第196話 歩き遠足と永遠
さて、7月上旬の暑くなろうかと言うこの時期に我が校では『歩き遠足』って和む響きのフィジカルフェスタがある。
特に目的も無く、戦時中の先輩の故事に習って指定の2キロのウェイトをリュックに入れて、何ヶ所かあるチェックポイントで指定のしおりにスタンプ貰って、1日かけて往復約18km歩いて戻ってくるって言う狂気のイベント。昔は25kmだったらしい。
歩き遠足って名称は詐欺だからやめた方が良いと思う。
学校近くからずーーーっと伸びる農道をひたすら歩く、農閑期だから通行量はほぼ無く、警察に道路使用許可までとって行うこの行事。
先生達も総出で忙しい。
保健委員、体育委員、俺たちクラス委員長も駆り出されて、説明準備におおわらわ!
何ヶ所か給水スポットや休憩所を作成し、ギブアップすれば先生の車で高校まで帰してくれる。
この時代に骨太なフィジカル重視のイベント。完くんが喜びそう!どうしてるかな?
『承くん!準備できた!』
あのお使い以来、紅緒さんは俺を『承くん』って呼ぶようになった。
恥ずかしいし、みんな聞かれると…って言ったけど、
『別に人に聞かれたって良いでしょう?』
って真っ赤になりながら言うんだ。俺が良く無いって言ってもダメだった。
…その日、久々に香椎さんに再会した。
香椎さん大人っぽくなってた。また綺麗になってた。
なんとか謝ることは出来たけど…まだ少し怒ってた…。
でも彼氏さん出来たんだもん。
…香椎さんが幸せだったら良いよね?結局、アドレス聞かなかった。
いや、それで良い、その方が良い。
さて、それより!歩き遠足!
18km歩くにおいて必要なものは弁当と水分に尽きる。
給水ポイントが4ヶ所あるけどもちろん自分でも水筒を用意して歩くわけだが荷物の重さもあるし準備出来るものは基本無い。
準備は人それぞれで、ウオーキングシューズを新調するもの、イベントを勘違いして変な物を持ち込もうとするものさまざまで。
学校指定の半袖か長袖ジャージを着用が規定。
クラス委員長としては事故無く終わってくれたらそれで良い。
紅緒さんは、
紅緒『私は参加出来ないけど!みんな頑張って!』
みんなを力付けて回っている!
紅緒さんは保健委員と一緒に救護班として先生の車に同乗したり、給水コーナーで雑事を手伝う事になっている。紅緒さんは真面目にくるくる動き回ってる。
稲田『良いね!こんな元気なのに!歩き遠足は免除だなんて!』
津南『うらやましいw』
『うちも給水コーナーに居たい!』
あははははは!!
紅緒さんは申し訳無さそうに、
紅緒『…。
体調と水分補給には気をつけてね…?』
稲田『そりゃ気をつけるわよ!
歩くのは私たちだもの!』
相変わらず、稲田さんは紅緒さんにキツく当たる。
でも、紅緒さんはひとり、ひとりに声をかける。
突き放す者、無関心な者色々居るけど全員に声をかけて回った。
お疲れ様、全体で話したからそこまでしなくても良かったのに?俺がそう言うと、
紅緒『イベントテンション上がらない?
私なんでも初めてだから楽しくて仕方ない!
私だけ歩かないのも事実だし…ね?』
寂しそうに笑う紅緒さん。
でもテンションも上がってる。
そっかあ。
…うん。
しばらくしてスタートが近づく。競争では無いので緩いスタートだけど、全校生徒が揃ってるからすごい人数!
いつもの面子で話していると…
久々に小石を見た!めっちゃはしゃいでる!8組なんだっけ?校舎が別だから知らない顔ぶればかり!
一年は仮設校舎と本校舎に別れてるから同学年でも知らない顔ぶれは多いんだ。部活もやってないしね。
俺も知らない一年生を見ちゃうし、髪の長いメガネの一年男子がじっとこっちを見てる、紅緒さんの美人っぷりや伊勢さん派手可愛いから注目浴びやすい!
小石が気づいた!
小石『おい、立花!ってめちゃくちゃ美人!』
小石はビックリして紅緒さんを凝視する。
紅緒『誰?承くんの知り合い?』
小石『承の幼馴染の小石です!』
俺の学校話に出てくる人だと思ったのか紅緒さんは目をキラキラさせて好意的な対応になる。
紅緒『承くんの幼馴染?宏介くん?あっちゃん?』
違う、むしろ修学旅行で売られたり、中学入学初期にウザ絡みしてきた奴だよって言うと途端に興味を無くすどころか敵視しそう!
どうどう。
小石『俺の武勇伝話してないのかよ!』
そんなん無いでしょ?
伊勢『ほら!スタートっしょ?』
青井『お前ブレねえな?』
小石は青井に摘み出された。
いつもの面子でスタート前に話し込む。
青井は携帯食をいくつか持ち込んだ。
青井『これスポーツ羊羹って言ってトライアスロンとか登山とかにも持ち込む人多いガツンと来るカロリー食なんだぜ?』
ゴクリ、美味そう。
伊勢『あーし、日焼けしたく無いんですけどー?』
伊勢さんは水分を最低限に減らして軽量化。給水コーナーで水は支給されるしね。
長袖、長ズボン。女子は日焼けを嫌い同じように長袖で挑む者が多い。
でもおやつ結構持ち込んでる?あとサンバイザーにサングラスはジャージに似合わないよ?
