第190話 バイトのある光景

6月中旬。

こうして俺の新しい日々が始まる。

高校生活はひとまず安定。敵対してる津南たちも忙しいのか何もしてこないし、紅緒さんも落ち着いて来てトラブルも起こさない。

世間知らずだけど学習能力が高いからそうそう変な事はしでかさない。

…ただ変な目的男子に対しては手厳しい対応。あまり敵を作らないで欲しい。


放課後、半分は今まで通り紅緒さんと社会科教室でのんびり。

半分はアルバイト。


17:00〜22:00まで、『俺のカレーとハンバーグ』、略して『俺カレ』(紅緒さん命名)にてアルバイト。


紅緒『俺のカレとハンバーグって言いにくいね?

略しちゃおうか?

『俺カレ』

きゃー!!なんかすごくない?!』


『なにが?』


小幡さんが喜びそうな略称である。




バイト初日、俺カレ


ワイルド『へらっしゅー!

おう!来たな!』


ワイルドさんはオーナーシェフで景虎さん。景虎?!


『名前戦国武将見みたいで格好いいですね…!

越後の龍 長尾景虎みたいです!』


※長尾景虎…越後の戦国大名、後の上杉謙信。義の人、武田信玄との川中島の合戦、敵に塩を送るの話などエピソードたくさんの超有名武将。


景虎『お?わかるー?

君の立花も道雪とか宗茂とか良い苗字!』


武将トークで意気投合!

景虎さんは38歳の元自衛官で、数年の修行を経てこの俺カレをオープンしたんだって。

陽気でワイルド、筋骨隆々の魅力的なおじさん?おにいさん?

奥さんは美人!景虎さんの同級生でのメガネ美人でなんか少し小幡さんに似てる?妊娠3ヶ月で無理させたく無いんだって。

これまでは基本奥さんがホールを仕切ってて、厨房は景虎さん。

今日俺は言われた通り、皿洗いをメインにする。


油汚れがひどい物は軽く洗ってから食洗機にかけて。

食洗機から出たものをチェックしながら丹念に拭いて、食器棚へ戻す。


邪魔にならないように厨房を掃除したり、手が空けばホールの食器を下げたりそんな仕事!

大学生のバイトの人が数人、厨房スタッフが2人知らない人に混じって働くのは思ってた通り大変で。

だけど、今までと知らない世界!

お客様に対する心構え。同僚に対する心配り、目上、上司、先輩と立場が上の人に対する礼儀や言葉遣い。勉強になる。

俺はまだ子供で社会に出るって漠然とした考えだったけど痛感する。

当たり前だけどお金を稼ぐって大変な事。

父さんと母さんに感謝しかない。



あと衝撃だったのが、

賄いご飯が!味噌ラーメンだった!


しかも!美味いの!

ハンバーグかカレーなのかな?って楽しみにしてたんだけど、


景虎『あ?ハンバーグとカレーばっか作ってるんだから何か失敗しなけりゃ違うもん食いてえし?』


たまにミスオーダーとか在庫があまるとカレーやハンバーグも出るらしいけど。



…なるほど…そうゆうもんか?

でも、この味噌ラーメンめっちゃ美味い!

濃いめの旨みのある味噌にシコシコの太麺、メンマ多めに入ってて食感最高!旨みバンザイ!


『…ラーメン出したら良いんじゃ?』


バイト女子大生『はは!景虎さんは天才型なんだけど再現できない料理多いのよ?』


バイト男子大生『それな!以前もレシピ無くしたブイヤベースすごい美味かったのに再現できなくて奥さんに叱られてた!』



大変に陽キャが多く、俺馴染めるのかな?

でも、良い人が多そうな感じする。

1日目はめっちゃ疲れた!


家に帰ると家族が心配してて?どんなだったか家族に話すとホッとして喜んでくれた。


望『今度ひーちゃんと行きたい!』


『しばらくダメ。迷惑かけちゃうだろ?』


慣れるまでは見せたく無いよね?

お風呂入るとバッタンキュー。あんなに悩んでた香椎さんの事思い出す間もなく眠りについた。



次の日もバイトに入る!

16:30に入るとまだ混む時間には早く、ホールで景虎さんと奥さんと世間話。


景虎『高一だぜ?若いよなー!』


奥さん『私たちのころは…』


『へえ。そうだったんですね?』


景虎さんと奥さんは中学の同級生で、高一の頃は疎遠で全く関わり合いなかったんだって。高三で再会して、付き合いだして…って。

人の縁ってすごい。

で,

28位で結婚したんだけどなかなか子供出来なかったんだけど、待望の妊娠発覚!って事なんだって。




奥さん『だからバイト増やしたいんだよね。まだ動けるけどもう少ししたら私動けなくなっちゃうからね。』



奥さんは20代後半って言っても通じそうな美人さん。

小幡さんが柔らかく歳を取ったらこうなりそうな気がする。



奥さん『ところでさ、承くん?ホール出るならもちょっと仕上げて行きたいね?』


景虎『ああ、俺も思ってた!』



あれよあれよと裏へ連れて行かれて、髪型をいじられる。

サイドを刈り上げられて、髪を真ん中分けっぽくしてたのを前下がりで…って呟きながら奥さんが無造作にいじる。

ワックスなんて使った事無くて…全部やってもらった。


うーん、どうなの?

