第259話 勝負と性分


文化祭が終わり、晩秋深まるこの時期、我が東光高校では、マラソン大会がある。


東光高校のある東光地区はハッキリ言って田舎である。

我が故郷の新川町もなかなか自然豊かだが東光はもっと田舎。

少し行けば大きい県道、国道が交わり活気のある地域だが東光駅周りにお店が全く無いことでわかるとおり大変な田舎だ。

まあローカルあるあるではあるけども車社会なんだよね。

東光駅から見えるのは東光高校と田んぼが7割を占めるほどの大農業地帯。

だから歩き遠足とかやれちゃう。

196話 歩き遠足と永遠 参照。


だから田舎のマラソン大会ってさ、距離が確保しやすいからなのかな?

走行距離が長い!男子12km…12kmだよ?おかしく無い?

宏介に聞いたら北翔7kmだって。

…シティボーイは違うよなあ。通行の妨げになるから距離も時間も短くすませるんだってさ。

うちは…通行の妨げになるどころか…稲刈り終わる頃だからどうぞどうぞ!頑張ってね!って地元の農家さんの理解のもと長い長い真っ直ぐの農道を使用し放題!


12kmじゃ体育の授業中に終わらないから本番前に一回だけ半日潰してプレ走行し本番っていう荒い行事。

今時そんなにやる?これには先輩の戦時の故事が…ってまた始まっちゃう。もういい。



そのプレマラソンをこなして翌日、もう来週マラソン大会だって頃の秋の放課後、廊下で津南と山目くんとすれ違う。

津南は言わずと知れた嫌な奴なんだけど山目くんは厳つい男。

青井をライバルと見なしてるって噂の他クラスの生徒。

津南の同じ中学出身の津南グループの男。

バスケ部でポジションはゴール下でパワー勝負するセンターなんだって。


津南『おい、立花。』


あ?


青井『あん?』


青井がさっきまでニコニコ話してたのに、機嫌悪そうに応対する。

それに山目くんが同じく機嫌悪そうに応対する。



津南『お前調子乗ってね?また殴るぞ。』


嫌な顔するんだよ、あの日の怒りが蘇るんだけど…どうどう!

青井がヒートアップしちゃうよ!



青井『ああ?!津南?』


山目『青井ぃ!』


でもね、青井は津南しか見てないの。


津南はちょっと慌てて、


津南『だからさぁ、青井くんにケンカ売ってるわけじゃ無いんよ?』


青井『前も言ったろ?立花の敵なら俺の敵だろ!』


山目『青井!無視すんなや!』


そこで津南はおかしな事を言い出す、



津南『じゃあさ!マラソン大会で勝負しよ?

俺が勝ったら紅緒さんに手出しても邪魔すんな?あとお前俺のパシリな?』


は?


青井『いいぜ!じゃあこっちが勝ったら?』


山目『お前が条件出せると思ってんのか?!』


津南『山目うるさい。要る?』


青井『え?メリット無いの?じゃやらない。』


スンって顔して青井は降りた。

きっと彼女の小幡さんの教育の賜物で、なんでも勝負受けないとか、ちゃんと条件は確認しなさいとか言われてるのだろう、このお座敷狂犬は。



うちは基本2クラス合同で体育をする。

その時の1時間授業のマラソンで津南は俺に先着してないはず…?

こないだの12km試走も俺学年3位だったけど…津南先着してないはず…?

手抜いてたんか?


青井『じゃあ、俺らが勝ったら、俺たちに一週間昼ジュース奢れ?』


山目『お前が条件出せると思ってんのか?!』


津南『山目?お前さっき同じ事言っただろ?仕方ないな、それで良いよ?』


青井『…吠え面かくなよ?』


津南『立花逃げんなよ?』


山目『…。』


山目くんが不憫で仕方無い…。

津南も青井も山目くんの話聞いてやれよ…。


青井がワクワクしてるのを横目で見ながら一応聞いてみる、


『なぁ。マラソン自信あるん?』


青井『え?無いけど。

俺、長距離だけはダメだって立花知ってるじゃん!』


だよね?


