第179話 可愛い

紅緒永遠の症状や注意事項が弟の光と同じような事だったことで俺は紅緒さんを注意深く観察するようになった。

観察するようになったと言ってもそんなカブトムシの観察みたいな感じじゃなくって、ひーちゃんを見てる時のように自由にさせてるけども、

安全か?無理して無いか?考えさせる癖をつけよう!失敗したら自分で気づかせる!良いことしたら褒める!悪いことしたら叱る!

そんな感じ。


『…立花くん?

なんか、最近過保護過ぎない?』



気づいたか…。


『そんなことないよ。

紅緒おばあちゃんの介護してるだけ。』



『誰が要介護だ!』


紅緒さんは怒ってみせるが、そろそろ俺にはわかってきた。

これは怒ってない。くすぐったいというか素直に慣れない時の逆ギレみたいなもの。



『…なんで最近優しいの?

惚れちゃった?…んー最初に印象から比べたらあり…?』



『いや、そうゆうのいいから。』



『なんでよ!』



2人でゲラゲラ笑う。

この空気感と距離感は好きだなあ。

香椎さんとも、伊勢さんとも、小幡さんとも違う。


でもね、この娘がもしもひーちゃんの未来図のような存在なら。

もちろん別人だし、まだ決まったわけじゃ無いけども、ひーちゃんがたどる未来なら…。


俺は助けたい。

それを知ったら怒るかな?悲しむかな?

敢えて言う必要は無いでしょ。

出来れば紅緒さんが普通に学校生活を送れるようになって。幸せになればまたこっそり俺は去れば良い。

よく発展途上国への支援の話で出てくる、

魚を施すのではなく、魚を取る方法を教えるってやつだよね。


それにはどうしたら良い?

取り敢えず今やってる俺の学校生活思い出話…恥ずかしいし、色んな事を思い出すしくすぐったいんだけど学校生活の1ケースとして有効じゃ無いかな?


だから、俺は計画する。

紅緒永遠の学校生活をフォローしよう計画!


概要としては、

承の学校生活を教訓を交えて伝える。思い出話の形式をとって。

紅緒永遠の話を聞く。紅緒さんは会話に飢えていて、それの解消と彼女の事を知る。

クラス委員長としてフォロー、人と関わる仕事だから良い経験になるし、やり遂げれば自信にもなる!

悪い噂を打ち消し、友達を作る。味方が居れば全然学校生活は変わる!


その上で何か打ち込むもの。親友。彼氏。部活。趣味。そのどれか?複数でも良い、それを出来れば高校生活は青春の1ページとして少なかった貴重な学校生活として良い思い出になるよね!


悟られないように、フォローして最終的には俺は高一の頃一緒にクラス委員長やったよ。程度の慣れない頃結構助けて貰ったっていう?旧友みたいなポジで終われれば良いよね。

このノウハウはもしかして将来起こってしまったらひーちゃんが空白の学校生活から立ち戻る一助になるかも知れない。

そんな実験みたいな事を俺がしてるって知ったらきっと紅緒さんは失望するか激怒するだろうから、深入りせずに当たり障りなく関わっていく必要がある。



幸い、紅緒さんはモテモテでまだ地を知らない他クラス男子なら余裕で落とせる!今のうちに俺程度ではあるが人付き合いのなんたるかと取り繕う方法をなんとか!

そしたらすぐに俺の手を離れて行くんじゃ無い?



俺にしては良いアイデア!


その日も紅緒さんとたくさん話して、家に帰った後に相談に向かう。

もちろん宏介に!




宏介『…それ絶対拗れるやつ!』



聞くなり、宏介は呆れた目で俺を見る…なんでだ?


宏介が言うには、

絶対に思った以上に深入りしてしまって大変なことにになるぞ?って言われた。

いや、俺だよ?そんな大した事できないし、拗れるような事は…。


宏介『…絶対に!なるって!世間知らずなんでしょ?

第一、香椎さんがそんな美人に承がめっちゃ肩入れしてるって聞いたらどうするの?!』

※もう青井→小幡さん経由で知ってます。



宏介から俺も何か考えてみるから…無茶するなよな。

って釘を刺された。


流石宏介!

本当は宏介みたいな漢の方がこの役目は向いてると思うんだよね。

辛抱強く、出来るだけ口を出さない大人な漢。

宏介は先生とかむいてそうだよなあ。




そして、委員長業務の傍ら、紅緒さんとの会話は頻度を増し、相互理解は進んでいく。

ある時から紅緒さんはあまり自分の話をしなくなってきた。


話したく無いなら無理強いはしないよ!