景虎さんは良いじゃん!って言うけど?

バイトの大学生が褒めてくれるんだから良いんだよね?


忙しくなってきたからバックヤード頑張る!

皿洗い以外にも何か取ってきて!とかホールに出して!とか昨日より少し出来る事が増えた!



家へ帰ると、


望『兄ちゃんが!今風になった!』


俺がお土産にもらった今日の賄い飯のハンバーガーをむしゃむしゃ食べながら望は俺を揶揄う。


望『ラブコメ小説で!モテない主人公が女の子か師匠ポジにカッコよくしてもらうパートだよね!

次はバイト先の先輩の綺麗なお姉さんが…。』



そんな事あるわけないっての。でもちょっと格好良い気がする。

手入れの方法だけ聞いたからこれを保持できるようにしたい。



次の日はバイト休み。


青井『おお!髪型変えたんだ?!良いじゃん!』


伊勢『本当だ!女の人の感性でしょ?!』


バイト先で整えて貰った話をする。

青井は賄い飯に興味深々。伊勢さんはスイーツに興味深々。

慣れたら遊びに来てよ?って話しながら高校へ向かうよ。




紅緒『おはよう立花くん!

…どうしたの?!』


いや、バイト先の奥さんに?いじられて?でもちょっと格好良く無い?



紅緒『…いいね!

でも、なんか、知らないとこで変わっちゃうの複雑だなぁ。』



確かに、知らないとこで香椎さんが変わっていっていたら俺はどう思う?複雑かもな。

…宏介もそうだったんだろうな。



仕事を早く覚えたいから次の日もバイトを入れてもらう。

今日は比較的暇で何事も無く昨日教えて貰った事を滞りなく出来た!

まだまだ気が利かなくって仕事が後手後手に回っちゃう。

先回りする機転、人に対する気配りまだまだ全然足りない。

雇って貰ってるんだから!もっと頑張れ!俺!

賄いはマグロの山かけ丼だった。



休憩中に景虎さんに聞いた、


『なんでまともに話ししたことの無い高校生を雇ったんですか?』


景虎『一緒に働くなら良い奴と働きたいじゃん?

親友の為に泣いて、一生懸命思いやれるやつが悪い奴なわけねえだろ?』


ニカって笑う、この人格好良く無い?


お土産にミスオーダーのおろしハンバーグをテイクアウト容器でお弁当にして貰った。

家に帰ると速攻で望に喰われた。

お前太るぞ?






今日、日曜日は休日初出勤!


どんなだろう?

日曜日はメンバーも結構違うから緊張する。

9:00オープンだけど8:45から毎日朝礼してるんだって。

俺は初めて出る、緊張!


景虎『承は朝礼初めてだよな?朝礼では伝達と挨拶の声出しをするんだ!』


最近はもう承って呼ばれてる。

伝達はなんかトラブルとか良かった事とかみんなで共有するんだって。

挨拶声出しはどうしても朝エンジンがかからないから、声を出して接客に弾みをつけようって。


挨拶は接客7大用語を景虎さんか奥さんが言うのを復唱するんだって。

初めて!

隣のバイト女子大生が『復唱するだけでいいよ』って教えてくれた!

なんでも『いかしおもあ』なんだって。これは場所で増えたり減ったりするけど基本的な言葉だそうな。



景虎『いらっしゃいませ!』


『『いらっしゃいませ!』』


俺は驚いた!

(普通に言えるんじゃん!)


景虎『かしこまりました!』


『『かしこまりました!』』


景虎『少々お待ちください!』


『『少々お待ちください!』』


景虎『お待たせいたしました!』


『『お待たせいたしました!』』


景虎『『申し訳ございません!』』


『『申し訳ございません!』』


景虎『ありがとうございます!』


『『ありがとうございます!』』



景虎『じゃあ、今日も一日よろしくお願いするぜ!』


『『よろしくお願いします!!』』


なるほど、いかしおもあは頭文字なんだね。

朝から声出すと確かに最初からスムーズに声が出る!

気合いも入って声も出る。

スムーズに接客用語がでるように練習にもなる。

理にかなってるな。感心する。

さあ!忙しくなるぞ!頑張ろう!



早速最初のお客様が入店するぞ!

あいさつ!





景虎『へらっしゅー!』




さっきのいらっしゃいませは何だったのか?!

俺は突っ込みたくって仕方ない!



日曜日は平日の2倍忙しくって大変だった。

よく聞くと先輩たちのうち何人かは


『へらっしゅー!』


って言ってる。

俺は染まらない…。そう誓った初夏の日曜日だった。

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