第220話 お遊戯運動会!

9月2週、日曜日。

弟のひーちゃんの通う新川幼稚園では、お遊戯運動会なる催しがある。

午前中は運動会!午後はお遊戯会というカーニバルな1日。



家族に昨日ひーちゃんのクレヨン手書きの招待状が手渡された。

ひとりひとりに宛名を書き一生懸命書いたであろう文面が兄を、姉を、家族を泣かせた。

ひーちゃんのクラスの出し物は歌とダンスらしく、夏休みにひーちゃんは一生懸命に練習していた。

206話 ひーちゃんの夏休み参照


ひーちゃんは生まれつきの心臓の疾患で全力で走ったり、30分以上の運動は禁止されている。

それでも休みを挟みながらずーっと練習してる姿に家族は涙を止められない。


もちろん、ひーちゃんには何も知らない体ですごす。

ひーちゃんはサプライズで踊って家族の喜ぶ姿を見せたいのだ。

なら家族は知らないフリしてやらねばならない。

お父さんは休暇を申請し、お母さんも休みをとってお弁当作りに気合いを入れる。望も俺も予定はことごとくキャンセル!

紅緒さんにおすすめラーメン連れて行って!って頼まれたけどこれがあるから伊勢さんと行ってもらった



前日、


爺『わし、ひーちゃんの晴れ舞台1番良い席で見たいから4時から場所取りしてくる。』


朝5時、


婆『家族全員ゆったり過ごせるようにもう一個敷物出してわたしも場所取りしてくる。』



7時


『じじ、ばば交代しよ?』

望『あたしも兄ちゃんも朝ごはん食べてきた!』


こうして継投策で立花家は敷物2枚を1番良い場所に敷き場所取り万全!

まあ幼稚園はうちから見えるすぐそこなんだけどね?



ひーちゃんは朝8時30分に通園、体操服に水色タオルを首に巻き、水筒を襷掛けにかけて気合い充分!



ひー『あ!にいちゃん!ねえちゃん!』


手を振る兄妹!



9:00いよいよ始まる。

種目は


開会式


学年別のかけっこ

父兄参加のおんぶ競争

全員参加のクラス対抗玉入れ

パン食い障害物競走

父兄参加の二人三脚


昼食


年少さんお遊戯

年中さんお遊戯

年長さんお遊戯

全員で校歌?幼稚園の歌を斉唱

夕方前には終わる感じ。

父さんも久々にカメラとデジタルビデオカメラ?みたいの引っ張り出して立花家はもう朝から臨戦体制!


望は顔を曇らせながら、


望『かけっことパン食い競争はひーちゃん出れないから…。

午前ひーちゃんが出るのは玉入れだけかあ。』


ひーちゃんも残念がってた。

しかし!



『俺がおんぶ競争出る。』


ひーちゃんをおんぶして競争でしょ?

俺、必死で走るよ!ひーちゃんに1着を!


望『じゃあ!兄ちゃんあたしと二人三脚も出よう!』


『もちろんだ!兄と姉の勇姿を見せる!』



俺と望はひーちゃんの為燃えていた!

ひーちゃんは午後のお遊戯会を見せ場だと考えている。

俺たちは午前にもひーちゃんの見せ場を作りたい!



開会式…良い場所でも全然面白く無い。

園長先生のお婆さんの話長い。

どこも一緒なんだね。



9:30

かけっこが始まる。

年少さんからスタートだけど、うちのひーちゃんは心臓のハンデあるから出場出来ない…。



待機場所のクラス別の椅子が集まる場所にひとりぽつんと座るひーちゃん。

良い子に、静かに、羨ましそうにかけっこするみんなを眺めてる。


ひーちゃんの悲しい顔に歯噛みする立花兄妹。


敷物2枚が立花家の領地。

一枚に爺婆父さん、母さん、座布団まで持ち込んで。他に道具類に父さんのカメラ、ビデオカメラ。

もう一枚に俺、望にお弁当、お茶ポッド。ひーちゃんの為競技に参加する為タオルや水筒なども用意。パラソルは遠慮してくれって言われちゃった。

敷物のスペースには余裕がある。

ひーちゃんが休憩時間やお昼休みにはやってくる!



俺も望もジャージ!やる気まんまん!

ひーちゃんに勝利を!バカな兄妹である。



かけっこは順次消化していく。

着順のフラッグに並んで座って順位メダルを貰うためみんな待ってる。



それをぼんやり眺める。早くひーちゃんの玉入れ始まらないかな?

まあ先におんぶ競争か?


エントリーしてるからもう少ししたら移動して準備。

ひーちゃん喜ぶかな?ビックリするかな?


実は!ひーちゃんビックリした顔可愛いんだ。

いやほんとにキョトン顔なんか最高に!可愛いの!

兄はクスクス笑っちゃう。



??『ふふー!お兄ちゃんの顔だね?』



???

なんで?

俺はいつものフレーズを口にしてしまう。



『ちょっと何言ってるかわからない。』


あれほど会いたかったあの娘はぷんすこぷんすこ!


香椎『なんで?わかるでしょ!

…承くんは変わらないね。』



香椎玲奈は相変わらずキラキラと輝いていて、見る者を惹きつける笑顔でそこに立っていた。

なんで?なんで幼稚園に居るの?

俺は香椎さんがここに居る理由がわからなくって本当にフリーズした。




☆ ☆ ☆

招待  side香椎玲奈


『ただいまー。』


新学期が始まり、普通の日々。

クラスにトラブルは無く、部活も順調。

うざい告白も落ち着いて取り敢えず問題は私生活だけ。


夏休みも承くんには会えず仕舞い。

なんか会う口実…口実がほしい。

でも…会っても何を言えば?何と言えば?

どう説明する?説明したらなおさら離れちゃうよ。

そんな矛盾を抱えていたんだよ。


『おかえりー!』


今日はママ休みだっけ?

ママが会社に復帰してから会社は少し調子が上がったらしい。

このまま上手くいけば良い。



『あ、玲奈お手紙?来てるよ?

玲奈もすみに置けないね?あんなにダンディな男の人に…?』



ママがふふ!って笑う。ダンディ?


封筒にポストカードみたいなのが入ってる?


取り出して見てみる、




『かしちゃんへ


9月○日、しんかわようちえんでおゆうぎうんどうかいがあります。

いつもクッキーとかありがとう。おいしいです。

にいちゃんとねえちゃんにひみつでしょうたいします。

いつもにいちゃんとねえちゃんとなかよくしてくれてありがとうござます。


ひみつなんだけどおどりをおどります、みにきてね。


たちばな ひかる』



何これ?きゅーんってする!

お呼ばれしちゃった…。

ひーちゃんの招待じゃ断れないよね?


私はダンディな義弟承くんの弟くんからの招待状を持参して新川幼稚園に向かった。


あぁ、会いたかった。

会いたかった承くんがひーちゃんをお兄さんの目で優しく見つめてる。

これいつまでも見てられるやつだ…!



あの中学校の卒業式から約半年、私は久々に承くんと話す機会を得た…!

こないだちょっとだけ会ったけど、ほとんど会話できなくて。

承くんは私に彼氏が出来たと思っていて、私は一緒の子が彼女だと思い込んだ。

でも真相はどっちも違った!

…しかし私には暫定的婚約者候補もどき(仮)が出来てしまった。

私が婚約(仮仮仮)してるって知ったらあの義理堅い男の子は絶対に祝福して去っていく。

私は意を決して横から話しかける、



『ふふー!お兄ちゃんの顔だね?』


承くんびっくりしすぎてキョトン顔。

何これ?承くんのビックリした顔って可愛い…。

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