俺の話で良ければゆっくりゆっくり話していく。


2年生の頃の話が終わり、3年生の頃の話が始まる。

修学旅行へ行った話し。



しかし、いつものように興味津々では無く、ため息をついたり、考え事したり。



『あんまり面白くなかったかな?』



『…ううん。

私の勝手な嫉妬みたいなものだから…。』



少し言い淀んだあと、言った、




『ううん、立花くんだから言うわよ。

…私には思い出が無い。


立花くんがこの修学旅行の時どんなにワクワクしてドキドキして、キュンキュンしたか、私にだってわかるし、伝わってきてる…。

でも、その頃、私は病院と家を往復して…モノクロな毎日を送っていて…。

羨ましい。もし、もし私も一緒に立花くんの班に居て…いや、意味無いね…。はは。』



そっか、思い出をなぞってるうちに…自分の思い出が無いって悲しくなっちゃったのかな?…辛い思いさせちゃった…。



ごめん!なんか違う話しようか?

俺はたわいも無い話を始める。

俺、たわいも無い話のプロだからね!



夕方のベンチ、周りに人は居なくてもの寂しい。

俯き加減の紅緒さんは意を決したように、俺に語りかける。



『ねえ、立花くん…誰にも言わなかったけど私には夢があるの。』


『うん?どんな夢?』


ゆっくり息を吐いて、つぶやくように、


『私には大きな夢があるの…それはまだ言えない。


…それ以外にいくつか小さな夢。

それを立花くんに聞いてもらいたいの。』



俺は頷く。



『ひとつは、学校生活を楽しんで思い出をたくさん作ること。

私の忘れられないような記憶を思い出をたくさん作りたい。



ふたつめはそんな思い出を共有して、一緒に泣いて笑って、過ごせる友達と彼氏が欲しい。色んな思い出を共有できて、いつ会ってもあの時は!みたいなね。



三つ目は先のふたつを持ち込んで卒業式に出ること。

…私、卒業式に出た事が無いの…幼稚園の卒園式は出たかもだけど記憶も定かじゃ無いし…。小学校も中学校も卒業式出た事無いのよね。』



紅緒さんの並々ならぬ気合いが伝わる。

そうゆう自分の『夢』を叶える為に東光高校へ入学したんだね。


紅緒『…出会ってまだ一月もたたないのだけれど、スタートで躓いた私には立花くんしか居ない。

私は君の思い出に憧れて嫉妬しちゃうよ。

ここでも同じように素敵な思い出を一緒に作るのを手伝ってくれないかな?』



そんな夢が…ああ、いいよ。

俺で良ければ手伝う。



『わかったよ、出来る限りは手伝うよ。』



紅緒さんは少し赤くなりながら俺に尋ねる。



『なんでそんなに私に良くしてくれるの?』



俺は少し考えて、



『ひーちゃんに似てるからかな?』

 

揶揄われたと思ったのか紅緒さんは揶揄い返そうと、



『ひーちゃんって弟くんでしょ。

可愛いって言ってたよね。私に似てるの?

つまり…私が可愛いの?』




ニマニマしながら紅緒さん、

弟の心臓の話…うーん、今じゃ無いよね…

ちょっと考え込みながらぼんやり返事する、






『(ひーちゃんは)すっごい可愛い。この世でいっちばん可愛いと思う!

…守りたい…!』




『えええ?!』






☆ ☆ ☆

承に自分の小さい夢を手伝ってもらう為紅緒永遠は彼女なりに必死にお願いをした。

永遠はそれを見返りなく簡単に引き受けてくれた承に感謝とちょっと好意を持ってる。

出会ってまだ少しだけどもクラス唯一の味方で信頼しているけど彼は私にそっけない。

からかってやろう!そんな嬉し恥ずかしで承に対して言った軽口に対する返事が、


承『(ひーちゃんは)すっごい可愛い。この世でいっちばん可愛いと思う!

…守りたい…!』


(…!

私のこと!可愛いって!すっごい可愛い!この世で一番可愛いって!

…守りたいの?!…だからそこまでしてくれるの?)



紅緒永遠は美人!綺麗!って言われ慣れてる。

でも家族以外から『可愛い』って言われ慣れていない。


永遠は他人に対して壁がある。

基本人に笑いかけない永遠は可愛いとはなかなか言われない。

チャラい口説き文句としてなら先日も何度も言われたが心は少しも動かない。


私…可愛いんだ…?立花くんはそう思ってくれてるの?



こうして、紅緒永遠は立花承をはっきり意識するようになる。

歯車はうまく噛み合っていない。

けれども快調に回り始める。

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