第249話 きっかけ【side紅緒永遠】

陽は落ちていく、室内は段々暗くなる。

反比例するようにグラウンドのキャンプファイヤーは間接照明のように明るく室内に炎のゆらめきを反射させる。


遠くのざわめきが別世界のように感じる。

告白の後ってもうちょっとさ、ラブなロマンスな残り香がありそうなもんだけど室内の空気はピーン!って張り詰めている。


私の人生初告白を、この目の前男の子は一刀両断!綺麗断ってきた。

多分、即答。

でも、私に配慮して、言葉を選んで、私を気遣って断った。

その気遣い優しさが辛くて泣いてしまった。


そりゃショックだよ!なんのかんの成功すればイイと思ってたもん!

でも、そんなうまくいくわけないよね人生なんて。

私は予定通り聞いて欲しい事があるって彼に伝えた。



それでこの雰囲気。

断られたって諦められないよ、だって生まれて初めてこの人!って思った男の人だもん。

承くんが前に言ってた。

まず知る事。

227話 怒られわんこ 参照

☆ ☆ ☆


承『「人の己を知らざるを患(うれ)えず、人を知らざるを患うるなり」

って孔子の言葉があってね?

人が自分のことを正しく理解してくれないことを思い悩んでもしかたない。それよりも、自分が人を正しく理解していないことを心配すべきじゃない?って言葉。

自分を理解してくれる人ってやっぱ大事だし、大事にしたくなるでしょ?理解してもらおうって思ったらまず理解しないと。』


☆ ☆ ☆

私は承くんを知りたいし、私を知って欲しい。

…だから、今まで濁してた、

私の病気の話し、辛かったしか言わなかった入院して、人生観が変わった話しを今日は承くんに聞いて欲しい。


『承くん、前に私に倒れた頃の事や入院生活の事聞いたよね?

私は辛かった、しんどかったとしか言わなかった…ううん、言えなかった。

今日、ちょっとその頃の話しを聞いて欲しい…、

前に承くんが言ったように大事だから承くんを知りたいし、承くんに知って欲しい。

ごめんね、ちょっとだけ付き合って?』


承くんは、真面目な眼差しで私に、


承『うん聞くよ、聞かせてよ。』



そう言ってくれた。

願わくばこの話しを聞いた後でも私への態度を変えないで欲しい。

憐れんだり、頭おかしい娘だって対応を変えないでくれたら嬉しいな。

私は、語り始める。




☆ ☆ ☆

私が小5の頃だったね、私がまだ11歳かな?

私は幼い頃、心臓を患って知っての通り運動や生活に制限が付いてた。

付いてたけど割と普通に暮らせていた。

あと私ね自分で言うのもなんだけど可愛い娘だったの。

両親にも『可愛い、可愛い!』、パパの会社の従業員のみなさんにも

『可愛い!可愛い!』、同じ学年の男子にも『紅緒さんかわいい!』

って。


まあ、子供だし、客観的に見てまあそうかな?可愛いかもなぁとは思ってたの。

承くん?そんな顔しないで?私も恥ずかしいの!



本当にこないだクラス一緒になるまで思い出しもしなかったんだけど。

当時私、稲田さんに嫌がらせされてたのね?

それを男子が庇うから段々エスカレートしていって。

最初は上履き隠される位だったんだけど、ハブられたり囲まれて文句言われるようになってきて。特に子供の頃心臓の手術して体育は見学してた事とか毎回チクチク言われてね?


私も負けん気強かったから言い返したり、怒ってみたり、やられっぱなしでは無かったの。

でも、稲田さんは根回し上手くて段々稲田さんの仲間が増えて私の友達が減ってきた。

クラスの女の子が好きな男子が私を庇った!とかあの男子紅緒が好きなんだって?って吹聴してたらしいんだけど…私はそうゆうネマワシが出来ない子だったのね。

※最近まで全く出来ませんでした。



その日は、12月の終業式の日、明日はクリスマス会をクラス全員で!って楽しみにしてたウキウキの日だったんだ。

でも、ちょっとだけ胸はむいむいしていた。

※むいむいは紅緒さんの感想です。



私は、嬉しい日とかオシャレな服を着たい派で。

私センスでは無いママチョイスだったんだけど白いワンピース。

お気に入りの真っ白なワンピースにカーディガンを羽織る、自称お嬢様スタイルでしたんだ。小学校なだけに…。


東光と登校をかけたんだよ?

うん、ごめん承くん、そんな冷たい目で見ないで?


まあ、察するよね。

私はハブられても唯一そばに居てくれた親友と2人でいつも行動してたんだ。

私は終業式終わり、帰り道に稲田さん達に囲まれた。

多分5人位だったかな?囲まれてめっちゃ言われた。


男子にいい顔してる!

可愛いからって調子に乗ってる!

九頭くんは私が好きだったのに!

むかつく!

何か言えば!


