第260話 漢は体力

そんなマラソン大会当日、今日は放課後香椎さんと公園でお話し会もあるイベント日。

発走を前に一年男子勢揃いの校門前、

青井と津南、山目くんはヒートアップしてる。


山目『よく逃げずに来たな!』


青井『津南!立花舐めんなよ?』


津南『立花?聞いてんの?』


聞いてる、聞いてるだけだけど。

香椎さんに格好悪い報告したく無いな。


永遠『承くん!私の為に無理しないでね?でも頑張って♪』


とわんこは救護班。出場できないし、体育もいつも見学だからこうゆうイベント時は積極的にサポートをしている。これで貴重なポイントを稼いでいるのだ。



俺…香椎さんだったからあんなに必死だったんだ。

つくづく自分の気質を痛感する。

香椎さんが賭かってたら俺多分死ぬほど激走するもん。

走り始めれば全力で走るけど、あれほどの熱は出てこない。



まあ、パシリは嫌だし負けたくない。

頑張って津南、山目くんに勝とう。

長距離だけは青井はアテにならない…。



目の前で青井、津南、山目くんの醜い言い争いを他人事のように見つめる。



津南『男は顔だね!』

青井『男は腕力だろ?』

山目『男は存在感!ねぇ聞いて?』


山目くんが不憫…。


アナウンスでスタート位置に着くように言われる。


青井が隣で身体をほぐす。

津南派閥のチャラい陽キャが俺たちを囲む…。


あ!これ進⚪︎ゼミでやったヤツ!



よーい!バン!!!


スタートの合図と共に横から足を引っ掛けようと伸ばされる足。

…去年まったく同じ手を食らったんだよね…。

聖闘⚪︎セイントに同じ技は2回通用しない…!って父さんが言ってた。

セイントとは?



津南『ちっ!使えねえ!』


舌打ちする津南。


山目『待てや!立花!』


青井『津南!お前の相手は俺だあ!』


うん、津南と俺、青井と山目くんって構図になった。

山目くんも青井もパワー瞬発系で持久力に難があるタイプで、ガタイの良い2人はどんどん下がっていった…。




始まってしまえば雑念は消えて、長距離走独特に辛さと爽快感がある。

やや涼しくなった11月、刈り取られた田園の真ん中をまっすぐ走る。

風も風景も爽やか…隣のヤツさえ居なければ…。



津南『立花あ!無視すんな!』


津南は遅く無い、でも俺を妨害する為に必死にぶつかってきたり、足をかけようとしてきたり、走ってて肘打ちしようとしてくるんだよ?

レトロゲームの大運動会でしか見た事ないよ?走ってる最中に肘打ちなんて?


でも、なまじギリギリ俺が追いつけそうなペースで走ってたら、津南必死に追走してくる。

(津南そんなスタミナ無いな?)


走り始めてすぐわかった。

部活も結構休むって聞いたけど本当なんだろうな?

バスケってスタミナ勝負なところあるもん。



去年は完くんと勝負で先行ってより逃げ切りを図ったけど、今回は一回しか走った事ない12kmだから抑えめペースか先行するか迷ったんだけど…津南がギリギリ追いつけるペースで付き合ってやる事にした。


でも、8km地点で津南の顔色がおかしな事になってきたからさ?

棄権を勧めた。抵抗してたけど、俺がまだ余裕があるのを感じたらしく不貞腐れて、


津南『辞めた。こんな勝負意味ねえわ!』


本当それな。

でもお前が言うな。


自分勝手に妨害する為に自分のペースを見誤ってバテて、負けるの格好悪いからって棄権ってそっちの方が最高にダサい。

…もちろん身体壊すまで走れって言うわけじゃない。

こいつはいつもこうなんだよな。

本当に残念。



そこからは自分のペースで走り、俺は学年3位でフィニッシュ!

陸上部に誘われたw丁重に断ったけど。



しばらくして青井と山目くんが一緒にゴールした。

真ん中位の順位だった。



青井『…山目…お疲れ。』


山目『青井もな。』


なんかちょっと友情が出来てて羨ましく思った。


救護の車で帰ってきた津南と青井、山目くん、救護班のとわんこが一同に会する。


永遠『承くん!救護カーで津南くんが口説いてくるの!』


青井『棄権なんだからお前は約束守れよ!』


津南は聞いてない、


津南『俺、マラソンの時、お前に抜かれた事ねえぞ!反則してんじゃねえの?!』


はあ?


青井『ずっとお前より先行してんだから抜かないだろ?』


津南『は?モブの癖に!』


目白『立花くん、お疲れ様!さすがだね?』


目白くんも早いのよ、確か9位。

短距離も早いからね目白くんは。



目白くんは、津南の方を見て、


目白『津南くん、覚えて無い?

