第250話 寝たきり娘【side紅緒永遠】
※入院し、闘病生活をおくる紅緒さんが病院を牢獄など様々な表現で酷い所って言いますが、病院やスタッフさんたち含め清潔で、人当たりよく一生懸命働かれてる施設である事は本人もわかっています。
私が意識を取り戻したのはクリスマスどころか年明けて数日。
もうテレビにお正月CMが無くなった時期に目が覚めた。
本当に意味がわからないし、時間、季節の概念が無くてね。
後に先生が言うには心臓が機能不全を起こしてて失神を繰り返してたらしくて記憶も感覚も曖昧ですっごいたくさん管が取り付けられてね、ビックリした。
症状?うーん、
まず慢性的な息切れ、特に夜間は呼吸困難になったの。
苦しくって苦しくって。
常にバクバク動悸がしててね、安静にしてるのにだよ。
そして疲労感、これも慢性的なすっごい疲労感。指一本動かしたく無い程の酷い疲労感が常にあり、私は植物みたいな生活。
意識不明と言っても失神を繰り返してた感じ?だったから私は覚えが無いけど多少意識がある時に流動食を嚥下?飲み込んでいたみたい。
あと点滴ね。下の方は…承くん!想像しないで!
そうよ!管付けられて、オムツして…。
子供心にお嫁に行けないって思ったな。
冬の間は私そんな感じで寝たきりの、意識取り戻したり、失神したりを繰り返してたんだ。
春になり、私は6年生になった頃やっと寝たきりみたいな生活に進んだ。
承くんはたまらず聞いて来る、
承『寝たきりに進んだ?
意識は冬の間無かったの?』
うん、失神を繰り返してるから、断続的かつぼんやりでさっぱり時間感覚がなかったよ、確か。
同級生もお見舞いに来たいみたいな話だったけど、意識不明みたいなもんだし、ほぼ家族以外面会謝絶だったしね。
6年生になる頃には慣れたのかな?忘れられちゃったかな?何も無かったよ。
6年生になったったって一回も登校してないんだからなんの実感も無い。
体は成長期って言ったって寝たきりの流動食食べる程度だからガリガリに痩せてる。
身体拭いて貰って、水使わないシャンプーみたいなので頭洗って貰って、流動食食べて、寝て、みたいな暮らし。
でも症状は続いてるし、まだ時々失神もする。
夏が終わる頃、そんな状態で多少症状が良い、悪いを繰り返して先生が相談を持ち掛ける。
一時の悪い状態から多少安定している。手術…成功すれば症状は結構改善する…はず。
ただ心臓の手術だからリスク、もちろんそうゆう事だよ。
移植という方法もある。だがもっと重篤な患者さんも居る。
私の心臓のこの症例は少ないらしい。
こんなに酷い状況で、この病室から一歩も出れないのに心臓移植を受けれる優先度はすごく低くて、まず厳しいらしい。
まあ、まず成功するはず。
でも、もし失敗したら…。
成長期の私がこのまま今の寝たきりで植物みたいな暮らしを続ける事は社会復帰も危ぶまれるほどの身体機能の低下や社会性の欠如などデメリットの多さ。
手術…しか無いって子供の私にもわかった。
それをしないと、この病室から一歩も出れない。
ここは牢獄だった。
清潔で、看護士さんも医師の先生も優しくて、良い人。
でも、なんの個性もない、毎日私の状態を見て、記録して、世話するだけの。
!
もちろん感謝してるよ、私が今あるのは皆さんの看護のおかげ!
でも、私は嫌になっていた、出来るならまたこの足で外を歩いて、自分の手でまたお料理作って、ゴロゴロゲームしたり、散歩したり、自分の意思で何かをしたかった。
だから、怖くて怖くて仕方なかったけど、決断はすぐに出来た。
そこに夢があったから。
ここを出て、自由に生きたい。
それだけが、清潔な牢獄での私の夢だったんだ。
え?手術?
