第192話 あわわわ紅緒さん

襲撃に遭って、一発津南に殴られて。

温和な俺も火がついちゃって。頬と鼻の間辺りが熱を持つ。

絶対、絶対に仕返しする!そう誓う。



イライラしながら倒した自転車の位置を直していると、



保健室に寄る!って別れた紅緒さんが俺を見つけて小走りでこっちに来る!

心臓に負担かかるから!走るなって!



紅緒さんはニッコニコで、



『どうしたの?バイトでしょ?

私の顔見てから行きたくなっちゃったのかしら?

…ん?頬…どうしたの?

赤いよー!!』



ニッコニコ→不審?→怪我!→痛そう!

あわあわするべにお。


説明面倒くさいし、バイトあるし。

行っちゃおう。



『別に、ちょっとぶつけた…。』



辺りを見まわし、自転車がまだ倒れてる、俺が自転車戻してるのが遠目で見えてたらしく、



『違うでしょ。

なんかあったんでしょう?

…手紙のあれ?誰かに襲われたの?!』


あわわわ!って感じの紅緒さんに少し苛立ってしまった、


『別に、紅緒さんには関係無いでしょ。』



紅緒さんは追求して来る、しつこい、こうゆう空気は読めない娘!

俺はため息をついて、軽く事情を説明した。

津南に待ち伏せされたこと。連れが4人居たこと。一発急に殴られたこと。

自分から派手に吹っ飛んで自転車倒して音立てたら逃げて行ったこと。


なんで説明したか?この娘は暴走する可能性があるから。

派手に嗅ぎ回って大事にしたり、紅緒さん自身が危ない目に遭うかもしれないから。

そこをよく言い聞かせる。

だからくれぐれも津南とのことに口挟んだり、首突っ込んだりしないでね!

強く言い聞かせる!



紅緒さんはどよーんって落ち込んだ顔して、俺に言う、


紅緒『…津南くんは度々私に遊び行こうとか、スイーツ食べに行こうとか誘って来るんだ。

テスト以降増えてはいるんだけどね、誘い。

…あ!全部!全部断ってるよ!』


紅緒さんはあたふた男の誘いを断ってるアピールしてくるけど…別に付き合ってる男居ないなら好きにしても良いんじゃん?

…でも、宏介みたいになるパターンもあるよね。

…紅緒さんは誠実な娘だよなあ。まあ俺に断りを入れる必要は無いが。



紅緒さんは話を続ける、要は結構津南から誘われてたけど俺をダシにして断ってたから俺にヘイトが向かったかも?私のせいだ?!って?


いやいや、もう最初の方から津南とは合わなくって、険悪だったし?別に気にしなくって良いよ?


紅緒『…でも…痛い?

ねえ、保健室に行こう?早く手当てした方が良いよ?』



面倒臭いなあ。

俺はイライラしていた。

油断して殴られた自分も、そんな些細なことで仲間4人も連れて襲撃する津南の汚さに。間抜けに殴られた自分の醜態にも。

もうバイトの時間!じゃあ俺、行くよ。



紅緒さんに言って俺はバイトに向かった。


17:30、俺カレ


『お疲れさまです!』


景虎『おっす!

…承、どうした?その顔?』


眉を顰めて景虎さん。



『いや…ちょっとぶつけて…。』



景虎さんは

『ぶつけてそんな顔しねえんだよ。

…気が向いたら話せよ?』


『…っす。』


景虎さんは昔結構不良だったんじゃ無いかな?って思う。

陽気で包容力があって、漢気がある。

でもどことなく荒事慣れしてる?ような雰囲気と…お客さんの客層!

景虎さんの知人、友人みんないかついの!

なんかそんな気がする…。



景虎さんは濡れタオルを放ってきて、


景虎『冷やしておけよ、その方が腫れねえ。

…でも明日以降痣になるぞそりゃあ?』



ホールはさせられねえなあ。景虎さんは呟く。

厨房に入ってきた奥さんが、


景虎『あなたが一番怪我だらけでしょ?』


違いない、夫婦で笑い合ってる。

俺顔が腫れてきたから、今日は厨房補佐で皿洗いと雑用をすることに。



しかし、10分もしないうちに。



奥さん『承くん?10番テーブルにオーダーお願い!』



『…?はい!』


手を拭いて、エプロンを外して、前掛けして、10番へ向かう。

まだ一回しかやってないフロアは緊張する。



『お待たせいたしました、ご注文お承りします…?

