第225話 絡まれひーちゃん。
あなたでいっぱい side香椎玲奈
チューリップ組のお遊戯時
一生懸命に踊るひーちゃんを見ていて立花家はみんな胸いっぱい!って表情。
横の承くんも望ちゃんもスマホで録画しながら夢中で弟の晴れ姿を見ているよ。
異変が起こったのは歌の1番が終わった時だった。
ひーちゃん?大丈夫かな?
動かなくなっちゃった?
望『ひーちゃん?あ!フリーズしてる!兄ちゃん!』
慌ててお兄ちゃんの承くんにどうしよう!って聞く望ちゃん。
信頼されてるお兄ちゃんなんだなって何故か私が誇らしくなる。
承くんは、瞬時に、
承『望!踊って!ひーちゃんに見本見せて!
俺、歌う!』
キョトンとするひーちゃんは確かに可愛いけどそれどころでは無い!
承『1人!1人!慰めるように♪
誰かが呼んでる♪』
大きな声で承くんが歌う!
みんなの前で、観覧席の最前列で!
望ちゃんも大きな動作で踊ってひーちゃんに見せようと兄妹はひーちゃんに精一杯の鼓舞をする!
(良い兄妹だなぁ…!)
私泣きそう。
承くんはひーちゃんを見ながら歌う、落ち着いて?大丈夫。
ひーちゃんと目があったのか声のボリュームは下げて歌うよ。
優しい目で、ひーちゃんを見ながら。
その横顔に胸がきゅー!ってする。
承『喜びを、数えたら、あなたでいっぱい♪
帰り道を照らしたのは♪思い出のかげぼうし♪』
(喜びを数えたらあなたでいっぱい…か…。そして、帰り道を照らしたのは思い出のかげぼうし。)
胸に刺さった。さっきのあなたに逢いたいもそうだけど歌ってその時の心情に刺さる事がある。
一生懸命に歌い踊る弟にそれをフォローする兄姉。
お遊戯会で家族が園児をフォローするのは御法度な気もするけどせざるを得ない気持ちは痛いほどわかるよ。
その後はひーちゃん完全に立ち直り、見事に歌い踊って見せて立花家や私を感動させてくれた。
立花家は泣き始めた望ちゃんを見て、承くんが涙ポロポロからどんどん伝染!
最終的にみんな号泣って大惨事!宏介くんはちょっと泣いた時点で立花家を見ない事にした。なるほど。
本当に素敵な時間だった、
【喜びを数えたらあなたでいっぱい】
このフレーズが承くんの声で数日ずっと私の胸で鳴り響いていたんだよ。
☆ ☆ ☆
年少さんのお遊戯を終えて、家族が号泣してるのを見てビックリしたひーちゃん。
でも、それは素敵だったからって宏介くんに教えて貰って誇らしげなひーちゃん!
家族席から出た直後に、ご家族は歌ったり踊ったりしないでくださいね?って美人の保母さん先生に優しく諭されて、真っ赤になって謝る兄ちゃんを菓子ちゃんがジト目で脇腹つねっていたのをひーちゃんは知らない。
さて、それぞれ競技で入着した子には手製のメダルが配られる。
この運動会で配られるメダルはひーちゃん達年少さんが
ダンボールを切り抜いて作った丸型からさらに先生が厳選した最高の丸型に年長さんが折り紙を貼り付けて、年中さんが紐を付けるという、皆で作った栄誉のメダル!
幼稚園に通う園児垂涎の憧れアイテムなのだ。
1位から3位まで金、銀、赤の3種類。
午前競技を終えて、メダル獲得出来なかった園児には先生が色々な理由を付けてそれ以外の色々な色のメダルを手渡しているんだ。
だけどやっぱりその3色は栄誉の証。
特に金銀は特別感!他の色とは違うのだ!
ひーちゃんの胸には金メダルが2枚ぶら下がってる。ねえちゃんが、にいちゃんと菓子ちゃんがぼくのために勝ち取ってくれた!
それがひーちゃんには誇らしい!
そんなひーちゃんに同じチューリップ組のお友達が話しかける、
『なんだよ!走らなかったくせにメダル2まいもつけやがって!』
『しかも金いろ!』
『ひー!金いろメダルよこせよ!』
心臓のハンデで他人と違うって事は目立ってしまうということ、
好きで走れないわけでは無いし、本当は競技に出たい!