うん、それから1ヶ月コンディションを整えて、出来るだけご飯を食べて、歩けはしないけどベッドの中で体を動かしたり、マッサージを受けて整えて臨んだ。
手術室に入る前にパパとママが涙ポロポロ流して娘をお願いします!って先生にお願いしてるのを本当にこんな場面あるんだって他人事のように思ってたっけ。
手術室に入り、手術台で天井を見る。
無影灯っていうのかな?あの威圧的なライトを見て、ガスマスクみたいなのを付けられて、なんか先生が…。
気づいたら自分の病室だった。
ママが私が意識を取り戻したのを大慌てで看護士さんに伝える。
パパもすぐに飛んできた。
私の手を握って泣く2人を見て、私は親不孝な娘だなぁって思ったんだ。
麻酔が切れると胸は痛いし、依然動悸息切れ、夜間の呼吸困難。
酷い疲労感は変わらなかった。
手術したのに?
私は詐欺じゃない?って憤慨した。
こんなに長い期間私を入院させて治せないなんて…ってちょっと恨んですらいた。
もちろん逆恨みの八つ当たりなんだけどね。
今思えばストレスだったんだよね。病院生活も寝たきり生活も。
病院のみなさんは精一杯の事をしてくれた、でも当時は子供で一刻も早くここを出て、懐かしい我が家へ帰りたかったんだ。
最低でも、自分で立って、歩いて。
自分のこと位は自分で出来る、そこが最低ライン。
手術後症状が緩和して、安定してきたらリハビリと運動による心臓の負荷や影響を詳細に調べてそれから。
手術後最初はそんなに変わらないじゃん?って思ってた。
また病院の人は私を騙したんじゃ?こんなに胸に傷痕付けてさ。
手術痕はまた増えた。新しく大きい凶々しい疵痕。
それでも冬に入る頃、
あ、今日ちょっと調子良い!って思った。
ここ一年そんな日は1日たりとも無かったよ。
その日は疲労感が、倦怠感が珍しく少なかったから、自分で水要らないシャンプーをしてみた。
手は重く、体を起こしてその体勢を維持するのも本来困難。
でも、その日、私は一年ぶりに自分の頭を洗った。
うまく洗えなかったけど、痒いところ言わなくても自分でかけた。
そんな事だよ?そんな事を横で見てたママは泣いて喜ぶ。
本当私は親不孝な娘だなって思った。
ママがこの一年髪を切ってくれてた。
でも理容師さんが週に2回病院に来ていて、ママの提案で理容師さんに髪を切って貰った。
感触的にはすごく良い感じでママには失礼だけど比べものにならない位上手だったよ。
でもね、私は新しい髪型を見る時、一年ぶりに自分の顔を鏡で見たんだ…。
そこには髪はパサパサ、目は落ち窪み、肌は青白く、荒れ放題の痩せぎすの人相の悪い女の子が居た。
それでも自分ってわかるんだ。
鏡を取り落としちゃってさ、ショックで。
自分は可愛い、綺麗って思ってた。
ちょっと病弱な感じのキャラになってるって思ってた。
鏡の中に居たのは死相の出てる骸骨みたいな女。
それをパパもママもうちの会社の従業員さんたちもお見舞いに来て私を可愛い、可愛いって…。
私は皆の優しさと自分のおめでたさに涙が出た。
早く元に戻って家に帰って、パパママとみんなの元に帰りたい!
こんな死神みたいな女の子私じゃない!
その為には食事とリハビリそれしかない。
冬を丸ごと使って私はリハビリに臨む。
一年寝たきりの私はビックリする位体力が無くなってて、ありとあらゆる力が激減していた。歩けないし、立ってられないし、酷いものだった。でも私の身体は成長期で鍛えれば鍛えただけ動けるようになるのは本当に嬉しかった。
まあ、知ってのとおり今でも貧弱でよわよわなんだけどあの頃から見たらムキムキのマッチョウーマンなんだから!
目標は一時帰宅!私は燃えていたの。
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