私はキッて睨んで、


『ふたりを5人で囲んで恥ずかしく無いの?』


そしたら、稲田さんがにたぁって笑って、


稲田『2人を6人でじゃないよ?

ひとりを7人でだよ?』


私は慌てて振り返る、まさか?まさかね?


『ゆかりちゃん?』


友永『…とわちゃんと一緒に居ると…私までいじめられちゃう…!』


今ならわかる。同調圧力?出る杭は打たれる?

私は裏切られた!って思ったの。

うん、今はもうどうでも良いよ?本当に。


囲まれて突き飛ばされたり、ランドセル取り上げられたりしたけど、

私はムカついてムカついて仕方なかったよ。


でもね、何されても怒りを掻き立てる稲田さんたちはともかく、

その元親友のゆかりちゃんが1番私の心をへし折ったんだ。



ゆかり『ふふ!これ見よがしに白いワンピースなんて着ちゃって!』


元だけど親友だった子は躊躇せずに、薄く笑って、

ばしゃ!


12月だよ?その寒い時期にゆかりちゃんは私にその辺に落ちてたカップラーメンの空容器でその辺の水たまりの泥水を私に結構な量ぶっかけたのね。



なんかスローに見えたよ、その光景が。

ゆっくり頭に、顔に、お気に真っ白いワンピースに汚い茶色の泥水が私とワンピースぐっちょぐっちょに汚したの。


私のお気に入りの宝物が、ママが絶対似合うって!買ってくれて、パパや従業員さんたちも絶賛した真っ白ワンピースが汚れていくのを私は見てるしか出来なくて…。

ショックを受ける私にいじめっ子たちは真似して泥水かける子が居た。

さすがにそこまで出来ない子の方が多かったけどね。



私は生まれて初めて、負けて逃げ帰ったの…。

取り上げられたランドセルを捨てて、泣きながら、ママが似合うって買ってくれた宝物を汚されて、全身泥まみれで泣いて逃げ帰ったらママやパパがどんなにショックを受けるだろう、悲しむだろうって思いながらトボトボ帰ったよ…。


いくつも重なったんだろうね。

朝から胸がむいむいしてた事、

明日が楽しみ、終業式、通知表、お気に入りのワンピース!でテンション↑

からのいじめられてテンション↓

親友が寝返ったこと、

その親友から心を折られたこと、

急に冷たい泥水をぶっかけられた事、

逃げるのに、少し走ったこと、

寒い12月だった事、



私は自分の家に辿り付く、やっとの思いで。

その頃には胸が早鐘のように激しい鼓動を打っていて、

息は切れ、動悸は激しくなるばかり。

胸、背中、喉、腕に痛みもあり、私は家の前で失神した。



私を見つけたのはうちの家業の東光組の若頭の花田さんで…。

あ、若頭はあだ名よ?



承くんは呆れながら、

承『若頭とか…そうゆうノリが実家ヤクザ疑惑を生んだんだよ…?』



はは、暗くなるのは嫌なんだよ?

それですぐ救急車呼ばれて、私は救急外来へ運び込まれたんだ…。

でも12月に泥水かぶってるから発見が遅かったら肺炎とかの危険性もプラスになっただろうから?ほんと幸運だったんだ。

心臓だけでも死にかけたのに肺炎を起こしてたら死んでたからね。



そこから入院生活が始まったんだ。


え?ああ、いじめの話し?

あれだけ楽しみにしてた私が次の日クリスマス会に無断欠席で、クラスメイトたちはあれ?って思ってたらしいの。

そこに放置された私のランドセル泥付きが発見されて、学校に連絡が行って?

私の家に先生が届けてくれたらしいけど私その頃生死の境に居てね?

ランドセルを事情を知らないお手伝いさんが普通に受け取ったの。

私はまあその冬ずっと寝たきりで、学校どころじゃなくて、ママが新学期になって数日してから思い出して学校にも連絡したんだって。


そしたら、クラスでは不登校になった紅緒さん…なぜ!?

先生も不登校?ランドセル忘れるか?ってなって家に電話かけるけど私の家は修羅場真っ最中で事情知らないお手伝いさんは伝えますとしか言わなかったらしいし?

稲田さんがいじめてました!って告発があって、いじめっ子たちがめっちゃ追求されて学校でも問題になったらしくてね?

特に最初囲んできた6人、特に主犯の稲田さんは反省文とか書かされたりしかけた所でママから心臓の病気!って連絡きて解放されたらしいよ。

先生からそう聞いたってママが。


うん、だからその時の恨みで稲田さんは私を逆恨みしてるの。


承くんは悲しそうな顔で、


承『…稲田さんやその、元親友の友永さんを…恨んではいないの?』


うん、全然。

この後の闘病生活が苦しくてね?

前も言ったかもだけど、入学まで、こないだ俺カレで再会するまで思い出しもしなかった。

正直、そんな事はどうでもイイって断言できる暗黒時代だったんだ。

闘病生活は…。


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