第247話 聞いて欲しい事。

そして、緊張感がはしる社会科教室で、薄暗いグラウンドキャンプファイヤーの炎のゆらめきで照らされる室内で、

紅緒永遠の精一杯、全身全霊をこめた思いを彼女は俺に伝え切った。



『承くん、好きです。

私と付き合ってください…!』




告白って初めてなんだけどここんなに心揺さぶるのか?

魂ぶつけられたって感想しか出ない。

こんな綺麗な娘が必死に、本気で俺に精一杯の思いを伝えてくれた…こんな事あるの?

…俺は、正直言って心打たれた。

なんて威力、なんて健気、なんて魅力…。


…俺が耐性香椎玲奈好き持ってなかったら心を持っていかれてた。

耐性持ってても魂を引っこ抜かれそうになった…。

紅緒さんの告白の破壊力恐るべし…。

香椎さんはよく告白されてまったくブレないな…。

※知っての通り香椎さんには好きな男の子立花 承が居ます。あと慣れ。回数を半端なくこなしました。



喉が渇く、カラカラだ。

目の前の美しい少女は返事を今か今かと待っている。

チラチラ上目遣いで俺の様子を伺ってるのが見てわかる。


俺は思ってた、

好きな人が居るならそう言えば良い、そう言って申し訳ないけどって断り入れれば良い。



…こんなに言いにくいもんなのか…。

知り合いどころじゃ無い毎日いっぱい話す親しい関係。

俺はワガママだけどこの関係を壊したく無かった。

…でも、付き合うって選択肢を取るのは俺の価値観としてありえない。

俺は香椎さんが、香椎玲奈がやっぱり好きなんだ。

これだけ揺さぶられたって、浮かぶのは香椎さんの笑顔や泣き顔、ドヤ顔、恥ずかしがってる顔、ふふー!って得意げな顔。

…釣り合わないってわかってる。

告白…今はとても差がありすぎて出来ないけど、子供の頃から、ずっと、ずーっと俺は香椎さんが好きだ。



自分の気持ちは青井のおかげで再確認出来てる。


すー。一回息を吐く、

はー。息を吸う。腹式でお腹から胸まで膨らませるように息を吸い込む。



『紅緒さん、ありがとう。』


まず礼を言う、紅緒さんが体をこわばらせて俺に集中する。



『俺はさ、女の子に好きなんて言われた事なんて無くてさ、びっくりと嬉しいと恥ずかしいがごっちゃになって、もう訳わかんない。』


頷く紅緒さん、俺は続ける。



『本当に気持ち嬉しいよ。

そんなに思ってくれてたなんて、夢にも思わなかった。』



言葉選びに慎重な俺の様子に察したのか、

紅緒さんは首を小さくイヤイヤするように振る。


でも、男なんだから、キチンと決めなきゃでしょ。

俺の気持ちを伝えなきゃいけない。例え恨まれたり、嫌われたりしたとしても。

俺は深々と頭を下げる。


『でも、ごめんなさい。

俺、昔から、好きな人が居ます。』


紅緒さんは無表情に、淡々と、


『こないだ会ったあの人?香椎玲奈さん?』

195話 警報 参照。


俺は頷く、


『だから、気持ち嬉しいけど、応えられない。

ごめん。』


もう一度頭を下げる。


紅緒さん…表情はいつもと変わらない…?

やっぱドッキリ?

いや?!いつもの表情のまま涙をボロボロこぼしてる。



大きな目にいっぱい溜まった涙は頬を伝い落ちる。

その光景を俺は黙って見つめるしか出来ない。

でもその幻想的なまでの美しさに目を逸らす事も出来ない。



数分…たったんだろうか、

紅緒さんはいつものように話し出す。


『…うん、うまく行けば良いなとは思ってたけど、

この一回でなんとかなるなんてこっちも思って無い。

私の好意にもまったく気付いてなかったんでしょ?』


俺は頷く、ほんとにそうだよ。

好かれてる…いいや懐かれてるって思ってたんだ。


『うん、それでね。

最初に言ったこと、

「伝えたい気持ち」は伝えた。

で、もう一つ。

「聞いて欲しい事」があるんだ。』


紅緒さんは緊張を解いた、いつものような様子…。

でも、聞いて欲しい!って圧がある。



前に、さっき言った話あるでしょ?

ああ、思い出、友達、彼氏、クラスメイト、それを揃えて卒業式に臨むことでしょ?

あの日、小さい夢を語ったのが今の話なのね?


うん?



『その話しの大元の部分、あの日言えなかった夢の話し。

私の夢の本体の話しを今日聞いて欲しいの。

もし夢が叶うならさっき言った、思い出、友達、彼氏、卒業式は諦められる。』



さっきの、いや先ほど以上の緊張感を持って話し出す紅緒さん。



告白のあと…聞かされたのは紅緒永遠の夢の話。

夢と言うには辛い夢、願いと言うならこんなに悲しい願いは無いって思った。

俺の思ってた告白とか夢を語るって事は甘いキラキラのふわふわな女子が大好きな映えるスイーツ。そんな物を微塵も感じさせない紅緒永遠の本当本気に俺は圧倒される事になるんだ…。

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