『あんな勝負受けて…大丈夫?』


青井『え?立花なら勝てるでしょ?去年一位だぜ?』


ええ?!


『去年は中学生でしょ?

今年は高校生で、陸上部の長距離の選手とか居るから、こないだのプレマラソンでも俺学年3位だよ?!』


ランニングはサッカー辞めてからも続けてる、バスケもしてる。

でも、専門家には敵わないし、あの自信…津南は練習とか手を抜いてる?

実はめっちゃ早い可能性が…。



青井『…!そんな可能性が?!』


『何してんの?』


青井『いや、俺立花は長距離最強って…。』


買い被り!

一応、マラソン大会向けて一週間無いけど仕上げた…。

定期的にやってるバイト後の景虎さんとバスケの時間に青井も来ててさ、


青井『そうなんすよ俺安請け合いしちゃって立花大変なんす!あはは!』


景虎『あはっはは!ダメで当たり前、出来たら男前ってことわざあるからやってみんだわ?』



そんなことわざある?

とわんこまで聞きつけて、



永遠『…私の為に争わないで!

…一回言ってみたかったの♪頑張って♪私を津南くんに渡さないで?』


『もし津南に負けたらどうすんの?』


永遠『え?私は了承してないし?

また嫌って言うけど…?

うふふ!私を賭けて承くんが勝負する…めっちゃヒロイン感ある!』


にやって笑うとわんこを見て思う、今回は俺なんにもしてないのに巻き込まれた感がすごい…。

去年マラソン大会で香椎さんのキスがかかってる(誤解)って時に比べて緊迫感は無い。

俺去年必死だった、絶対負けられない、完くんと勝負!って燃えてた。

高校生になり、大人になっていく…でも燃えなくなったのかな?

完くんと津南じゃ比べられないけど完くんの方がライバル感あったな。

とわんこ…負けても津南に嫌!って言うって聞いた、じゃ大丈夫だろ。

香椎さん賭けてってなったらきっと命を懸けて走るだろうな…


そんな事を思いながらも短期間に精一杯仕上げて、マラソン大会に臨む。




そんな時にさ、前日夜に香椎さんからロイン来たのね。

で、とわんこ賭けたって話はさておき、マラソン大会で勝負するって話になったの。

懐かしいねー去年は大変だったね?って話しになって、うちの学校マラソン大会午前中やって午後は普通授業って話しして。

香椎さんの天月高校も都会だからマラソン大会距離短いとかやり取りしてさ。


香椎さんはロインで急に言い出したんだ、


【ロイン】


香椎 じゃあさ!明日久しぶりに帰りに会ってお話ししない?


立花 先週文化祭の代休で望ラケットの時会ったけど?


香椎 あれは会っただけでしょ!話したのバスでちょっとだけじゃ無い!

マラソン大会お疲れ様!兼ねて?帰り道でしょ?

うちの前の公園でお話ししようよ?


立花 うん、わかった。


香椎 じゃ、最速で16:30ってとこかな?


立花 俺の方が学校近いから香椎さんの良い時間で良いよ?


香椎 久しぶりにアイスボックスクッキーとか作っちゃうよ?


立花 食べたい!良いの?




…なんてやり取りがあって、考えてみたら中学校卒業以来、ターミナル駅で遭遇、ひーちゃんのお遊戯会、望のラケット選びと3回だけ、しかも他の用事のついでって感じだったけど…会って話すって目的で2人で会うのは…美術室が使えた中3の12月以来?!

…なんか緊張してきた…。


明日はマラソン大会、そして放課後…久々に香椎さんとお話し会!

しかも久しぶりに香椎さんお手製クッキー食べれるの?!


俺は思う、イベントが渋滞してる…!








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