第230話 クラスをまとめる!

俺がぼんやりしていても体育祭は進んでいく。


紅緒『体育祭楽しいね!』

横の女の子はしきりに言う。


青井が活躍したり、津南もあれで運動能力高いから全員参加競技は活躍してた。

ツナダ組(津南、稲田組)は結局のところ全員参加競技以外はエントリーしないし、協力姿勢は全く無い。


…俺はと言うと、全員参加の100m走も2着だし、出た障害物走も2着でまあモブらしい結果。

パン食い競争か長距離走があればなあ…なんて思いつつ、昼休み。




紅緒『みんな!お疲れ様!

良かったら食べてー!』



紅緒さんの実家からの差し入れ、東光組名物の豚カツ!

紅緒母娘がガッツリ揚げてた、豚カツと、その豚カツを甘辛く卵とじで軽く煮たミニカツ丼、白飯がいっぱい運ばれてきた!

…すぐそこの紅緒邸から。


肉体労働の東光組では頑張ってる従業員にご飯を振る舞ったり、お酒出したりして労ってるのを紅緒さんは子供の頃からずっと手伝っているんだって。台所も大きく広いから大量調理可能!

だから料理得意なんだね…。



『カツ丼うま!』

『揚げたてでサクサク!』

『学校で揚げたてカツ食えるなんて…!』

『ソース取ってー!』

紅緒『もう一回来るからね!』


食い盛りの高校生だよ?持参弁当以外に豚カツ食える?ヒャッハー!!な状態。

美味しいね!ははは!クラスは楽しく盛り上がる!

クラスメイト達が豚カツパーリーに盛り上がる中、津南、稲田組はひっそり教室の端っこでそれを見ている。自分たちが協力しない!って宣言したけども俺たちをハブって!って嘆きと恨みを感じる。


あれだけ紅緒さんが歩み寄っても手をはね退けてた癖にクラスに疎外されてるって態度なんだよね?側に来た目白くんがポツリと呟く。


まぁ、放っておくしか無いでしょ?


俺が呟くと、目白くんも頷く。



…?


紅緒さん!何してんの?!

紅緒さんはニコニコしながらその彼等に近づく、



紅緒『ねえ、家から豚カツ持って来たんだ、いっぱいあるからみんなで食べよ?

冷めても勿体無いし、ね?

おねがい!食べてよー?』



見た目が綺麗な紅緒さんがニコニコしながら下手に出るのは奴らのプライドをくすぐるのか?



『ええ?』

『まあ、そんなに、言うなら?』

『カツ丼…めっちゃイイ匂い…。』


最初は渋ってた津南も稲田さんも、匂いやクラスの雰囲気に押されたのかそろそろって手を伸ばす。


大概は揚げたて豚カツ嫌い!なんてヤツは少ないわけで。


『本当だ!美味しい!』

『カツ丼食べてもイイの?!』

『これ紅緒さん揚げたの?』


紅緒『さっき一度帰って一部だけね?大体はママが揚げたよ。』


ニコニコ応対する紅緒さんに俺と目白くんは驚きながらも感心しちゃう。

最後は胃袋を攻めてきた!



ツナダ組も孤立しなくて済むならその方が良いわけで。

少しすると皆に混じり、笑い、談笑してクラスの輪に混じっていた。

イベントの魔力かもしれない、今だけかもしれない。

それでも険悪で互いに無視するような間柄より笑って話せたらそっちの方が素敵な事だよ。

本当に香椎さんとは方法違うけど素晴らしいクラス委員長じゃない?

俺は感心しちゃう。



眺めながら俺も豚カツを!って思ってたところに紅緒さんが来る、

紅緒さんは今日はポニテに体操着、ハーフパンツから綺麗な真っ白い脚が伸びていて目を奪われそうになる。


紅緒さんは目をキラキラさせて、



紅緒『遅くなっちゃった!

はい、承くん!これはさっき私が作ったカツ丼なんだー!

…食べてくれない…?』



なんで最後だけ恥ずかしそうに申し出るのか?

控えめに言っても可愛い。

さっきの動揺した自分がまた顔を出す。

受け取ってモグモグ!うま!


紅緒『…おいしい?』


『美味しい。卵とじのカツ丼大好き。』


紅緒『!!

そっかー!うふふ!良かった♪』


紅緒さんは食べ終わるまで横でずーっとニコニコしていて。

美味しいんだけど、さっきから香椎さんの顔がチラついて仕方ない。

美味しいカツ丼に罪は無い。

でも、罪悪感を抱えながら俺はカツ丼をがっついて食べた。






ペロリと持参した人数分以上の豚カツを平らげた1−4。

昼休みも終わり、もうじき午後の部。

気づけばクラスの輪に入ってた津南、稲田組をニヤニヤしながら紅緒さんは舐め回すように、



紅緒『豚カツ美味しかった?

…食べたからには?

