第277話 暗黒期【side厚樹】

拒絶する言葉に耳を貸さない承に苛立ち、俺はキレる。

でも承はもっとキレ散らかして俺に言葉をぶつける。



…ほら、お前は変わった。

きっと良い風に変わったんだろう?

俺の事なんて放っておけよ。

それでも腹がたち言い返す!



『俺だって!色々あったんだよ!

承みたいに幸せに暮らしてねえよ!』


『じゃあ、話してみろよ!』


承は幸せそうだ、家族仲良いし。

聴いてる中学時代も色々あったけど充実した日々だったんだろう。

それが俺は羨ましく、妬ましい。

そんな自分が嫌いだ。いや大嫌いだ。



☆ ☆ ☆


小6の年末も迫る終業式の日、俺は産まれた町を後にした。

8話 後ろから隣へ 参照



すっげえ遠くへ行く訳じゃない。

まだ小学生だけど、中学生、高校生、大人になっていけばいつでも会える。


その頃俺は無邪気にそんな事を考えていた。

まだわかって無かった。

場所が変われば人が変わる。

今まではそれで

良かったこともダメになる事。

俺はそれを痛感する。



引越し先はターミナル駅から一駅の結構街の方だった。

引越しの理由は両親の離婚。

あんなに仲が良かった両親が2年前からどんどん険悪になっていくのは辛かった。

だから、ふたりが離れるのは辛かったけど、子供心に仕方の無い事なんだって納得してた。


ただ…




『なんで姉ちゃんは一緒じゃ無いん?』


母さんは無表情に言った。


『厚樹…厚樹はもう中学生になるからわかってくれるよね…?

お姉ちゃんはね、お母さんの子どもじゃ無いの…。』


衝撃だった。

父さんはバツイチで姉ちゃんは父さんの連れ子?連れ子って言葉は初めて聞いたような感覚がした。

でも母さんは姉ちゃんを俺と区別せず可愛がってて…疑いもしなかった。


父さんは前の奥さんと離婚して姉ちゃんを育てて、その頃母さんは父さんと知り合い、結婚して、俺が産まれて…。


『だから、厚樹とお姉ちゃんは半分血が繋がってるの。』


半分?半分ってなんだ?

俺と姉ちゃんは仲良しで…。

姉ちゃんと…いや家族を疑った事無かった俺はショックだった。

両親の離婚、出生の経緯…特に姉ちゃんとは血が半分しか繋がって無いってことはショックだった。



母さんとマンションに引越し、俺は新しい小学校へ転校した。


『新川小から来ました、東条厚樹です!

よろしく!』


東条って苗字は母さんの旧姓なんだって。

慣れない…。


違う学校で新しい生活が始まる。

場所や人が違うだけで何にも変わらない。

そう思っていた。



小6の3学期ってさ、もう人間関係完成してるんだよ。

もちろん俺に興味もってくれる奴も居る。

逆に転校生が気に入らないって奴も居る。



女子『ねえ、東条くん?一緒に帰ろう?』


男子『おい?東条って言ったか?放課後遊んでやるから来いよ?』


ほぼ同時に放課後お誘い。

面白いじゃんって男子を先に優先して?その後に女子と一緒に下校した。

…どっちもつまらなかった。




3人に囲まれたけど、簡単に突破できたし、

女子はただ俺の見てくれで声かけただけ。


なんだ、つまんないなぁって思った。

新川小なら承や宏介が居て、みんな仲間で…。

サッカー部だって承や外町たちと…。

運動会とかは完くんや青井たちと競って…。

女子だって香椎さんとか小幡さんとか一条さんとか可愛い子たくさん居たし。

思い出すのは新川小のことばかり。

あいつらどうしてるかな?


連絡しようかな?


それから二、三日男子から手荒い歓迎。女子からは妙にモテる日々。


こいつらつまんね。

そう思ってた俺は男子の手荒い歓迎には手荒く応戦して、

つまらない女子の誘いも全部断ることにした。


すると、



男子からは、

『田舎から来た癖に態度でかい!』

『あいつ、調子乗ってる!』

『俺の好きな子が!僕が先に好きだったのに!』


女子からは、

『顔が良いからって転校生何様のつもり?』

『女の子にそんな事を言うなんて!』

『つまらないってどうゆう事!』



俺、自分で言うのもアレなんだけど人気者だったんよ。

でもさ、ここではよそ者で、田舎者で嫌われ者。

俺だって上等!どうせ中学校行くまでの繋ぎ!って割り切ってた。


なんの感慨も無い卒業式を迎えて俺は中学生になる。

友達は居ないし、変な女の子は顔だけで俺に声をかけてくる。


同じ女子でも、香椎さんや小幡さん辺りはクラスの事を考えてていじめや不公平を是正して?運営してたけどこの辺の女子は違うんかな?


