第246話 伝えたい気持ち

高校編の序盤あたり、紅緒さんがまだ固かった頃を読んで頂けるとより楽しめます。

179話 可愛い 参照。


☆ ☆ ☆

18:00、社会科教室。特別教室棟の4F。

紅緒さんとのいつもの場所って言ったらここしか無い。


深呼吸して、ドアを開ける。教室は蛍光灯点けずに薄暗い。


そこには窓の外、後夜祭のキャンプファイアーを遠くに眺める紅緒永遠の姿があった。


俺が来たのを見て身体ごとこちらを向く。

紅緒さんの頬は白く、緊張してるのが伝わってくる。

それでも目線は外さない、いつもの力強い意志を感じる光を宿す宝石のような瞳。

控えめに言って、香椎玲奈以外で彼女ほど綺麗な人を俺は知らない。


圧倒的な引力を持つ、見るものを惹きつける花。

それが俺の彼女に対する印象。



『よくここってわかったね?承くん。』


『当たり前でしょ?ここ以外だったら見つからない。』


『はは!そうだよね、ここが1番承くんと過ごした場所だもん!』


紅緒さんは機嫌良さそうに話すけど、緊張感が絶え間なく続く。

そりゃそうだ、俺だって喉カラカラ。


俺を窓際の席、よく座る窓際前の席に呼び、その後に、長机を挟んだ前後に位置取る。

いつもの位置、いつものふたり。



紅緒さんは恥ずかしそうに、でも視線は合わせたまま、話す。


『さっき、クラスのHRで話しちゃったけど…。

なんか照れ臭いね…?』


はにかんだ笑顔で話す紅緒さん、俺はああ、とかうん、とか相槌ばかり。



『私はさ、結構ダメダメでさ、軽率で我慢が効かなくて勝手にピンチになったり、要らない揉め事を起こしちゃうんだ。』


『まあねぇ。』


同感だ。もうちょっとだけ気を付けて欲しい。

…でもその純粋さ、ひたむきさが大きな魅力でもある。


紅緒さんは場の緊張をほぐす為、下手くそな話題の転換で文化祭の話、ひーちゃんの話、さっきの片付けの話と推移していく、

そして、気持ちの整理がついたのか、準備が整ったのか立ち上がると、窓際をゆっくり歩き出す、

俺は座ったままだと話しにくく立ち上がる。

紅緒さんはふふって微笑むと、クラスの仲間たちを惹き付けてやまない極上の笑顔で、



『さっきも言ったけど、

今日は聞いて欲しい事、伝えたい気持ちがあります。』


どう答えるにしろ、これは全力で答えなければならない。

俺は頷く、


『私の高校生活は自分のおばかな自己紹介から始まって。


勝手に自滅してみんなに距離を置かれて。


そこを嫌な奴につけ込まれて、クラス委員長をさせられた。


私は強がって、やります!って安請け合いした。


でも、誰ももう1人の委員長、相方をやってはくれなかった。』


俺は頷く、紅緒さんは語り続ける、


『今は仲良い女子も、今は私のファンだ!って公言する男子も、あの頃は私を評判の悪い女の子って捉えてて、津南くんや稲田さんが牽制して、誰も声を挙げてはくれなかった。


…今ならわかるよ、地雷女だもんね。でもあの頃はやっぱりショックで。


孤独ってさ、ひとりで居ても感じないんだよ。

人々の中に居ると感じるんだね。

あの時、私は孤独を感じてた。


人はつまらない生活だと景色がモノクロに見えてくる。

こんなはずじゃない、私の理想の学校生活!そう思ってもひとりで遠巻きにされる日々は白黒な毎日だったのね?


そしたら空気読めない男の子が無視して立候補してくれて、私は嬉しかった。ありがとうを伝えたくて話しかけてもあんまり反応無くって拍子抜けしちゃった。』


『あの時俺の名前間違ったでしょ?』


紅緒さんはクスクス笑う、


『そうだっけ?

