第221話 並んで座るよ【side香椎玲奈】
もしこれがラブコメとかだったら主人公とヒロインふたりきりで座って語り合うってちょくちょくあるシチュエーションだと思うんだ。
…美術室使えなくなってから一度も無いんだよ?信じられる?
☆ ☆ ☆
承『なんで?
なんでここに?』
私は招待状のポストカードを取り出す。
『ふふー!ひーちゃんに招待状されたんだよ!』
まじまじと私の顔、招待状を見比べて、承くんはちょっと呆然としながら、
承『こないだは急いでてごめんね。』
『ううん、急いでるのに呼び止めて…。』
…なんか気まずい…
しっかり話すの久しぶりだからかな?
後ろめたい事があるからかな?
『『あの!』』
これ!
『『どうぞ?』』
また始まったよ!
息合っちゃうやつ!
承『…香椎さんからどうぞ?』
承くんは大きく息を吸うと、譲ってくれた。
なら!最初にすることは!
『あのね、承くん。
あの、その、彼氏が出来たっていうのはね?嘘なんだよ…?』
少し反応怖いな。
承くん嘘とか嫌いそう。
承くんは混乱してる。
承『えっ?でも?皆んながそう言ってて?
俺も同級生や?宏介も噂を聞いてて?』
『嘘なの!本当だよ!』
承『嘘なのに…?本当とは…?』
紛らわしい言い方しちゃったよぅ!
日本語難しい!
私は1から説明する、また告白されて困った事、それを抑止する為に偽彼氏を…彼氏がいる事にしちゃえ!って。
でも裏目に出て、告白止まらないのに彼氏が出来たって噂だけ一人歩きしちゃって?
…しかし、もっととんでもない事実があるよ…!
…言えない…。
承『香椎さんらしくないね?
策士、策に溺れるって言うけど…。』
私もそう思うよ!
ここで園内放送が鳴り響く。
園内放送『次の競技!父兄参加のおんぶ競争にエントリーされた園児のご家族様!
受付横の白線の枠内に園児と一緒に待機お願いします!』
承くんは、あ!って顔して、
承『あ!俺これ出るの!
香椎さん、ごめん!』
しょうがないよね、ここで待たせてもらおうかな?
今日は時間がある、久しぶりに…承くんとお話しできるよ!
横から望ちゃんがニマニマしながら、
望『あー!いいよいいよ!
兄ちゃん!あたしがおんぶ競争出るよ!』
望ちゃんが気付いたら横に居たよ!
望『兄ちゃん!さっきからあたし横に居たんですけどー!
ふたりとも全然気付かないの!
ひどく無い?いいよ!ひーちゃんに癒してもらうから!』
望ちゃんは私に耳元で、
望『久しぶりに兄ちゃんとゆっくり話してください♪』
って囁くとぴゅー!って走って行った。
園児の家族なら続柄とかは何でも良いらしい。
エントリー席を見てると大体お父さんみたいだけど望ちゃん?大丈夫かな?
望ちゃんが気を使ってくれたおかげでふたりで話しが出来る。
…でも隣の敷物皆んな立花家だ!
『承くんの同級生の香椎玲奈です。
望ちゃんともテニス部で一緒でした。』
挨拶すると承くん家族は大賑わい!
父『え?!承こんな可愛い子と友達なのか?!それとも彼女?』
母『あらー!綺麗になって!』
祖母『着物作りに来た以来だね?元気そうで。』
祖父『承くんのお嫁さんにならないかな?』
全部に『はい』と答えたいよ!
綺麗になって!に『はい』はちょっと自意識過剰だよね。
まあ笑顔で濁しつつ、あいさつ!
隣敷物に戻って承に続きの話し。
私は誰とも付き合ってないよ!
承くんは?
…俺も誰とも付き合ってないよ?
(良かったー!良かったよー!!)
ふーん。そうなんだ?
高校どう?
香椎さんは?
子供をおんぶしてお父さんが走る!
意外と見てて楽しい!
次!望ちゃんとひーちゃん!
よーーい!どん!!!
望ちゃん!並いるお父さんを引き離す!
ひーちゃんが、
ひー『ねえちゃん!ねえちゃーん!!』
望『ひーちゃん!舌噛むよ!口閉じて!』
ぴゅー!って望ちゃんは1番にリボンを切ってゴールした!
さすが!
望ちゃんは一位でメダル?を受け取る為なかなか帰ってこない。
好都合!
私と承くんはレースを見ながらチラチラ互いを見て、近況や最近の話をする。
たった半年、でもこの半年が私達を隔てたものは大きい。
今まではずっと同じ学校に通って同じクラスで過ごしてたのが違う学校で違う通学手段で放っておくとまったく関わり合いが無くなってしまうのだ。
中学生の頃想定してたけど本当にそうなっちゃったね。
それでも、互いの隙間を埋めるように、小さい事、大きい事なんでも思いつくまま語り合う。
向かい合ってじゃない、走ってる親子を見ながらぼんやり話す。
話題は尽きないし、さっきまであった気まずさはもうすっかり無くなってて。
あの美術室で語り合っていた頃みたいな取り止めの無い話しや最近感じた事に思った事。
アルバイトをしてるって聞いたけど…お仕事の話しすっごく面白くって、興味深い。なにより大人っぽくなった承くんの横顔から目が離せない!
気づくと20分位話してる。たった20分。
でも私にとってはずっとずっと待ち焦がれていた時間だった。
暖かくって、優しい、嬉しい時間。
この胸の高鳴りは他の人では感じない。
私はやっぱり、承君が好き、大好き!
…承くんは私をどう思っているのだろう?
中学生の頃から何度となく湧いた問いに答えが出た事は無い。
まして、今の私、婚約者のようなものが居る私にはなおさら聞けない。
いつか現実と向き合い、承くんに本当の事を話さなきゃいけなくなるかもしれない。
その時はどうなってしまうんだろう?
…でも、今だけ良いか。
いつか何とかしてまた承くんの隣を勝ち取るけど…。
今は少しだけこのまま一緒に居たい。
真面目な話し、将来の話し、自分の周り話し、そんな事は置いておいて。
今だけ、今だけ一緒。
こんな今がずっと、ずーっと続けば良いのにな…。
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