』


自然な態度で俺は前回同様紅緒さんのリュックと荷物を両手に持って行こうか?って促す。


玲奈『…ふーん、荷物持ってあげるんだぁ。

…紳士だね?女の子の荷物持ってあげるんだ…知らなかったな…。』


ひいっ!威圧感が増した?!


ひー『にいちゃ、てをつながないの?』


自分だけ紅緒さんと手を繋ぐ事に不安を感じる弟。

ひー、兄ちゃんは香椎さんが好きなの。

でも、家に呼んだ手前香椎さんに寄る事も出来ないの。

ここは中立を保たないといけない。

紅緒さんを軽んじる事も、香椎さんにだけ良い顔することも出来ぬ。

バランス!ここバランス大事!目に込める。

ひーはうすく頷く。届け兄の思い!



ひー『おうた!うたいたい!

とわちゃん!かしちゃん!おうたをうたおうよ!』


ひーちゃんナイスパス!

俺の意図を正しく理解して、新しい提案!

家に移動しつつ会話しないけど、楽しくすごせるチョイス!


『何歌う?楽しい気分になる明るい歌が良いね?』


ワンツーでパスを出し手のひーちゃんに戻す!

この緊迫感をどうにかしたい!俺の願望も込めてひーの足元に収まるパス!



ひー『なにがいいかな?パプ⚪︎カはどうかな?』


ひーちゃんがサイドに駆け込む俺にスルーパス!

これで良いと思うんだけど?にいちゃん?って確認を込めたスルーパス!

それで良い!


『良いね?ひーちゃん上手く歌えるもんな?』


俺はそれをセンタリングあげる!ひーちゃん決めろ!

歌い始めちゃえば数分は歌に意識が行くでしょ?

その間に香椎さんに軽く説明しちゃう?香椎さんも一緒に歌う?


香椎さんはニコニコしながら紅緒さんに向かって言った。

※目は笑っていません。


玲奈『こないだのお遊戯運動会で皆んなで一緒にひーちゃんのパプリ⚪︎のお遊戯見たもんね?

あの日は楽しかったな?立花家の皆さんにお弁当も食べて頂いたし?承くんと二人三脚もしたし?』

※220ー226話 のお遊戯会編を参照。


俺のセンタリングを香椎さんはポジショニングの良さで弾き返して、そこから速攻でカウンター!

ふふー!って香椎さんの得意気な顔に引き攣る紅緒さん。


紅緒『…私がラーメンデート断られたやつだ…。ににんさんきゃく?』


玲奈『え?そうなの?あの日?』


香椎さんはニコって笑って、


玲奈『その日?

お祖父様に『お嫁さんにならないかな?』とか言われちゃって?

キャッ♪』


香椎さんが両手で頬を抑えて身を捩る…。

可愛い…でも…紅緒さん…?

紅緒さんは目を爛々り光らせてる!目力抑えて?


カウンターからの速攻でぐんぐんゴールへ近づける香椎さん。

ダメだ!失点する!

ってタイミングで?


紅緒『…私も!私もお祖母様に、

『承くんのお嫁さんになってくれたら良いねえ。』

って言われたもーん!』

※前回訪問時


香椎『なっ?!』


紅緒さんのインターセプト!

ドヤ顔紅緒さんと笑みを絶やさない香椎さんの間はバチバチしてる。

俺もう無理…このふたりを絶対制御出来ない…。



『あるこー!あるこー!』


俺は歌い出す♪


ひー『トトトローだ!わたしはげんきー♪』


ひーちゃんが合わせる!


俺のペースでやらせてもらおう?

無理だ、絶対に無理。

ひーちゃんと手を繋いで、荷物全部持って、香椎さんの荷物も持って!

歩き出せ!


俺の中の慶次が、


慶次『これより我ら修羅に入る!

仏に会えば仏を斬り!!

鬼に会えば鬼を斬る!!』


慶次…花の慶次は漢のバイブルだよね…。


じぶり作品のテーマを歌いつつ、俺の頭の中には、あの体育祭でも歌った慶次の歌がガンガン鳴ってる!


迷わず進め!

威風堂々!

死ぬと思わば勝利が微笑み

生きんとすれば必ず敗北

恐れまいぞ 惑うまいぞ

我に続け漢よ!



『香椎さんも来る?いや、遊びに来てよ?』


俺はニッコリ笑って、香椎さんも誘っちゃう!

いいよ!全部丸呑みだ!

俺の器が飲み込むか、粉砕されるか勝負!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る