紅緒さん?』



紅緒さんはアタフタして、



紅緒『今日は!お客!お客さんだから!

フロアの女の人にお願いして、立花くんにオーダー来て貰ったわけじゃ無いから!』


犬だったら尻尾をブンブン振ってそうな雰囲気。

ここまで着いて来たんか…。

仕事場は迷惑になるから!注意しようとしたけど、


紅緒さんは挙動不審。

ソワソワしながら俺の頬を見たりバイトの制服をチラチラ見たり、赤くなったり、また頬を見たり気忙しい。



『ご注文は?』


『ほっぺ大丈夫?痛く無い?今日はバイト休んだ方が良いんじゃ無い?』


『注文しないなら…』


『わー!待って!するよ!するから!

…もう5時か…夜ご飯近いから…。』


流石に注文してくれないと職場に迷惑かかっちゃう!



紅緒さんは夕飯近いのにカレーとハンバーグの店に来て…どうする気だ?


『じゃあ、ビーフカレーとアイスクリーム。

夕飯前だからちょっとだけ…ね?』


いやいやがっつり食うやないかい!

まあ良いけど。



『ねえ、頬痛く無い?

テーブル席だけど向かいに座らない?』



『座らない。仕事あるもん。』


『じゃあ!じゃあ指名するよ!』


『ホストじゃねえよ!』


思わず突っ込んじゃう。


スタッフが客席に座れるわけないでしょ?

そう言ってオーダー飛ばして、厨房に帰る。


俺は厨房とフロア入り口を雑用で往復してる。

すると、紅緒さんがチラチラ、ソワソワずーっとこっちを見て気にしてる。

人間って他人からの視線が気になるもので俺すっごい落ち着かない。



厨房に戻って皿洗いしてると、奥さんが、



『承くん、そこの景虎の上着を着て?

それで?このクリームソーダを10番テーブルに持って行ってこう言うのよ…。』





…俺、オモチャにされてる!

これってパワハラじゃない?










俺は上着を着て10番テーブルへクリームソーダを持っていく。

紅緒さんの表情がパッと明るくなる。



そして、奥さんのワクテカしてる視線を感じながら口上を…




『ご指名ありがとうございます…SYOです!』



ぎゃはははははは!裏から景虎夫妻の笑い声がする。


『SYO君…ごめんね、私が無理言ってさっきの女性スタッフに…。』


あれが最高権力者のオーナー夫人である事を伝え、紅緒さんの向かいに座る。

奥さんと景虎さんがやってきて、



奥さん『じゃあ、彼女さん?

これ氷水含ませたタオル。これで冷やしてからこの軟膏をよく刷り込んでおけばいいわよ?』


景虎『明日休みにすっからな。彼女に手当してもらえ。今日は暇だからあがれ。

彼女ちゃんがずーっとこっち見てるから集中できねえよ!

タイムカードは8時まで働いた事にしてやっから、テーブルでいちゃいちゃしてよく手当して貰って今日は帰れ?』



2人はそう言って、厨房へ帰って行った。


『彼女に…見えるのかな?』


紅緒さんはまっかになりながら、ふふって笑う。

テーブル越しに手当してもらって考えることは、昔青井と喧嘩して保健室で香椎さんに手当してもらってた時のこと。


冷やして、軟膏塗って。

紅緒さんはクリームソーダを美味しそうに飲んでる。

俺も何か食べたいな…ってとこで今日の賄いもう作ってたから食ってけ!って言われてBLTサンドが出てきた!

紅緒さんが物欲しそうな顔してるから少し分けた。


『美味しい!賄い美味しいって聞いたけど本当だ!


…BLTサンドからTを取ったら…。

ゴクリ。

俺カレのBLサンド…なんか響きがスゴいね!!』


(※いつぞやのまさぽんたさんのコメントより引用!)


お前もう帰れ。

それ小幡さんが好きなやつ!


テーブル挟んで向かいあっていると、俺は柄にも無く照れてしまう。


紅緒さんは俺を心配してくれたんだよね

心配でバイト先まで押しかけてきて俺の怪我を気にしてくれて…。

良い娘だよなぁ。俺いつか紅緒さんを好きになってしまうんじゃ無いか?って不安になる。



俺は絶対今日の事は仕返しはする!

でも俺の惨めな気持ち、悔しい気持ちを紅緒わんこがその持ち前の天真爛漫で癒してくれた。

ありがとう、紅緒さん。

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