第201話 お金の使い道

夏休みに入り、数日。

バイト先の俺カレにて。



景虎『承は初めての給料日だな?先月半ば位からだから大した金額じゃねぇけど?』


景虎さんは申し訳無さそう?とんでもない!俺ここのバイト好き!


俺カレは月末締めの翌月25日払い。事務員が居ないから景虎夫妻でやってる。少し遅いくらいなんでも無い。





『こんなにある!』


大した額じゃ無いって言う人も多いかも知れない。

でも自分で働いて、初めて貰ったお金…。

重いなあ、重い。

無駄遣いなんか出来ない!でもなんか小さい贅沢?したい気もする。



そんなことを思いながら思案していると、




景虎『いいか、承。

お金の遣い方はその人の人間性だ。

正確には何をどう使うかわかるって感じか?

初めての給料お前は何に遣う?』



42,000円ちょっと。

そんな大したものは買えない。

なんに使う?いや、何に使いたい?


来月から振り込むけど初回は手渡しのが印象深いから!って手渡しでもらった。

初めてのお給料!ってるんるんだったはずなのに景虎さんの言葉がぐるぐる回る!

俺は何に使いたい?!さっきから同じ問いがぐるぐる!

月の小遣いが7000円の俺にとって42,000円は大金!

みんなは違うかもだけど俺にはね。



落としたらどうしよ!なんか怖い思いをしながら家にかえったんだ。

家に帰り、お土産のチキンカレーを望があふあふ食べる…いや太るぞ?


お風呂入ってスマホいじって。

寝る時にやっぱり初給料の使い方を考える。

何に使いたい?


思い浮かぶのは家族の顔と香椎さん…。







3日後、家族と一緒に俺カレへ向かう。

うちは7人家族。

父さんの車で父さんと祖父、祖母、俺。

母さんの軽自動車で母さん、望、ひーちゃん。


6時、まだ早めでそこまで混んでない。


景虎『へらっしゅー!』


望『本当だ!へらっしゅー!って言うんだ!』

ひー『ほんとだ!』



俺は迷った。迷ったけど初給料で家族をバイト先の俺のカレーとハンバーグへ招待して感謝を込めてご馳走することにしたんだ。

人数多いから奥の座敷席をまだ空いてるこの時間に取って貰った。



奥さん『はい、いらっしゃいませ。承くんのご家族ですよね?』


奥さんが応対してくれる奥さんももう時期妊娠五ヶ月。

ほんのりぽっこり。



母『はあい!息子がお世話になっています!』

父『承は迷惑かけてませんか?』


止めてよ!恥ずかしい!


景虎さんも出て来てくれて、


景虎『おい、承!

少し人手足りないから少しだけ手伝ってくれよ?

少し金額負けるからさ?』


パチンとウインクする、この人は…!

俺のバイトする光景を家族に見せようとして…!


俺は奥のバックヤードで着替えて、家族の元へ向かう。


『『おおお?!』』

ひー『にいちゃん!にいちゃん!かっこいいよぉ!』

望『大人みたい!』


家族大喜び!恥ずかしいよ!


俺カレの制服は白とグレーの縦縞シャツに細身の黒いスラックス。

光沢のある細身のベストに短い黒いタイをするので全体的にシュッとして見える。

バイト中は少しワックスで毛先をいじって明るい感じの自分であれ!と言い聞かせる。

家族のオーダーを聞いて、他テーブルを回る間も家族が全員で座敷席からフロアの俺を見てるから俺恥ずかしい!



そして出来上がったハンバーグやカレーを家族席へ持って行く!


望『うわあ!』

ひー『わぁお!すごいねー!』



家族大喜び!

俺の初めて給料でご馳走したいって言うとみんな承が稼いだお金だから貯金しなさい!って言った。

でも、俺は家族が1番大事で、家族に何かしたい!って思ってたからバイト先を見せるしご馳走したいって押し切った。


望はダブルハンバーグセットにチョコパフェを頼んだ。紅緒さんと同じ組み合わせだ。

ひーちゃんはお子様ハンバーグセットにストロベリーシェイク。

父さんはデミグラスハンバーグセット、母さんはチキンカレーに温玉サラダ。

爺ちゃんはハンバーグカレー。俺から聞いて食べてみたかったんだって。

婆ちゃんはおろしハンバーグにサラダ。

俺もハンバーグカレー!


着替えて戻るとみんな美味しい美味しいって喜んでくれて胸がいっぱいになった。


景虎さんが気づいたら居て父さん母さんと話し込んでた。

奥さんに望が話かけてて、


望『お腹触らせて貰っても良いですか?』

ひー『ひーも!』



うわぁ、すごいね!姉弟大興奮!


ひー『げんきにうまれてくれるのまってるよ!がんばってね!』


奥さん『ふふ、ひーちゃん、ありがとう!』


ひー『ようちえんで聞いたの!

ママとあかちゃんはふあんだからだいじょうぶだよ、こわくないよ!

まってるよってつたえて、

ぶじをいのってなでてあげてね!ってせんせいが言ってたのー!』



望もおくさんもひーちゃんを抱きしめてた。

うちの弟すごいだろ?無理矢理癒すんだぜ?


景虎さんと父さんたちもお互いにお礼を言い合う優しい世界で見てて恥ずかしいよ!



父さんも母さんも本当に喜び、景虎さんみたいな大人に初めてのアルバイト見てもらえて本当によかったって言ってた。俺もそう思う。



みんな食べ終わった。もうじき俺カレは混んでくる。

そろそろ帰らないと…。



会計コーナーには景虎さん、忙しい時間なのに?



景虎『承、お前の初任給の使い方見せて貰った。

家族みんな笑顔だったな?良いお金の使い道だったんじゃねえ?』



景虎さんは人好きのするそのワイルドな笑顔で俺を褒めてくれて、俺は恥ずかしくなっちゃって、照れ隠しにさっきの言葉を追求した。



『さっき、金額負けてくれるって言ってたじゃないすか?』


景虎さんはおまけしすぎてよく奥さんに叱られてるw


景虎『えー?負けた方が良い?』


どうしよ?って顔で聞いてくる。


『もちろん負けてくださいよ!』



すると景虎さんは爽やかな顔で俺に向かって握手を求める。

思わずその手を取り、握手してしまうと、




景虎『お前の勝ちだ!』



『いや、負けてくれってそうゆう意味じゃない!

それサンドイッチマンのやつ!』



思わず突っ込んで景虎さんと大笑いした。

けっこう負けてくれた。あとで奥さんに叱られたんじゃ…?



本当に家族みんなが喜んでくれて俺は嬉しかった。

バイトしてるとこ見れて良かったって爺婆も泣きそうな笑いを浮かべてた。

もう大人なんだぜ?そう言いつつまだまだ俺は子供なんだって痛感するんだ。



来月からいくらか家計に入れる事を約束した。

残ったお金で、景虎さんが負けてくれたお金で、俺は小さいプレゼントを買った。

買ってしまった。

渡す予定なんか無いし、渡さない方が良いのかもしれない。

それでも俺は買わずにはいれなかった。

いつ渡す予定も無く『それ』は机に仕舞われる、いつか日の光を浴びるのを『それ』は待ち続けてる。

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