そんでさ、俺結構目立つんだよ。

中学に入っても絡まれる。小6の頃と違い上級生も居るから激しく荒れた日々。

なんかそうゆう荒れた公立だったみたいなんだけど俺もイラついていたからヤンキー漫画みたいな日々をおくっていたんだ。


絶対母さんにバレないように、顔とかは絶対怪我しないように気をつけていたんだ。


ある日、鏡を見て思う。

(新川の頃は誰とでも友達になれたし、ケンカしてもすぐ仲直り出来たのにな。)


俺変わっちゃったのかも知れない。




2年になった頃、

男子はなんか金持ちの息子みたいな奴が幅を利かせて?

俺が転入した小学校に馴染んで無かったとか同じ小学校から上がった奴から聞いたんだろうな。




金持ち息子『おい、お前田舎者で片親の貧乏らしいじゃん?家来にしてやろうか?』


『俺は高いぞ?』


金持ち息子『は?金で買えるんだ?だっさい私服らしいじゃん?』


金持ち息子は笑いながら買ってやるよ?って嘲った。


うちはさ、母さんがめっちゃ働いて働いて俺を養ってた。

離婚後母さんはダブルワークで一生懸命働いている。


俺は本来オシャレ好きで、ゲームや漫画大好きなどら息子だったけど母さんのそんな姿見てそんな事は言えないって思ってた。


だから多少みすぼらしいかも知れん。

でも、人に言われるのは腹が立つ。


1、2、3、4人か…。


俺は全員ボコった。

特に金持ちの息子は念入りにボッコボコにした。


金持ち息子『おれは…ピッグ…。』


『…ピッグってなに?』


俺は当時おばかだった…。


これが大問題になった。

金持ち息子の父親が弁護士連れて損害賠償を求めて家に来た。

母さんはぺこぺこ頭を下げながら穏便に…って哀願してた。


金持ち親子が帰ったあと、俺は何度も母さんに打たれた。

痛く無かった。心に比べれば。



『私じゃ育てられないの?私が至らないからこんなになっちゃったの?』


母さんはダブルワークで必死に働いてくれてた。

俺は…迷惑をかけてしまった。


父さんからは離婚の際、財産分与?って言うお金と、俺の養育費?ってお金を払うから、苦労はさせないって言ってた。

母さんはこのお金に手を付けるって事はひとりじゃ厚樹を育てていけないって認めるようなもの!って頑として父さんのお金に手を付けなかった。



母『厚樹が…厚樹が…!』


日に日に父さんに似てくる俺を母さんは辛そうにみつめる…。

自分で言っちゃうけど、イケメンで、陽気で、友達多くて、マンガ、ゲーム大好きでスポーツ万能で喧嘩っ早い。どれも父さんと同じ特徴で…。





なんでこんなに息苦しいんだろう?

新川に帰りたい…。

…でもそれを言ったら、母さんはきっと壊れてしまう。

俺はずっと未練だった、承の、宏介の、小石の、みんなの連絡先メモを破り捨てた。

涙が出た…。



それから、俺は周りから避けられた。

避けられたし、俺も避けた。

トラブルを起こしたくないって気持ちと相手から先に殴ってくれたら正当防衛でボコれるのになぁ…なんて考えていた。



金持ち息子『…おい、東条…懲りたか?』


『俺さ、貧乏だっけ?失うもん無いんだわ…。

またヤルか?人数揃えてこいよ?』


俺が薄く笑うと、


金持ち息子『…お前頭おかしいよ!

絶対ハブってやるから!』



むしろ好都合で。

悪い噂流されて、俺はそれからずっとひとり。

母さんが心配するから寄り道しないでここに帰って来るし。

友達も要らないし、夢なんて無い。


だっけ?承、お前とも会う必要無い。


わかった?

☆ ☆ ☆


承は言った。


承『わかった。

あっちゃんの気持ちはあっちゃんにしかわからないって事だけは…。』


承はポロポロ涙を流してた。

高校生にもなって…笑おうとしたけど上手く笑えなかった。



『だっけ、帰れ?もう顔出さなくって良いから…。』


承にもきっと俺が変わった事、ケンカばっかして荒れてた事、もうあの頃の俺じゃない事わかってくれたんだと思う。

もう、世界が違う。これからは一緒に過ごす必要なんてない。

寂しいようなホッとしたような不思議な気持ちで俺は承を部屋から送り出す。

じゃあな、それだけ声をかける。



承は頷いて、


承『また来る。』


こいつ!わかってねぇ!

念を押しとかなきゃこいつわかんない!


『いいか?絶対来るなよ?絶対だぞ?』


承はニコニコ笑いながら言った、



承『わかってるって!絶対!絶対来るなよ?って事は?』


承は何故かずっとニコニコして居た。

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