それが特別扱いを受けてる!って思われてこうやって絡まれちゃう事もままある事なんだ。
それでもひーちゃんはケンカはしたく無い。
怖いし、悲しいし、みんなと仲良くしたいしね。
ひー『これはだいじなの。ダメだよ。』
首を振り、ひーちゃんは断るよ。
『じぶんの力じゃないだろ!』
『ズルだろ!』
『おまえのねえちゃんはあのおっぱい無いほうだろ?』
二人三脚の事を言ってる?
香椎さんは美人過ぎて目立っちゃうのかな。
姉の望ちゃんじゃ無いってちゃんとわかってたんだね?
部外者だからズルじゃないか?というクレーム。
…ルール的にはどうなんだろう?
ひーちゃんは胸を張って主張するよ。
『かしちゃんはね?にいちゃんの【かのじょ】なの!だからいいの!』
ひーちゃんはそう思ってる。
前にお姉ちゃんが、
望『菓子ちゃんは兄ちゃんの『何』かって?
…!
彼女!彼女なの!
お互いに好き同士でね?仲良しでしょ?
まあ見切り発車だけど。彼女って思ってて良いよ?』
みきり?はっしゃ?
はっしゃしんこう!みたいなかんじかな?
彼女は家族なの?
レギュレーションについて絡んできた3人と話初めるひーちゃん。
『ぼくのにいちゃん彼女なんていない!』
『じゃあ、いとこもいいのかな?』
『いとこのお姉ちゃんもありかな?』
『お母さんのいもうとは?』
『…それはおばさんっていうんじゃない?』
『えー?ちゅうがくせいなのにおばさん?!』
『『むずかしい…?』』
ひーちゃんはなんでも話し合いで解決するよ。
絡まれてたけど気付くと一緒になって4人で考え込んじゃうよ。
ニナ『こらー!ひーちゃんをいじめちゃダメー!』
目のぱっちりした、可愛い女の子が怒りながら3人とひーちゃんの間に割って入る。
ニナちゃん。それが彼女の名前。
秘密だけどニナちゃんはひーちゃんが好き。
なんのかんの理由を付けてひーちゃんのお世話をしてあげる。
実はひーちゃん、ニナちゃんがちょっと苦手。
もうケンカしてないよ?って説明すると、
ニナ『もう!ひーちゃんには私がついてないとダメなんだから!』
ちょっと頬を染め、モジモジしながらひーちゃんをチラチラ。
ニナちゃんは悪い子じゃ無い、でも苦手。
だって、子供扱いするんだもん。
やっぱり菓子ちゃんやおっぱいちゃんやツンデレちゃんみたいなお姉さんが好きだなぁってひーちゃんは思っちゃう。
☆ ☆ ☆
お遊戯を見た後、宏介は帰るって。
望も最後の校歌まで時間があるし、ちょっと家に戻るって言って離席した。
ジジババも疲れて家に帰る。
隣の敷物では両親の間にひーちゃんが挟まり、楽しそうに親子の語らい。
もう一枚の敷物では承と玲奈が飽きずにのんびり、語り合う。
最後の校歌の合唱が終わり、解散。
敷物丸めて、撤収開始。
みんなに挨拶して玲奈は帰ろうとする。
『あ、香椎さん!送るよ!』
『…じゃ、そこまで?』
無言で、小学校の横を通り、歩道橋を渡る。
この歩道橋の入り口でいつもふたりは別れていた。
だから歩道橋を一緒に渡るのは結構珍しい。
歩道橋を渡り切る頃に、
『…うん、ここまででいいよ?』
寂しそうに玲奈は微笑む。
承は何かを言いかける、
『ん、うん、あのさ。』
『何、かな?』
承は顔を伏せ、バッと上げると玲奈の目を見ながら少し大きな声で、
『あの、玲奈さん!
アドレス、ロインのアドレス!
…教えてくれない?』
玲奈は、パッと顔を輝かせると、
ニコニコ笑顔で嬉しそうに頷く、
『うん!』
こうして、やっと、やっとふたりはアドレスを交換した。
☆ ☆ ☆
やっとふたりの回線が繋がりました。
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