入学後の体力テストで持久走は立花くんがクラス一位だったでしょ?』


津南『は?モブが?

お前の土俵じゃん!卑怯だな!』


勝手にお前がこっちの土俵に土足で入ってきたんだろ?


青井がククク!って喉を鳴らしながら言う、


青井『さっきの?問答?勝った立花が締めて!

男は?』


ああ、さっきのスタート前の男は…ってやつ?

腕力とか顔とか、存在感って言ってたね?

…俺は…。





『男は…体力!』



紅緒『…うん、男の人は…体力無いと…ね?

うん、それに?私の為に勝ってくれた…!承きゅん…!』


とわんこ…頬を赤らめないで?

紅緒さんがうっとりこっち見てるから津南は舌打ちして出て行った。

山目くんは手でごめんってやって津南を追いかけていった。


青井『山目は悪いヤツじゃ無いんだよ。』


『じゃ、無視すんな。』


永遠『じゃ!私も無視すんなー!』



伊勢さんは…大きすぎる胸部の為マラソン苦手で…マジ大人しかった。


伊勢『重いわ、邪魔だわ、見られるわ…マジ最悪!』


あ、仙道は見せ場無かったよ。



☆ ☆ ☆


今日は昼休み長く設定されてる。

…あー、疲れた…!



学年内で競うから毎回言うけど俺ら仮校舎組と本校舎組は部活や委員会で会わないと全く同学年でも関わり合いが無い。

だから同じ一年でも見ない顔が多く居る。


美人なとわんこ、イケメンの青井、派手なギャルの伊勢さん、妖怪のような男仙道と俺たちは視線を集めやすい。


ちょっと見られる居心地悪さと喉の渇きで俺たち解散!

あー、ポカリ飲みたい!


俺は自販機コーナーへ向かう。

そこへ同中の小石がやって来る。俺、小石昔から苦手なんだよね…。


小石『おー立花おっす。』


『…おっす。』


小石『立花マラソン強いなぁ、昔は全然トロくて、鈍臭くて、ボンヤリ…』


そうなのだ、こいつの中で俺は小2位からアップデートされていない。

その頃引っ込み思案だった俺を定期的に思い出させるから小石はなんか苦手なんだろう。

家も近い、多分1番古い知り合い…でも、友達とは思わない…んだよなぁ。


俺の気も知らず小石はいつも明るく、楽しそう、まあ良いけど…。


小石『あ、立花!ジュース奢って?』


自販機前で小銭を取り出す俺に小石は厚かましいお願い。

こいつはこうゆうとこあるんだ…。

俺が嫌って口にする瞬間、


小石『あ!こないだ!歩き遠足やこないだの体育祭で言いかけてたんだけどさ?』


ああ、なんか言いかけてたっけね?

俺は興味も無く、相槌を打つ。

げ、ポカリ売り切れじゃん!まあマラソン後飲みたくなるよね…何にしよう?

小石はまだ続けてる、


小石『立花4組で仮設校舎じゃん?俺6組で本校舎の四階の1番奥なんよ?

だっけ、こっちの一年ってあまり知らねっしょ?』


ああ。

…アクエリアースも無い…じゃ、アップルティーにしようかな?紅緒さんがいつも飲んでて妙に美味そうに見える…。


小石『俺も驚いたんだけど?』



ああ、


小石『厚樹居た。覚えてる?

神崎厚樹。』



もちろん。












…?



…?!




『はあ?!あっちゃん?!神崎厚樹ってあっちゃん?!あの?!』



俺は驚愕した!

はあ?あっちゃんが?東光高校に居るってこと?!



小石『ほら、驚いた!

お前厚樹大好きだったじゃん。教えよう教えようって思ってたんだけどさ。

なんか全体イベントしか会わないし?タイミング合わなくって?』



『な、な、な、何組?一年?』



小石は笑いながら、



小石『立花!タメなんだから一年に決まってんじゃーん!』


『い、良いから教えて!何組?何組に居た?』


小石『7組。ビックリしたわー。世間って狭いな?

え?マジジュース奢ってくれんの?さんきゅ!』



俺はもう、それどころでは無い!

マラソン終わりの昼休み、喉は乾くがまだ食欲も無い、

俺は四階奥の一年教室の7組へ走った!

後ろから小石の声が飛んでくる、



小石『苗字変わってたぞ?あと雰囲気全然違う!ビックリすんなよ!』


『さんきゅ!』



俺はただ夢中で四階の1年7組へ向かう、あっちゃん!

まさかこんなとこであっちゃんに会えるなんて!

俺は期待と不安に信じられない程ドキドキしながら校舎を駆け抜けた。

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