それから、君は私に学校生活を教えてくれて、私はだんだん学んでいった。

…まだ足りないのはわかってる。


仕事も、学校生活もみんな承くんがフォローしてくれた。

最初は勉強教えるから交換に学校生活教えて!なんて言ってたのにすっかり一緒に過ごすのが当たり前になってた。』


そうだね、一緒に居たね。

思い返すと高校生になって1番一緒にいるかもしれない。



『まあ、長くなっちゃうね?

詳しく言ったらキリないけど、なるみんや青井くん、仙道くんと自分の友達の輪に自然に入れてくれたり、私の事世界で一番可愛い、守りたいって言ってくれたり、諦めてた歩き遠足に参加させてくれたり、私の学校生活に色がつき始めた。』


世界で一番可愛い?俺が言った?流石に話の腰を折れない雰囲気。


『中間テストで学年首位を獲って風向きが変わってきて。

もちろん、承くんやなるみんの力が大きいんだけどやっとみんなと話せるようになって。その頃にはもう、きっと承くんを意識し始めてたんだよね。

私最初は固い口調で通してたんだけど…あっという間に地がでちゃって。』


恥ずかしそうに笑う紅緒さん。


『意識したらもう私は経験が無いから…チョロい女の子じゃないよ?でも、もっと知りたいな、もっと知って欲しいなって思っちゃって…。

スマホのアドレス教えてくれなかった事に怒っちゃったり、バイト始めるって事に難色しめしたり、承くんに会いたくって俺カレ通いしちゃったんだ。』


だから!怒られたのか!

あと、俺カレよっぽど好きなんだなって思ってた。だって美味いもん!

よく言われるんだ、バイトしてると匂いとかで飽きて賄いは違うもの食べたく無い?って。

俺、カレーやハンバーグ食べたいんだよ!でも滅多に出ないの!

もう、匂いでカレーのお腹になってるのにうどんとかサンドイッチとか、焼き魚定食とか!それも美味いから文句言えないんだけど!賄いにもっとカレーやハンバーグ出して欲しいよ!

そんな現実逃避なことを思っちゃうけど、目の前の綺麗な猛犬は俺を逃さない。



『それでね、前に話したでしょ?夢の話。

私は思い出が欲しい。入院して何にも学校の思い出の無い時代がある私は学校生活の楽しい思い出が欲しい。

そして、それを共有する、友達や彼氏。いまはそれにクラスメイトも加わったかな?

今までの話しの全てを持って卒業式に出たい!

でも、卒業式まではまだちょっと時間がかかるよね?

そうすると、足りないピースは…彼氏。』


ゴクリ、自分の喉が鳴る。

来た。ここが山場だ!

俺、生まれて初めて告白されてる…。


思ってたより心が持っていかれそうになる。

こんなに綺麗な女の子が俺を好き?

ほんとは今流行りの嘘コクってヤツじゃないか?

物陰から女子や陽キャがてってれー!とか言ってプラカードにドッキリ大成功とか…。



緊張しすぎて俺は集中出来ない。


それを察したのか紅緒さんはもう!って呟くと、

俺の正面に立って真っ直ぐ俺を見て、



紅緒『産まれて初めてなんだから上手く言えないかもだけど真剣に聞いてよね?』



紅緒さんはささって髪を直し、あー、あー。って喉の調子を確認して、

目を瞑り、胸に手を当てて深呼吸する。


1秒、2秒、3秒、緊張感ある時間が過ぎる、

用意出来たのかな。

紅緒永遠が目を開く。




生き物が持ってる異性を惹きつける匂いや成分がある。

そんな物が自分でどうにか出来るなら一生懸命皆んなその能力を鍛えるか、成分を出す機関を鍛えるだろう。



目の前の女の子は数秒整えただけでその異性を惹きつける力を何倍にもした。

艶々の黒髪、強く輝く瞳、華奢な身体を微かに震えさせて、

紅緒永遠は全力で伝えようとしている。

その整った色白な顔を紅潮させながら、

少し上目遣いで、手を胸の前で祈るように。

振り絞るように出た言葉はただシンプル。










『承くん、好きです。

私と付き合ってください…!』











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