第275話 dreamer on the road

新学期、とは言えもうこのクラスも長いので特別大した事は無い。

それぞれ、二年生になる準備をしていくだけ。

3学期は特別大きなイベントは無くって、2月に社会見学で、県内の大企業を見学させてもらう遠足みたいなものとか球技大会位しかない。



強いて問題があるとすれば…目の前のこの紙位で…。

隣の席の仙道が、その進路調査の用紙をヒラヒラさせて俺に言う、


仙道『立花は進路どうすんの。』


『…うん、俺さ、進学しようと思ってるんだよね…。』


仙道『おお、俺も。頭良く無いから?大したとこ行けないけど…。理系?』


うん、まあ俺も。

東光高校ではやや上位程度。

東光高校自体が偏差値で言うと49程度で、普通の高校。


だから2年時のクラス分けも、進学専門学校、就職の3カテゴリー。

選択科目で数英現国などから選ぶ感じ。


昼休み、いつもの面々でご飯を食べる時もその話し。


『って言うわけなんだ。…俺数学、英語苦手だから…進学で文系に行く感じにしようと思って。』


青井『…選択教科が変わるじゃん?

俺も数学,英語を減らしたら進学で文系になったw』


そうゆう決め方あり?でも、多分進学しないで専門学校か就職かな?って青井はつぶやいた。

でも何か考えている表情。

この辺東光はよく言えば寛容で悪く言えば適当で、2年進学→3年就職とか全然オッケーらしい。

大体進路は大学進学、専門学校、就職が3割ずつ位の普通の公立高校だからね。


伊勢『とわわんは?』


紅緒『私は今進学で文系に決めた!』


俺カレから10分の所に県立の大学がある。

そこなんてどうかな?

とわんこはまた「近いから」って流川みたいな理由で大学を決めようとしている。


紅緒『なるみんは?』


伊勢さんは少し考えて、



伊勢『あーしね?

初めて言うけど…服飾の世界へ進もうと考えている。

服への憧れで服屋さんでバイト初めて、「それ」が形になった。

作る側か、売る側か、その間かはわかんないけど、私は服に携わって行きたいんだ。』


静まりかえる昼休みの社会科教室。

いつも陽気で面倒見の良いギャル伊勢成実はこの日初めて自分の夢を宣言した。


中2から近くに居た俺はすごく驚き、そしてなんか胸がいっぱいになった。


そうゆう女子だった。服に並々ならぬ執着を持ち、おしゃれで体育祭の衣装など大喜びで作成してた。

何でも気づいて、スタイルも良い目立つ女の子だったが高校生になってからは服屋さんでバイト始めたし、文化祭時も衣装のチェックで校内回ってたっけ。


一緒に過ごしてきた友が夢を見つけた。

なんて素敵な事だろう。


それに引き換え…俺はまだ何も見つからない。

見つからないから大学進学…それが悪い訳じゃないが…なんとも志無い選択だって思う。


青井『…俺も、実はまだ確定じゃ無いんだけど…消防士になりたいって考えてるんだ…。』



えええ?!さっき苦手教科を減らす為進学文系って言ってたでしょ?!


青井『俺さ、柔道部だろ?

顧問の先生の知り合いが警察と消防に居てさ?出稽古たまに行くんさ。』



青井は消防士のおじさまたちに柔道部の出稽古でお世話になってるんだけど気質やフィジカルを見込まれて、誘われたらしい。


青井『大変な仕事だけどさ、子供の頃から消防士格好良いなって思ってたし、俺勉強はダメだけど運動能力は自信がある。

これ生かせる仕事って考えたらすっげえイイって思ってて。。』



俺はショックだった。

毎日一緒にバカ言いながら登校するふたりが、自分ひとりで夢を見つけてそれに向かい歩き始めている事に。

バイトして勉強を真面目にすることで大人になった気でいたんじゃ無いか?

俺は子供だ。

事あるごとににそれを痛感させられる。



ふたりが自分の道を見つけた事、夢を持つ事それは我が事のように嬉しくて、誇らしい!

宏介も学年上位をキープして特殊な進学クラスへ入り、県内最難関の国立の県大に行く事を目的に掲げている。


…それに比べて俺は…釣り合うために大学進学とか…。

あの娘は俺が行ける大学なんて目じゃ無い大学へ進学するだろう。

…俺は。。



紅緒『…!…承くん!そろそろ戻ろうよ?』


昼休みが終わる。

俺は嬉しさと寂しさを抱えて午後の授業を受けたんだ。




放課後。


『って訳なんだよ?

俺なんか置いてけぼり食らった気分でさぁ。』


俺は最近恒例のあっちゃんに会いに行く。

また来たんか…。あっちゃんは呆れたように、


厚樹『最近お前気安くなったな?』


だってさ、結局俺とあっちゃんでしょ?

なんかクールで陰気にはなったけどあっちゃんなんだしさ。


厚樹『なんでお前やさぐれてんの?』


『なんかみんな夢があってキラキラしてる…俺も見つけたいけど…でもなかなか見つからない。

もどかしい…。』


あっちゃんはぼやく俺をジト目で見ると言った、



厚樹『お前さぁ。

…まぁ良いわ。だったらさぁ俺ん家来る?』


『え?良いの?!』




あっちゃんがデレた!!






☆ ☆ ☆

進路志望票   side香椎玲奈


『香椎さーん、進路志望票お願い!』

『私も!』


クラス委員長の私はクラスの進路票を集めて担任に提出する準備を整える。


天月高校は県内随一の進学校。私立のエリート校で進路志望も華やかな聞いた事ある大学ばかり。

お姉ちゃん特に希望が無かったので家から通える県内では最高学府たる県の名前を冠した国立大学へ危なげなく進学した。

私はここまで、路線としてはお姉ちゃんと同じ高校へ進学し、事前に校風やら傾向を知ってる状態でここまで来た。

この進路志望票には初めて、姉の後を着いて行かずに自分で決めた進路を記入する。

弁護士になる、その為に…。

挑戦するなら1番難しい所が良い。




私は進路志望票には、





第一志望 『お嫁さん』


って記入した。

自分で書いて真っ赤になった。

いやいや、違うでしょ!


子供の頃、将来の夢にお嫁さんって書く女の子を私は少し軽く見ていた。

(お嫁さんにはなれるでしょ?身分不相応な男の子を選ばなきゃ。

そうじゃないよ、何になりたいかでしょ?)


子供の頃の私はそんな事を思ってた。

私は高望みしなければ?楽勝!って思ってた。

道のなんて険しい事か…。お嫁さんって書いた娘正しいよ、ごめんね。


苦笑いしながら私は薄く書いたお嫁さんって文字を消して、


「東京大学 法学部」


って記入した。

私は欲張りなんだ。

テニスもしたいし、弁護士にもなりたいし、お嫁さんにもなりたい。

なるならどれも最高を目指したい!

どれか妥協する日が来るかも知れない。


大きめなカーディガンを羽織り、隠れた首元にはシルバーのネックレス。

これだけで私の武装は万全!



今日も梅田くんや竹田先輩をあしらいつつ書類を提出して部活へ向かう。

梅澤くんだっけ?久しぶりすぎて名前うろ覚えだよw



優先順位は決まってる。

私の挑戦が始まるよ。





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