午後の部期待してるよ?』



ニッコニコに笑いながら圧をかける紅緒さん。

正直圧は大した事無い。



津南『…しょうがねえ。まあ、食った分だけ。』

稲田『え?え?…もう!わかったわよ!』


しぶしぶと言った感じで、ツナダ組(津南組+稲田組)は応じる。

あ?!恩着せがましく紅緒さんが言う事でツナダ組は渋々クラスに協力するってていで今更ながらクラスに合流したんだ!

紅緒さんはツナダ組のメンツを潰さないように、譲歩して相手を立ててクラスに合流できるようにしたの!?


拒否してる人たちを輪に入れて、引き入れる…すごくない?

俺は正直感心しちゃった。

俺にはそこまで出来ないかも…。



午後の部が始まり、ふたりきりになった時その話をしてみる。

紅緒さんは嬉しそうになぁに?とか可愛い反応だったがすぐに、


紅緒『ぶー!

ふたりきりになって最初にその話し?

このクラスでハブられてた頃、承くんの中学の頃ばっかり毎日せがんでて聞いてたでしょ?

その時承くんが教えてくれた。

多少の損しても相手にメリットがある事を伝えて誠実に、ね?』



もう、俺なんか超えてるでしょ?

紅緒さんは頬を紅潮させて、



紅緒『承くんが教えてくれた。

今こうして皆んなと仲良く出来て?クラスもまとまって?

あのハブられてた頃からは想像つかないほど毎日楽しい!

ううん、今も大事な事をたくさん教えてもらってるんだよ?』


ふふ!っていたずらっぽく笑う紅緒さんを俺は直視出来ない。

紅緒さんは夢にまで見た体育祭!クラスも統一したし?あとは勝つだけ!

紅緒さんは気合い十分!



☆ ☆ ☆


午後の部

女子全員参加の玉入れ。


伊勢『とわわん!一緒に玉入れまくるよ!』

紅緒『玉!玉!玉持ってこーい!』


ギャル『あんたらはしたないしー!』

ギャル『稲田っちもキリキリ働くしー?』


稲田『なんで!私が!』


投げる女子と球をかき集めて形を整えてサポートする女子の2班体制で勝負!

必死に玉入れする紅緒わんこ!

あ!小学生じゃないんだから!ジャンプして投げないほうが…!



で、玉入れ負けちゃった…。

紅緒わんこは尻尾を丸めて帰ってきた…。



紅緒『…ごめん承くん、私は玉の取り扱い下手っぴみたい…。

でも、競技出れたっ!嬉しいなぁ。』


『あんまり女の子が玉を連呼しないで?』


ほら周りの男子がちょっと喜んでるでしょ?

こうして所属チームは僅差で優勝を逃した。紅緒さんは悔しそうに最後までぶつぶつ言っていた。


『まあまあ、来年勝とうよ?』


紅緒『今年勝ちたかったの!』


紅緒永遠はせっかちだよね。

話しながら歩いて教室に戻る途中、本校舎の一年クラス集団の中に同じ中学の小石を見つける、


小石『お、立花よっすー!』


『おー。』


小石『あ!こないだの綺麗な子!』

196話 歩き遠足と永遠 参照



紅緒『…。』


小石『なんで女の子は俺に塩対応?』


小石は嘆くけどどうでもいい。


前も言ったけど1〜4組は体育館横の仮設校舎、5〜9組は本校舎4階で隔絶されてる為、一年同士って部活や委員会で絡みない奴とは全く面識無い状態。

紅緒さんは目立っちゃう、綺麗で目を引くから。


目立っちゃうのか俺と紅緒さんは居心地悪くって足早その場を立ち去る。

じっと俺や紅緒さんを見つめる生徒が居る。

なんで多数に見られるってあんなに居心地悪いんだろうね?

小石が俺を呼び止めるけど、


『あ、また今度!』


小石『おー、じゃまたなー!』


何か言いたげな小石と別れて教室へ戻る。

そういえば小石とは長いけどアドレスも知らない。

まあスマホ持ったのは最近なんだけども。




みんなが紅緒さんにお疲れ様!頑張ったね!文化祭がんばろ!

優しい声をかけるから、紅緒さんは涙がこぼれちゃう。


紅緒『ううぇ、うぇぇぇん、みんなと勝ちたかったよ!』


クラスは優しい目で紅緒さんが泣きべそかくのを見守る。

男子も女子も暖かい目で紅緒さんを見つめてる。

イベントが終わればまたツナダ組は離反するのだろうがまた紅緒組がクラス統一の為動き出すこともあるかもしれない。



こうして五年ぶりの体育祭を紅緒永遠は全力で楽しんで、悔しがって全力で満喫した。

俺は紅緒永遠に香椎玲奈と同じ位の輝きの違う光を見た。

それは日に日に輝きを増していく。

それを見る事に喜びと不安を感じる。

俺はまだ自分の感情に名前をつけられなかった。

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