仙道『人間はお互いに助け合い…。昼間は力が…。』
体力に自信の無い仙道はちょっと緊張してる?
それネズミ男が言ってたセリフじゃ無い?妖怪かよ!
青井『なんかあれば俺がフォローすっから!』
『『『青井!!』』』
こいつ頼れるイケメン!
『立花は何か持ち込んだん?』
『俺?俺は普通に軽量化しただけ。おにぎり2個とあと麦茶2本。』
青井『つまんね!』
いいじゃん!だって18kmだよ。ウェイト2kg背負うんだし少しでも軽い方があとが有利じゃない!
さて、スタート!
みんなゾロゾロ動き出す。
先頭集団は混雑を避ける為にハイペースで動き出すけど大半は長丁場だからゆっくり。
俺たちもゆっくり。
みんな出て行って、あとは俺たちとクラスの数人だけ。
がらんとなったスペースに残る俺たちに救護班の紅緒さんがびっくりしてる。
紅緒『承くん!みんな?どうしたの!みんなスタートしたわよ!』
人前で口調取り繕ってるw
俺は傍に居る先生に言う、
『じゃあ、べにおを借りていきます。』
先生『あいよ、ゆっくり!無理するなよ?』
成実『じゃあ、行こうか?とわわん!』
青井『ほら、遅くなっちまう、ゆっくりで良いからスタートしようぜ?』
慌てる紅緒さん。
紅緒『え?え?え?』
『じゃあゆっくり、少しだけ一緒に歩こうよ?紅緒さんのペースで良いからさ?わんこのさんぽ!』
紅緒『えー?!』
紅緒さんはもちろん歩き遠足に参加したかった。
でも、心臓が弱い彼女は急激に血圧が変動するような運動、30分以上の有酸素運動を基本的に禁じられている。だから検討するまでも無く棄権。
寂しそうだった紅緒さんを見てられなくて俺が企画!
30分だけ、最初のチェックポイントまでみんなと一緒に歩こうか?
担任の先生は伴走車の係でこの話をしたらなるほど!って驚き賛同してくれた!俺たち近くに居てくれる。もちろん異常を感じたら即中止する!
数人、紅緒さんと話してくれる人に話をしたら同じく賛同してくれたからこんなサプライズ!
紅緒さんは手荷物無しで歩き出す。俺がしおりは預かってる。
俺の隣で紅緒さんは歩きながら泣いている。
俺の肩をぽむぽむ叩きながら!
紅緒『むん!なんで!そんなに!私の!こと!わかるの!』
『まあいつも見てるしね?
だって思い出作りたいから協力しろって言ってたでしょ。』
『嬉しい、最初から、参加出来ないから、イベントの、補助、がむばる、っておも、って、たあ。』
泣くと負担大きいよ?
その後紅緒さんはみんなと一通り一緒に歩いて、ありがとう、ありがとうって言って回った。
残ってくれた数人は皆んな優しい人ばかりで、見ててほっこりした。
そのあとは一塊りで歩いたりのんびり目に歩いたんだ。
みんなを一周して、紅緒さんは戻って来た。
もう泣き止んでニッコニコだった。
女の子はやっぱり笑顔だね!
紅緒『ありがとう、承くん♪
救護が必要なら私を呼んでね!』
『縁起でも無いw』
スタートから30分経った。
スタートでもたついたから実質まだ30分は歩いていないはず…
ペースは下げるから、もう少しだけ!
紅緒さんに異常はすぐ伝えることは言ってあるし、俺たちも注意深く観察。
やっと!最初のチェックポイント!
紅緒さんはウキウキしてる!
預かってたしおりを渡すとスタンプを押してもらい、係の先生に冷えたペットボトルを一本もらう。
制限時間も過ぎたし、紅緒さんはここまで。頑張って歩いたね?
最後まで俺たちみんなに何度も何度も礼を言っていた。
泣きそうな笑顔で俺たちにペコって頭を下げると先生の運転するワンボックスカーに乗り込んだ。
さあ、遅れを取り戻そうか!
☆ ☆ ☆
先生『少しだけ一緒に歩けて良かったな?』
紅緒『ふぁい、ありがとう、ございましゅ。』
先生『今朝にな、立花が走り回って先生や養護教諭の先生に許可取ってまわってな?
なんか青春で良いな!』
紅緒『…ふぇ、ふぇえ、ふぁい…。』
紅緒は胸がいっぱいだった。嬉しくて涙が止まらない。
座席から後ろを振り返り、承の姿をじっと見つめる。
紅緒(承くん、ありがとう、みんなと一緒に歩けるなんて思ってもいなかったよ…)
あんな風にみんなと歩きたかった、学校イベントなんてほぼ初めてだった。
リタイアは残念だけど参加も出来ないって諦めていたから嬉しくて嬉しくてたまらない!
私は承くんに一緒に歩いてくれたみんなに感謝が溢れちゃいそうだ!
みんな大好き!そう思いながらも視線はその男の子から外さない。
紅緒永遠は恋が楽しくてたまらない。
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